第4話


 地面は結構深く、抉れている。この結果をもたらした物体は、一本のバットに戻ると再び輝いて腕輪と形を変えた。もうシンプルな腕輪にしか見えない。

 なに、これ。

「腕輪が、円盤やバット…棒に変形するのか。」

「ちがう。お主が考えているのは変形トランスフォームという魔法じゃな。腕輪がナイフに、ネックレスが細身の剣に、箱が鎧に変形する、とかじゃろ?」

「うん、それ!」なんとか心をくすぐる奴、あったよね。

「ほほほ、わしのは、裏返しリバースと呼んでおる。」

 リバース?俺が首をひねっていると、イライジャはどこからか、色違いの小袋を二つ取り出してきた。二つ重ね置き、内側から捲って纏めてひっくり返す。

「ほれ。袋は見た目一つじゃろ?二つの物を重ねて、一方の形で存在させるのじゃよ。もう一つはに存在しておる。裏返すリバースことで、それぞれを使うことができるのじゃ。術式は細かいし複雑で面倒だが、わしにかかればこんなもんじゃー。わしが発明したのじゃぞー。」

「おおー天才っ」「えっへん」

 イライジャは得意顔で、思いっきり胸を張った。再び、腕輪が輝く。シュパンと擬音付きで、今度は扇状に広がった。これは笏が集合したようで、一つ一つが微妙に違う。槍や剣から銃?ぽいのもがあるぞ。そういや、さっき地面をえぐったのは、魔法だろうか?それとも、矢や弾のような物理的なものか?

「あれは弾じゃぞい。あらかじめ装填してあるんじゃ。」

「じゃあ、弾の分重さが減っても、元の腕輪に戻れるんだ。」

「なかなかいい所に気が付くのう。ある程度までならOKじゃ。」

 一部欠損しても、弾丸を消費しても、設定した範囲内なら大丈夫なんだってさ。もちろん、大破すれば、二度ともう一つの形には戻れない。

「先に言っとくが、マジックバッグのリバース化は無理じゃぞ。お互いの術式が反発しあってどうにもならんのじゃ。」

「へええ、これは売らないのかい?お金になりそうだけど。」

 俺の提案に、イライジャは顔を曇らせる。

「うーむ、これが世にひろまると、また戦が増える気がするのじゃ。それは嫌なのじゃよ。」

「確かに。」

 マジックバッグもたいがいだけどさ。あれは、入口を通過できる大きさまで、って制限がある。だから馬車やバリスタみたいな(あるかな?)大型物資はそのままの形で運べない。食料や水だって、小分けしなきゃならない。でかいバッグ自体超高級品だから、運用コストだって跳ね上がるもんね。そういう制限がなくなって、小さなものにリバース出来るとしたら、楽に大量に運べるとしたら。そりゃ、戦争は有利になるなあ。他にも悪用できそうだしさ、俺だったら………あれ?

「変形の奴はずいぶん昔、小人族がかかわったと聞いておる。黒歴史じゃの。」


 ちょっとまて、考えろ。俺、落ち着いて考えろ。

 もしかしたら。もしかしたらだよ。


「あ、あのさ。例えば、だけど。大きな箱に物を詰めて、その腕輪みたいなのとリバース化できるか?リバース化ができたら、腕輪の方をバッグに入れた場合、マジックバッグに占める容量は、箱のほう?それとも腕輪?両方?」

「んん?いきなりなんじゃ。」

「いや、雑多な物を箱なんかに纏めてリバース化できたら、効率がいいと思って。」

「ううむ?そこは考えんかったのう。わしはかっこいい武器が欲しかったでな。」

 ほいっと、イライジャが両腕を差し出した。うわ、腕輪や指輪が、じゃらじゃらしてる!それみんなかっこいい武器かい!

「できん事はない、とおもう。だが、最低限、表の品物には、特殊な素材が必要なのじゃ。加えて裏の品物とあまりに魔力等の差が大きいと、リバース化ができたとしても、初回のリバースで表が壊れそうだの。」

「一回限りでもいいじゃん。緊急避難だよ。それにさ、でかい物を小さくリバース化できて、バッグの容量が小さいほうで済んだらさ。あきらめていた大物を持ち出せるかもしれないんだぞ。」

「お、お?おおおお~。」

 ここでやっと俺の狙いが、イライジャにもわかったらしい。だが、

「しかし表にする物をどうする。ろくなものは残ってないぞよ。」

「ええと、……あ、カード!高品質の材料!」

「でもあれいい出来でわしのお気に入り「もともと売る予定だったね!」」

 ぶわっと、イライジャの目に水が張った。うえー、罪悪感がハンパねえ、でも心を鬼にしても言わねばならん。

「そんなこと言ってると、全部失う羽目になるぞ。」

「それはいやじゃぜったいいやじゃいやじゃいやじゃ~~。」

 涙腺崩壊再び。いい歳の爺さんが、またえぐえぐと泣きだしたよ。あんた、どんだけ物に執着してんのさ。はぁ。


 ジジイめ、泣き疲れてそのまま寝ちまった。子供か。

 丸くなってるジジイを横目で見つつ、俺は現状を再確認だ。


 イライジャは、この家から出ていかなければならない。だが、大量にある「物」を持っていくことも、おいていくこともできない、困ったジジイだ。

 さて、ここに「リバース化」という魔法がある。それらの「物」をリバース化できれば、かなりの量を、持ち出せる可能性がでてきた。カードとやらも無限にあるわけじゃないから、全部なんて言わないけれどさ。

 それでもだ。全てを諦めなくてもよくなったんだ。

 ここは、イライジャが一つでも多く持ち出せるように、やってやろうじゃないか。

 俺だって、もらった金の分は働かないと、ね。


 とりあえず、明日は実験だ。

 いきなり実行して、失敗して、また大泣きされるのは勘弁だもんな。



 二日目。

 早朝から朝市へGO!だって、ジジイがうるさい。卵以外が食べたいってさ。

 特急で下町の市場を回って、いろいろ食材を購入してきたぞ。代金は家主もちっす。ラッキー、食費も浮いたね。朝食をサクッと済ませて、いざ実験。


 とにかく、データがいる。

 これまで「かっこいい武器」専用だったため、他の用途は頭になかったって。

 今わかっている事、最低限片方の物が、大量に魔力を含む素材か、それで作られている物体であること。

 素材ってのがね、竜の爪とか魔銀、魔鉄とかいうやつ。おー、ファンタジー。質量も欲しい所だけれど、今回は目を瞑る。

 幸いジジイお手製のカードは、魔力たっぷりのお高い素材(端材)で作られているんですって。現物を見ると厚めのトランプだね。片面は共通の幾何学模様、もう片面は神話や神獣がモチーフの図柄だ。そりゃあ超豪華な一品だよ。これが100枚で1セット、それが3セットもある。しかも約A4判の専用フォルダー付きときた。このフォルダーもかなり出来がいい。カードが足りなくなったら、フォルダーもリバース化しちゃおうか。


 さて、まずは小手調べ。

 マジックバッグに入れた際の、容量を調べよう。

 手持ちのリバース化されたもので確認する。イライジャが複数持っている武器の腕輪だ。これをバッグに入れた際、消費する容量は、腕輪分か、それともリバース後の武器分か。前者ならマジックバッグに入るし、後者なら、カードフォルダーを持ち歩くってことになる。バッグの残り容量は、持ち主にしかわからんらしい。

 何度も腕輪を出し入れし、うーんと唸っていたイライジャは、

「……腕輪のみじゃ。」

「よっしゃあ!」

「ウーム不思議じゃのう。どうなっとるんか、ぶつぶつ……。」

「それ、ここが片付いてから考えて!次いくよ!」


 いよいよ実験本番。

 表の素材をカードとする。裏の素材が各種品物だ。

 まず、テントにあった大きめの衣装箱をリバース化しよう。衣装箱はベッド半分くらいの大きさ、ごく普通の素材だね。中身はいっぱい。この二つを重ね置き準備完了だ。そして、イライジャがぶつぶつと詠唱を始めた。

 やがて魔法陣が浮かび上がってきた。魔法陣の淡い光が、めっちゃ綺麗だ。そして光が、二つの物を包み込む。詠唱が終わり光が収まったとき、衣装箱は消え、表であるカードのみが残っていた。


 成功だ。これだけ大きさに差があっても、いけるんだ。

 続いてこの表のカードを、裏の衣装箱へリバース。これも成功した。ここで箱の中身を入れ替え、再度カードへとリバース。

 成功、やった。カードと箱、どちらも壊れていない。簡易マジックバッグみたいな使い方もできるってことだね。よしっ、これなら行けるぞ。


 ここから色々条件を変えてみた。

 物をただ山積みしたものは、リバース化不可だった。イライジャによると、術式が入らないという。確かに、魔法陣が浮かび上がってこない。布で上からで覆った場合も不可。だが布で包みこむと成功した。ただし、これを表から裏にリバースすると、術式が解けた。裏の品物はそのまま残ったが、表のカードは文字通り消失した。

「ひいぃぃぃ~」

 うるせえ。一枚消えたからって、この世の終わりみたいな顔をするな。

 他にロープで縛っただけ、等、条件を変えてテストを実行。数枚のカードを紛失したが、ほぼ条件がわかった。

 裏の品物をリバース化するは、「個体」「箱」「包」などの「一個」で「固定された形」が可能。イライジャの腕輪武器からもわかる。分裂しても、必ず最後は一体化して腕輪に戻っていたよね。

 ただし、「布状の物」で「固定」した物はリバース化できたが、リバースは一度のみ可能だった。表から裏に戻したところで、表は失われてしまう。逆に、裏の素材が紛失するケースもあるかもしれない。

 

 何例か試したところで、イライジャの魔力が切れた。そのままテントで休憩~。


 最低限の検証は終わった。細かい条件は、後日、爺さんが検証すればいいさ。

 今はこれで十分だ。テント内も心持ち広くなったことだしね。

 明日からは本格的にリバース化の作業だから、ゆっくり休んでくれ。俺は夕食の下ごしらえでもしようかな。


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