第5話


 さて、討伐が終わったら後始末です。

 あらためて周りを見渡すと、緑色のあれこれが散らばっていて、何とも汚らしい。臭い。新たな魔物を呼びこまないためにも、死体の放置は厳禁となっている。埋めるか燃やせってこと。今回は数が多いから、普通は応援を呼ぶんだけどさ。


「みんな持っていきましょー。」

 イーサンの、本日何度目かの超怖い笑顔だ。

 持って帰って、ドーンと並べて、ギルドにお灸を据えるんだと。どうも緑鬼出没情報も提示されなかったようで、かなりお冠みたい。そりゃ商隊の護衛だもんな。周辺の魔物情報には、気を配るよね。

 みんな持っていくって言うけれど。アレかな。

 やっぱり、アレでした。二人の外套下から、斜め掛けのバッグが出てきた。大きめのウエストポーチみたいなの。そのバッグの縦長の入り口へ、緑鬼のアレやコレがポンポンと放り込まれていくんだよ。見た目は薄いのに、これがもう、入る入る。俺は感動して見ているだけ。

 本当にあるんだ、マジックバッグ。急に大弓やら大剣やら出てきたから、そうじゃないかとは思ったけどさ。

 イーサンは、矢も同時に回収中。特別製は最初の二射だけで、あとはごく普通の矢だったみたい。矢はできるだけ回収するんだそうで。そこはエルフと変わらないや。あ、村じゃよく矢が足りないってシバかれ……うん。思い出すほど、あいつら最低だわ。あんな村飛び出して正解だね。こうやって自分の後始末をやるのが、本当の狩りだよ。ほんと。



 そうこうしている間に、作業はおしまい。ついに俺は我慢できなくなって、二人に話しかけた。

「あ、あの、それ、マジックバッグだよね?」

「そうよ。見るのは初めて?」

 俺は思いっきり首を上下に振った。

「量はどのくらい入る?なんでも入れられる?大きいものは?それから……」

「落ち着いて、ヒューゴ。」

 イーサンは興奮した俺をなだめつつ、

「容量は秘密ね。入口を通る大きさまでなら、大抵のものは入る。けれど、液体そのままや生き物はダメね。」

「そうなんだ、お店に売ってる?」

「大きな魔道具店で買えるぞ、すごく高いぞ~。」

 ジュドーからお値段を聞いて、さらにびっくり。イーサンたちが持っているタイプで、土地付きの家が買えるんだってさ。それも王都郊外!そんなマジックバッグを、個人で所持しているなんて、4級冒険者って、どんだけー。そりゃあ、女性たちが目の色を変えるわけだわな。



 その後、俺たちは街に戻り解散した。

 ギルド関係は二人に任せちゃった。ついでにソリの返却も頼んだ。俺、もうギルドへ行きたくなかったから。

 街は、緑鬼の話で持ち切りだったよ。

 噂話って、伝わるのが早いね。街角で、お店で、みな興奮気味に話していた。情報も大体正確でさ、たまたまいた4級冒険者が討伐したって、大いに喜んで盛り上がっていたわ。

 そうだよなあ、万が一街に魔物が入りこんだらただじゃすまかったはずだから。

 同時に、不安がる人もいたね。群れだったから生き残りが居るかもしれないって。山奥に、大きな巣があるんじゃないか、とかね。

 万が一巣があったら、強制招集になるらしく、冒険者どもが心配していた。

 そんなだから、朝の事なんて、全然話題に上ってなかった。そりゃ、ガキのケンカだけどさー。身構えた分、肩透かし喰らった感じー。

 でも、宿のおねえさんだけは違った。俺が無事に帰ったことを、喜んでくれたんだ。

 あのガキンチョたち、いろいろ問題を起こしているんだと。でも保護者があれなんで、誰も強く言えない。そのうち何かしでかすと思われていたそうな。

 だから、俺、怪我がないかって何度も聞かれたよ。

 なかなか信じてもらえなくて、その流れで明日には街を出ると伝えると、

「そうよね、それがいいわよね。」

 がしっと抱擁されて、泣かれた。

 俺も苦しくて、泣きそうだった。


 翌朝宿を出る時に、おねえさんからお弁当をもらった。腸詰やらハムをはさんだベーグルサンドとリンゴ。先払い料金は返せないから、受け取ってくれってさ。お礼を言ったら、ふたたびの抱擁だ。ぐぐぐ、骨が軋む。



 ギルドにもどこにも寄らず、通りを出入り口の門に向かった。何もないとは思うけど、念のためだ。おおまかな地図も、頭に入っている。消耗品も補充済み、大丈夫。

 なのになぜか、門付近の広場でイーサンたちにばったり会った。

「おはよう、ヒューゴ。」

「……おはよう……」

 彼らの後方には大型馬車が3台並んでいる。馬車を囲むように、イーサンを含めた冒険者が6名ほど。同じチームの人たちかな、同じような外套姿だ。全員男性だね。俺が軽く会釈すると、皆さんも返してくれた。彼らから生暖かい視線を感じるけど、なぜだろう。

 イーサンとジュドーが俺の方へと歩み寄り、

「僕たちも早めに出立することにしたのよ。」

「強制参加させられたら困るからなあ。」と大剣使いがのたまう。

「でね、ヒューゴ、私たちと一緒に行かない?」

「え?やだ。」

「即答⁉」

「イーサーン?」ジュドーの声に怒気が混ざる。

「だって、気に入っちゃったんだもの。連れていきたいの!」

「駄目だ。俺たちは依頼遂行中なの、そっちが優先だ。」

「一人くらい増えてもいいじゃない、すんごくいい子なのに。」

「そういう問題じゃない。駄目ったら駄目。」

「だってええ。いこうよお、ヒュウゴオオ。」

 ……唐突すぎ。そりゃ二人とも、かなり信用できる部類だけどさ。昨日会ったばっかりで、ホイホイついて行くわけないじゃんか。

 一応行き先を聞いてみたら、俺が来た方向ひがしだった。ますますお断りです。俺、あっちに行きたくないんで。

 イーサンは泣いて(ほんとに涙流してた)チームメンバーに回収されてしまった。皆さん、とても慣れてらっしゃる…。

「ヒューゴ、手を出せ。」

 ジュドーに言われるまま手を出すと、チャリンと音を立て、小袋が落ちてきた。

「これ……」

「緑鬼の魔石代金だ。もらっとけ。」

 うわあ、結構重いぞ。魔石代にしちゃ多すぎない?不審な顔で見上げれば、ジュドーはにやりと笑って、

「震えながら、がんばったからな。」

「うっせーわ。」

「ははは、強くなれよ。」

 くっそー、なんか悔しいぞ。

 今日の所は、もらっといてやる!



 そして俺たち二組の旅人達は、街を出た。

 粉雪の舞う街道を、それぞれの方向へ。


 

 後日、冒険者ギルドクラスコ支部は、本部からテコ入れがあったらしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る