第4話
ヒューゴです。
サバイバル、甘く見ていました!
あれからゆうに一か月は過ぎたけど、いまだに森の中です。間違いありません、迷っています!
確かテムさん、国境から数日って言ってたじゃん……川を基準にしているので、方角は間違えていないはず。でも、予想以上に大自然なんだよう。川沿いっていってもさ、突如崖で通せんぼとか!滝とか!谷間になって川から離れざるを得ないとか!身軽なエルフだって限度があるわ。倒木に阻まれるし、ぐるぐる同じところ回るし。夜は木の上じゃないと怖いし、雨の日は動けなくて困るし。森仕事もいっぱいやっていたから、大丈夫!と思っていたんだけどさあ。
距離もさ、かなり移動したはず。それなのになかなか国境と思しき場所にたどり着かんのだ。途中にあるはずの集落もわからん。人の気配すらせん、本当に方角は……あってる?
幸い、森は実りの季節だ。果実やキノコが豊富なので食べ物には困らないよ。鳥や小動物も狩る。
武器もないのにどうやってかって?ロープの両端に石を結び付けた武器だよ。作った!ぶんと投げて、獲物をからめとるんだ。村でよく使っていたよ。弓や剣は持たせてもらえなかったからさ。確率?下手な何とかも数うちゃ当たる、だよ。
正直、俺じゃあどうにもならんかったわ。ヒューゴ!おめえはすげ奴だ、胸を張っていいぞ。
でも、魔法に至っては、やっぱりダメ。水は川の水です、まだ腹は壊してないけど、怖いよう。
それはさておき……先の事なんだけど。秋の次は普通に冬が来るんだよね。
今は過ごしやすいけれど、昼夜の気温差もどんどん大きくなるだろう。
あの村、冬には雪が降るんだ。そう深くは積もらないけど。西の山からの吹きおろしが結構きつくて。今持っているもので森の中を生き抜くのは、かなり無理があると思う。
今回思い切って逃げたのも、今ならまだ時間の余裕があると踏んだからだ。チャンスがなかったら、春を待っていただろうよ。
さて、今日のお食事です。鳥が取れた。ハトくらいのサイズで魔物。逃げずに向かってきたからね。血抜きは終了、羽を毟ったら、どんどん捌く。うー、ナイフがそろそろ限界。足と手羽と、あとはぶつ切りでいいや。木の枝にぶっさして、焚火の周りの地面に刺した。塩は使い切っちゃったので素材の味です。匂いで寄ってくる獣は怖いけど、空腹にはかえられないわ。さっさと食べて移動しよう。今更だけど、鍋ぐらいくすねておけばよかったよ。水も湧かせたし。
焼き上がりを待つ間に、内臓を確認。あるある、心臓の中に小指の爪半分もないモノが。赤黒い石のようなこれ、魔石だね。
魔物が死ぬとき、魔力だか何だかがぎゅっと凝縮して、魔石になるんだって。心臓、脳、肝臓にあることが多いらしい。猟師のおやじ(兼宿屋)が別の若い子に教えているのを横で聞いた。魔石は魔道具を始め、色々使い道があるそうだよ。
親父も売っていたし、人族の街でもきっと売れる。小さいものばっかりだから、パン代くらいかもだけどな!
さて腹も満たした。明るいうちに、今夜の寝場所を探そうっと。魔物が嫌う、あの木があるといいな。村の柵につかっている奴だ、森の中でもところどころに生えているんでほんと助かっている。かなーり臭いけどね。
明日こそきっと、森から脱出するぞ!
有言実行。この場合はそう言わないか。
翌日、あっさり森を抜けました。
びっくりだ、いきなり視界が開けたんだもの。目の前にはどーんと大平原。森が少々高い場所にあるせいか、よく見渡せるのなんのって。
俺、かなり目がいいの。知っていたけど。
すげー遠くに山らしき連なりがみえる。平原といいつつ結構起伏があるな。光っているあの筋は川だろうか。あっちの交差している線は道だな、きっと。こんもりした森も点在している、あの岩棚でもないあれはなんだ。ああ人工物だ。城壁かな、あれは。
あれはきっと人の街だよ。結局、知らないうちに、国境はすぎていたわけか。
やっとここまで来たんだなあ。
思い立ったら吉日の、無謀な作戦だったけれども。自分の足でここまでたどり着けたんだ。
達成感に浸っている
さあ、ここから気を引き締めよう、街につくまでが遠足……もとい、冒険です。
そうそう街について、どこから来たか聞かれたら、
「森に捨てられて、迷子になって、たどり着きました。」
よし、これで行こう。嘘じゃないし。あといくつか設定しておこう、矛盾がないようにさ。
まずは生きるために冒険者にならなくちゃな!
高台から、駆け降りる。傾斜がちょっときついだけだ、道なんかない森の中に比べたら楽勝だよ。
さあ走れ。大地も風も乾いている。ここはエルフの国じゃないんだ。俺(ヒューゴ)を馬鹿にしたやつはここにいない。さあ行け。あの街に向かって。
一方、森の中のエルフの村。
一人の男が両手で、テーブルを激しく叩いた。テーブルの上の書類が、バサバサと床に落ちる。近くにいた女が不機嫌そうに顔を歪めた。地主夫妻である。エルフ族とあって年齢は読めないが、とこかくたびれた風だった。テーブルに手を突いたまま、男はぼやく。
「結局帰ってこんのか、あれは。」
「もう一月になるわね、魔物にでも食われたんじゃないの。大型の奴がうろついていたんでしょう?」
「ううむ。」
妻の言葉に、夫はしぶしぶ頷く。
彼らがゴミと呼ぶ子供が消えた。おかげで、これまで少人数で回していた仕事が滞り気味だ。小作人たちはサボり癖が付いているし、それもゴミのせいに違いない。人を増やすにしても、直ぐには無理だ。とりあえず、ふざけたことをしでかした若者たちを、賠償代わりに働かせることが決まっている。
「アレは、うちのモノだぞ。仕事も仕込んでこれからって時に、勝手に遊びで失くしてくれおって、ただではすまさん。」
「ええ、だからしっかり彼らには弁償してもらうわ。」
「ああ。」
夫はこった首に手をやりながら、
「アレもな、やけど痕さえなければ売れたものを。」
「仕方ないわ。拾った時からあの顔だもの。忘れてしまいましょう。」
それっきり、彼らの会話にヒューゴが話題に上がることはなかった。
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武器 ボーラです。
山岳遭難の場合、川沿いに下るのはNG行為だそうです。ここは山岳地でもありませんし、ヒューゴにとって川筋は方向の目安ということで。
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