閑話


 生い茂る草の間を、ちょこちょこと何か動く。

 野ウサギだ。長い耳がひくひく動き、周囲を警戒しながら草を食む。食べながら何か感じたのか、ピンと耳が立った。同時に一本の矢が突き刺さった。それでも逃げようとしたところへもう一矢。手ごたえあり、ウサギゲット。


 やっほー、ヒューゴです。

 見てください、弓です弓。俺、ミーハーです。だってさー、イーサンかっこよかったもんな。すぐ短弓を買っちゃった。初心者用、お値段はリーズナブル。そのあとたくさん練習したんだぜ。

 最初は全然だめだった。けど、そこはエルフの遺伝子かな、どんどん上達したよ。

 動かない的なら、5割の確率で当たるね。動くヤツはまだまだだけど!


 時は春真っ盛り。俺が今いるのは、街道からちょっとはずれた草原だ。

 街を移動するにしても、こうやって寄り道して、森や草原で何日か過ごしている。狩りや、弓矢や魔法の練習に熱中している。

 おかげで気持ちに余裕ができたっつーか。練習も成果が出るし、いいことだらけ。ま、雨の日は近場の街に逃げ込むけどね。


 そうそう。イーサンの真似もやってみた。

 矢をつがえる時に、魔力を流すっていうヤツだ。俺から出た魔力を弓矢にまとわせていく。こんな風に。でも一旦矢を放てば、ほら。魔力はあっという間に霧散しちゃうんだ。

 それだけ。

 魔力が矢の周りにあるだけなんだよ。何の効果もない。命中率向上とか、ちょっとだけ期待してたんだけどね。

 これからは俺の推測。

 まず弓矢の素材が違う。今から思えば、イーサンの弓の素材は、スムーズに魔力が通せるんだろう。そして特殊効果を出す魔法が、あらかじめ組み込まれていると思われる。

 普通の素材だと、うまくいかねえ。あちこち引っ掛かる感じがする。ま、俺の力不足って可能性も大だけどさ。もしかしたら俺も、矢の雨を降らせられるかも!ってあれこれやったんだけどね。ちとハズイ。


 といいつつ――魔力を変形できるようになったんだよ。

 しつこく弓矢に魔力をまとわせようとしてたらさ、なんとなくコツがわかっちゃったと。これぞタナからボタモチ。

 まず水球を出す。大きさはバレーボール大までになった。出口は相変わらず小さいので、この大きさまでになるのに少々時間がかかる。

 ここで、ぐぐぐぐっ変形。じゃーん、ほらラグビーボールっぽくなったでしょ。

 変形はこのラグビーボールが限界だ。矢に水はまとわせられねえ。水球の中にぽちゃん状態だ、ははは。他の魔法も、少しずつ上達中、近日公開、なんてな。


 さて今日の獲物はウサギが一匹。食いでがあるが、そろそろ肉以外も食べたい所だ。

 というわけで街道へもどることにした。街に泊って、美味しいものを食べよう。



 ウサギをぶら下げて、街道をてくてく歩く。

 昼の街道はそれなりに人通りがある。小柄な俺が獲物を担いでいるのは目を引くらしいけど、時たま視線を送られるくらいだ。

 周囲は野原と時々林、街が近くなると、防壁と農地や牧場が見えてくる。そこの辺はどこも同じだ。

 いい調子で歩いていたら。なにやら前方が騒がしい。遠目には、二台の馬車が見えるけれど何事かわからない。ま、魔物関係じゃないだろう。

 そうこうしているうちに、一台が結構な速さで向かってきた。二頭立ての馬車で騎馬二騎の護衛付きだ。お貴族様?面倒ごとは嫌なので、回りと同じように道の端によってやり過ごした。それがさも当然と、馬車は速度も落とさず通り過ぎていく。

 なんだかなーと思いつつ、先に進めば、もう一台の馬車が止まっていた。

 こっちは荷を積んだ荷車だ。屋根のないやつ。樽と木箱が満載で、片側の車輪が道から落ちている。御者らしい男が、降りて荷車を押すが微動だにしない。

 先の馬車とすれ違いざまに、脱輪しちゃったかな。

 街道っていっても、ここらは土で固められただけだから、端っこの方はボロボロだ。ギリギリすれ違える道幅はるけどさ。ま、よくある光景。

 再び馬が鼻息荒く、脚に力を籠めるがまったく動かん。

 つい「俺も押す」言っちゃった。

 御者のおじさんは俺を見てぎょっとしたけど、いつものこった。気にしない。俺は荷を地面に置いて、荷台に取り付いた。

「せーのっ」

 おじさんの掛け声と一緒に、荷車を押す。でも、ガキ一人増えたって動かないよなあ。

 でも押す人がひとりふえたぞ。冒険者かな、ガタイのいい兄ちゃんだ。

「せーのっ」

 動かねえ。おや、また一人二人、通行人がこっちに来た。ごく普通の一般人って感じの人たち。ううむ、これは、大きなカブの荷馬車版じゃねえか。

 押す人間が6人になったところで、遂に荷台は道に戻った。御者のおじさんはにこにこして、

「あんがとよう、みなの衆。」

「いいってこった。」「おたがいさまだって。」

 通行人たちは皆いい顔で道に戻っていったよ。

 俺、あまり役に立たなかったけど、まあいいか。俺も自分の荷物を拾って街へ向かおうとしたら、御者のおっさんが、

「坊主、乗ってけ、こっちの方角だろ?」

「は」「子供は遠慮するんじゃないぞー。」「そーだぞー。」

 離れていく通行人からも声がかかった。うーむ。


 結局、荷車に乗せてもらったんだけどさ。

 日差しは暖かい。揺れるんだけど、そのリズムがなんか心地よい。なので、

 こくり……がたん、からん、ごとん……うつら、うつら……

 ガクッとなって、にやにやしてるおじさんと、目が合った。

「ゆっくりしときな、街が近づいたら声をかけるからよ。」

「あ、ありがと。」

 

 いつも走ってばかりだからさ、たまにこんな旅もいいかもね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る