4章 ツインレイクの魔物

第1話


「どっわあああああーーーーーっ」


 俺、ヒューゴ。現在、森の中を爆走中。

 何故かって?そりゃあ、魔物に追いかけられているからだよ!

 それも木の魔物ときた。エルフと足の速さでタメを張る木って、わけわかんねえ!

「もっと速く走るのじゃああああ」

「だまっとけーーーーー!」

 俺の背中にしがみ付いてんのが、イライジャだ。楽してるわけじゃないよ。コイツの足じゃ、あっという間に追いつかれちまうからだ。頼むから首は絞めてくれるなよ。

 ひ、顔の横をなにかが飛んでいった。

 そこの木、ボコって、穴が開いたあ!

「あやつ、種を飛ばしおったぞ!」

「死ぬ!当たったら死ぬ!」

 ガンバレ、俺の足、方向変えろ、ちょっとでいいから。

 とにかくスピードだけは落せない。障害物だらけなのになんつー無茶振りだ。だけど、追いつかれたら本当に死ぬ。

 種だけじゃなくて、蔓も飛んでくるんだわ。元は何の植物か知らねえけど、ビューンと伸びる。でもって、高速でぶん回す。うえ、言ってるそばから、ピシッとかパシッとか。

 視界の端っこの低木が、すぱっと上半分吹きとんだ。

「ひええーーーーーっ」

「ぎゃわああーーーっ」

 ね、逃げるしかないっしょ?



 俺たち、イライジャの故郷を目指していたのさ。

 そこは、ファルスタルから南南東の方角なんだって。王都まで行って、そっち方面の主街道国道で行くのがセオリーらしい。ここでイライジャさん所有の地図が登場です。今までで一番詳しいね。それによれば、王都経由はめっちゃ大回りじゃあないですか。それぞれほぼ正三角形の頂点に位置する、と言えばお判りだろうか。

 なので、ショーットカットしました。道は他にもあるんだよ。

 ただ主街道国道じゃないから、魔物も多いし、道自体整備不良だったりする。

 でも変な追手はいない上、禁猟区も少なくて狩り放題ときた。いいねえ。イライジャは時々武器をぶっ放しちゃあ「最高じゃああーー」なんて叫んでるね。俺も弓や魔法で十分に狩りを十分楽しんでるよ。もちろん、常識の範囲内で。素材や魔石は、途中のギルドで売り払って、懐もホクホク。調子よく進んでいたのさ。


 今日も森に沿った道を歩いていたんだ。

 デデン、と道をふさいていたのが、あの、木の魔物。

 でかい、太い。そして何より、ヤバい。


 目が合ったとたん(どこにあるかわからんが)、木の魔物は突進してきた。

 俺たちが気付いた時はもう、ロックオン済だったんだろうさ。

 試しにウォーターボールをぶつけてみたが、枝で振り払いやがった。イライジャお得意の電撃も効かない。これは、俺たちじゃ倒せない、危険と判断して、森の中へ逃げ込んだんだ。

 相手は樹木、しかもでかいだろ。自由に動けるといっても、森の木々が邪魔になる。その間に距離を取って撤退できる、と踏んだんだよ。

 だがこやつ、予想に反して足は速いわ、邪魔する立ち木はみーんななぎ倒すわ、で、今まさに追いつかれそうっ。なんてこった。

 森の木って、同族じゃないのかい。違うのかい。走れない奴は、仲間じゃないんだね!


 バキバキバキッ、ズズーーーーン。

 何本もぶっ飛ばしやがったな。だが確かめている余裕はねえ。相変わらずジジイは、背中にしがみついている。絶対に手を離すなよ。落ちても回収できんからな。

 うわーー、また後方で、魔力が膨れ上がってきたあ。

「ヒューゴ!」

「わかってる!」

 

 いきなり、だった。急に目の前が開けた。

 視界一杯の青。

 空?湖?げ、地面がない!崖かっ!

 俺、今トップスピードだぞおお、止まれるかあーーーーっ。

「うわあああっ」そのまま崖から転げおち…るもんかっ。

「ばっかもーん。ワシにしがみつくな。」

「そんなこと言われてもっ。」

 ガッシとイライジャを抱え込んだ俺。ここで手を離したら、俺だけ真っ逆さまじゃん、それはいやだ!

 二人分の体重が掛かって、浮遊盤は大きく揺れた。けど、ちゃんと浮いてくれいてる。

 うわ、あっぶねえ、すぐ下を、木の魔物が滑り落ちていったあ。


 ドドーーーン。ガラガラ、ゴロゴロ、バッシャーーーーン。


 コイツも止まれなかったんだな。

 滑って、転がって、何本もの枝を折って、木の魔物は湖に落ちた。

 大きな水しぶきが上がり、湖面に波紋が広がった。

 そのままぷかりぷかりと浮かんでいるけど、ここからも見ても、ボロボロのズタズタ。さすがにもう動かない、よな?

 ほっとしたら、浮遊盤ががくんと下がった。

 うげ、落ち始めたぞっ。やっぱ、体重オーバー??

「ぎゃああああ」「ひいいいいいっ」

 天地逆転、地面が急速接近中。

 頭から墜落とか、ヤメテくれえええ。


「エ、エアクッション!」

 

 連続エアクッション。弾力のある空気の塊が、何度も俺たちを包み込んだ。おかげで、足場の悪い岸辺に、軟着陸できたぞ……。

 ま、間に合ってよかったあ。


「あーーー、肝が冷えたーー。」

「そりゃあワシのセリフじゃ!」

 イライジャさん、激おこである。

 あ、浮遊盤が変だ。爺さんを乗せたまま、くるくるくるくる回転中。オルゴールの人形みたい…。

「ううむ、こりゃあ修理せねば。」

「…ごめん、悪かった。」

「わかっとる、こっちも怒鳴ってすまんかったのう。」


 ウィーンと音を立てて、円盤も崖の上から帰還です。おかえりー。

 出したのはいいけれどさ、置いてきぼりにしちゃったもんね。

 元凶の木の魔物はというと、先ほどと様子が変わっていない。魔力も動いておらず、湖上に浮かんだまま。死んだかな?

「あれって売れる?」

「うむ、トレント材は高級品じゃな。」

!」

「葉や種は、薬や錬金の原料にもなる、かなりの希少品であるぞ。」

「じゃあ、拾っていこう。」

「同意じゃ。迷惑料は頂かんとな。」

「ごもっとも。」


 改めて見回すと、広範囲に枝やら木片やらが散らばっている。

 欠片でも使い道があるんだって。片っ端から拾っては、イライジャのマジックバッグに放り込んだ。黒い胡桃みたいなものは、種なんだと。木に穴をあけたやつ。これも頂き。大きめの枝もさ、縦にして、はみ出した部分をカットすれば、なんと収納できてしまった。マジックバッグ様様だね。

 さすが本体収納は無理か、なんて話をしていたら――。


 バシャン――


 振り向けば、トレント本体が、立ち上がっていた。


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