第7話

 

 翌日、ギルドへ行ったら、何処からか昨日の話が伝わっていたみたい。

 大人組の気の毒そうな目、子供組からはあざけりの表情。なんなの?魔法が使えない(使えたけど)その他大勢の一人だよ。平均だよ、マイナスじゃないよ?


 実はさ―――魔法の事は、黙っておくことにした。

 昨夜よくよく考えたんだ。神官は、俺に魔法の素質はないと判断した。じゃあ、何で使えるのって話になるでしょ。よそ見していましたーなんて認めないだろうし。ガラス板の事もあるし。ギルドは自己申告だから、今さらだよね。

 とにかく、直感が「やめとけ」って言っているんだ。面倒ごとしかないって。同感だね。


 うーん、視線が刺さるわ、さっさと仕事をもらおう。

 いつもの女性職員、名前はカリンさん、はいつもの対応です。絶対の安心感。でもさ、いきなり、

「ヒューゴ君、あなた昇級ね。8級。」

「え?9じゃなくて?」

「充分実力があると踏んでよ。タグをかしなさい。」

 はい、金属製のタグになりました。カリンさんが言う通りに、新しいタグに自分の血を一滴。なんと、これで魔力と血の情報が記録されるんですって。タグの持ち主が本人か否かがわかる機能だそうで、なりすまし禁止ってか。これきっと、遺伝子なんちゃらね、妙な所でハイテクだわ。

 昇級にあたり、注意事項の追加だよ。法令順守はもちろん、討伐や納品の手順とか細かいことがいっぱいあったぞ。あと、特定区域(領主管理の鉱山など)で狩りや採取はダメ、各地ギルドで確認せよだとさ。あう、これは盲点だよ、狩り放題ではないとは、残念だ。

 確かに、これ、全部最初に聞いても忘れる。でもって、最後に念を押し。

「いったん街から出れば、法律通りとはいかないわ。充分に気を付けなさい。」

「…わかった。」

「今から外の仕事を受ける?」

「やる。」

 さあ、今日のお仕事は、城壁外の農場のネズミ駆除です!


 収穫を終えた畑は、絶好のネズミの狩り場だ。

 壁の外、指定の農場へ行けば、既に依頼を受けた冒険者たちが仕事を始めていた。畑に空いた穴から出てくるネズミを、各々の武器で狩る。俺は持ってきた木の棒で参戦だ。

 一グループが土の中の巣を、上部から崩していく。と、どうだ、横穴から出てくる出てくる。飛び出してきた猫クラスのネズミを、叩け、叩け、叩け―。

 網で一網打尽のチームもいるな!かかった奴を網の上から叩く!それいいな、と思っていたら、柴犬クラスが複数かひっかかって、冒険者ごと網を引きずっていった。こわ!

 ある程度倒したら、くたばったのを拾い集めて、荷車んとこに待機している担当に渡す。また叩きに行くの繰り返し。

 俺、頑張りました。久しぶりに思いっきり体動かしたよ。気分はいいけど、腕が上がらねえや。


 頂いた日当は、街中の仕事より断然よかった。ホクホクだね。

 例えばさ、これが魔物討伐になると、討伐の報酬に加えて、魔石や皮や肉などの売り上げが入る。諸費用を差し引くとしても、結構な額になるんだ。美味しい依頼は皆が狙うから早々回っては来ないだろうけど、当たればでかい。

 俺、何とかやっていけそうな気がしてきたよ。

 寿命は長いはずだしね。冒険者やりながら、本当にやりたいことを見つけよう。

 まずは宿を変えようかな。大部屋雑魚寝じゃあ、ろくに魔法の練習もできないし、最近なんか不穏な感じなのさ。さっきからついてくる奴も気に食わない。俺、悪意には敏感なの。

 知らないふりして、そのまま夕方の雑踏に紛れ込んじゃった。俊足エルフをなめんなよっと。


 そのまま、新しい宿にチェックイン!

 ここもそんなに綺麗じゃないけどさ、狭い個室に寝台付き、これ大事。大部屋からここまで、やっと来たわ。板張りのベッドに腰掛けて、早速昨日の復習をしよう。

 まずは自分の中の、何かを感じ取るところから。

 何かって、たぶん魔力っていうやつだね。俺が今一度に使える魔力は、せいぜい耳かき一杯分(少なっ)。追加(おかわり)は何度でも可能みたい。

 つまり、俺は魔力の入れ物はでかいのに、通り道が針の穴だってことかしら。まあいいや。初心者はそんなもん。


「水よ」手のひらに水滴ひとつ、オーケーオーケー、かなりスムーズになった。よし。次。

「灯せ」暗―い豆粒みたいなもの。常夜灯にもならん。暗すぎ、すぐ消えた。

「風よふけ」ちょっと、顔をなでてったか?不明、要練習。

 火…はやめよう。屋内だ、火事になったら困る。

 実はね、昨日「火」を点けることができたんだ。これにはびっくりだ。


 小枝の先に、「火」が点いたんだよ。正直さ、てこずると思っていた。

 ババアから散々刷り込まれていたし、やけど痕の事もある。ヒューゴ自身、トラウマじゃないかって。でも、余計なお世話だったみたい。

 よく考えたら、ヒューゴは日常的に火を使っていたわ。焚火に、料理、職人が使う炉の火の番、暖炉に火をつけるのもうまかった。ヒューゴは、火が怖いことを知っている。だからこそ、火を、慎重に、上手く使う術を身に着けたんだね。森で食った鳥の丸焼きは、うまかったなあ。絶妙な火の通り具合だったもの。

 ふふん、俺の中のヒューゴが、得意気だ。

 

 ここで、ちょっと他の魔法も考えてみよう。

 俺さ、他にもいろいろできそうな気がしている。

 例えば見えない刃を飛ばす、着弾で大爆発する炎、大地からげんこつが飛び出して敵をノックアウト、なんてさ。地を走る電撃もかっこいいぞ。怪我があっという間に治っちゃうとか。離れた場所へ瞬間に移動できたら最高だ。あっと、何でも入る袋とかないんだろうか。そういう魔法あるのかな。青いからくり人形が頭に浮かぶんだけど。あれ、体に直接入れてなかったっけ?はっきり覚えてねえや。ま、いいさ。なんか、この辺は実在している気がするんだよ。

 考えるだけでもわくわくするなあ。ただ、一度に使える魔力が、あまりに少ない。このままじゃ夢のまた夢だ。たくさん練習したら、出力が増えるんだろうか。うーむわからん。

 とにかくだ、俺は目標を一つクリアしたぞ。次のステップへ進む頃合いだと思う。次はっと…。


 つい、視線が足元に行った。そろそろ靴底がさよならしそう…。まずはこいつからね。

 ステップっていうけど、やっぱ先立つものがいる。がっくし。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る