第3話
イライジャがぐずりながら話した内容はさ。
通告されてから、彼なりに片付けて(これでも)いたらしい。なんと、彼もマジックバッグを持っているんだって。
バッグは背中にしょってたよ。箱型でほぼランドセル、かわいいじゃんか。
容量は特大!これに詰め込めるものは入れたんだと。だが、バッグには以前から色々入っている上に、入口を通らない物は入れられない。当然、でかいヤツは無理だ。
おまけにバッグの
新しくバッグを作ろうにも(作れる!)必要な素材がない。今からギルドに依頼を出したとしても、資金、調達と製作時間が全然足りない。八方ふさがりだ、そりゃ、やけっぱちにもなるわな。
「金策にと、占いカードの依頼を受けたんじゃが、まんまと騙されたということじゃ。」
「それは残念だったね。」
「売れれば、小さいバッグなら買えそうだったんだがのー。」
「カードも高級品かよ。あ、そういえば、ギルド長のおっさんがさ、アーパトメントの部屋を用意してくれるって。」
「ううむ、テントの物ですら収まる気がせんのう…」
「……だよねえ。」
「でも、まあ、うむ、じゃ。」
頑固ジジイめ、素直にありがたい、って言えばいいのにさ。
こうやってあれこれ話しているうちに、とっぷり日が暮れてしまった。
イライジャが腹が減ったと言い出したんで、ありあわせで夕食作りを開始。そういう話で入り込んだしね。
でも、食品庫の中が、卵とパンと葉の出た玉ねぎのみって……。あとは調味料と、元食品のナニカ。じじい、てめえ何食ってたんだよ。
なぬ、毎食ゆで卵を食べていただと?うーむ、蛇じゃあるまいし。
しかたねえ。今夜はオムレツ、炒めた玉ねぎでスープ、残っていたゆで卵で卵サンドだ。これで足りんなら、目玉焼きでも食べてくれ。
出来上がった先から、イライジャは勢いよく召し上がった。この小さい体のどこに入るの、っていうくらい食べたよ。食べて、機嫌も直ったらしい。めっちゃ笑顔で、
「卵も好きじゃがのー、他のも食べたいのー。」
「わかった。明日は買い出しにいってくる。」
「ほほっ、楽しみじゃ。三食たのむぞい。ここで寝ていいからの。」
やった。宿、ゲットだぜ。
泊めてもらえるといってもね、まずはスペース確保から。
周りが崩れないようにかたしていたら、なにやら表の方が騒がしい。
ここは高級住宅地だ、住人もハイソな方々のはずだけど。
「来おったか。」
何が?イライジャさん、見えない口元がにやり。
暗くなった高級住宅街の一画、ここに似つかわしくない輩が集まっていた。場末の酒場から直行してきたような連中で、およそ10人はいるだろう。彼らは目的の屋敷を見つけると、げらげら笑いながら通用口から入り込んだ。
「どこに隠れてんのかなーー」
「あそぼーぜ。じーさん。」
「鬼ごっこやろーや、捕まったら金貨だせよ。」
「きゃははは。そりゃいいや。」
「今夜はここでパーティーだ、さー盛り上がろうぜえ。」
彼らは酒瓶を片手に、無人の庭をのし歩く。残った庭木を蹴り飛ばし、建物に向かって放尿とやりたい放題だ。一部は直接地面に座って、酒盛りを始めた。
「楽な仕事だよなあ、大騒ぎするだけでがっぽり、なんてよう。」
「俺は毎日でも来るぞお。」
「次は女の子を連れてこようや。野郎ばっかじゃむさ苦しくてかなわん。」
「ちげえねえ。ははは…なんだ?」
一人の男が、宙を指した。
地表から約2メートルの所に、妙なものが浮いている。
それは手のひらくらいの、薄い円盤状のもので、暗い夜空を背に淡く輝いている。
何時からそこにあった?そもそも、あれは何だ。彼らが訝しんでいると、円盤は小刻みに震えだして―――。
バリバリバリッ、ドシャーーーン!!
稲妻が近くの庭木を直撃。幹が裂け、火が上がった。
車座で座っていた連中が、余波を受けて転がる。髪が逆立ち、全身がピリピリと痛んだ。
「ななな、なんじゃこりゃあ!」、
「落雷だ!」「なぜ!」「知るかっ」
バリバリバリッ。
再び稲妻が走り、地面を焦がす。慌てふためく彼らの前に、別の円盤が現れた。それは音もなく近寄って―――。
「ひいい」
ひとり逃げ出せば、あとはなし崩しである。
彼らは走った、入ってきたところに向かって、とにかく走った。もともと、にぎやかしで来ていた連中だ。仕事?さえ済めば、こんなところに用はないのだ。だが彼らが入口まで戻ってみると――
そこにも、浮遊する円盤が一枚。
ピシリッピシリッと、門扉にまで火花を散らせている。
何個あるんだよ、
他に出口はないか。円盤のいない、逃げ道はないのか?
塀はどうだ。登れそうか?いや、ここを越えるしかない。
そして急遽始まった、集団クライミング。壁面は凹凸だらけで、なんとか登れる。最初の一人が、どうにか塀の上までたどり着いた。あとは下りるだけと、一息ついた時。
「あ」
何かが、彼の背に当たった。彼はそのままバランスを崩して、地面にたたきつけられてしまった。――痛っ、誰だっ押しやがったな――彼は、塀の上を睨みつけた。
が、変だ。仲間が次々と落ちてくるじゃないか。
登りきって塀を越えようとしたとたん、不自然にバランスを崩してしまうのだ。まるで見えない手が、彼らを突き落としているように。
でも――塀の上には、彼ら以外誰もいない。
ま、まさか……
鳥肌が立った。聞いていない、幽霊がいるなんて聞いてないぞ。
こりゃあ、とんだ貧乏くじだ。呪われる前に、一刻も早くここから離れなければ。
恐怖は伝染する。男達は一目散に、夜の住宅地から逃げ出した。
「やりすぎー。」
侵入者が去って、俺は消火作業中である。
だって大火事だよ~庭木が燃えてるんだよ~。ウォーターボールの連発で、火は何とか消したけどさあ。まだくすぶってる…、もっと水をかけとこう。
おまけに臭い。アルコールとアンモニアが混ざった、あの独特な臭いが充満してら。ほんと、人んちの庭でなにやってんの。ジジイも盛大に顔をしかめている。
「臭くてかなわん、しっかりと流してくれ。」
「はいはい。あれって常連さん?」
「顔ぶれは変わるが、数日おきに来よるの。サクッと始末したいところじゃが、さすがに後始末がめんどくさい。」
「こわっ、で、本宅の方は大丈夫か?」
「魔道具で障壁を張っておる。塀部分は強制解除になってのう。おかげで入りたい放題じゃわ。ところでお主、なかなかに魔法を使うのう。」
「うん、まあね。」
水なら大量に出せるもんね。塀の上の奴は、空気の塊で押しちゃった。名付けてエアプッシュ。まだ
でも一番気になるのはこいつ。俺は戻ってきた円盤達を指して、
「で、これ、なに。」
イライジャの頭上を回る円盤たちは、まんま前世のCDだ。穴はない。
「見ての通り、魔道具の武器じゃよ。雷の魔法を撃てるぞい。」
「へえ。すごい威力だったよね。急に出てきたけど、マジックバッグに入れてた?」
「ふふふん。違うのじゃ。」
爺さん、再びにやり。
つっとイライジャが手を上げると、5つの円盤が一枚に重なった。そして発光、輝きが収まった時は、細い金属製の腕輪となってイライジャの腕に収まった。
間を開けず、イライジャは別の腕輪に触れる。
なんと、今度現れたのは、野球のバットみたいな物体だ。バットは縦半分に分裂して、イライジャの両肩のあたりに浮かんだ。
そしてブオンッ、という音と同時に土埃が上がった。
土煙のとこ、地面が酷くえぐれてるじゃん。まさかのファン〇ル!?
「わし専用の、超強力武器じゃぞ?」
「ちょっと、そこ詳しく!」
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幽霊、死霊などのアンデットは、実在する設定。分類は魔物。
イライジャは度々実験でやらかすため、この程度ならご近所は無視です。
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