第14話 彼女の想い出

【SEVEN】


「七海圭吾です」

 わたしの言葉に彼は、何が、と聞き返す。

「半年前、加藤に殺害された囚人の名前です。名前があるんです」

 彼はそれがどうかしたのかと淡々と言う。その言葉に失望しながら、わたしは押し殺したようにつぶやく。

「ここでは人が死に過ぎています」

「そうだな」彼は答える。わたしにはわかる。机の上にランプに照らされ、顔の半分に暗い影をまといその瞳だけが橙色に揺らめいているはずだ。

「十八人です。昨年だけで、十八人の囚人が死亡しています」

 わたしの言葉に、後ろで資料をめくる音が止まる。

「そのどれもが市警察には通報されていません。時期は関係ありません。今回の事件が通報されたのは殺されたのが刑務官だからです。囚人の死は、ここでは無視されています」

 東洲区重警備刑務所D区画。ずいぶん前からいろいろな噂があったが、わたしにとって

 すべての始まりは半年前に起きたあの脱走事件だった。法務省直轄特定刑務所実験区画史上、最大にして最悪の事件。管理委員会はわたし達特別捜査官の中でも最も経験の豊かな捜査官を指名し、彼はD区画へと向かった。結局脱走事件に関して刑務所内での捜査を終え、囚人の捜索が市警察によって引き継がれたのち、D区画から引き揚げてきた同僚はまるで別人のように塞ぎ込んでいた。何かに怯え、いつも何かを考え込んでいるようなそぶりを見せ、わたし達と距離を取るようになった。そして脱走した囚人の死体が未未市警察によって発見された日、件の捜査官がわたしに漏らした言葉。

 水沼、気をつけろ。あそこは普通じゃない。

 D区画で囚人が死に過ぎていると知ったのはそれから間もなくだった。脱走事件の担当捜査官は、わたしを含めた何人かの信頼出来る同僚に、D区画における囚人の死亡は、市役所には死亡届が提出されているにも関わらず、市警察には通報されていないことを告げた。通常、実験区画で問題が起こると報告が管理委員会に上げられ、管理委員会の指示で捜査官が現場に向かうことになっている。当然、D区画での囚人の死亡は管理委員会に報告がされているはずだが、わたし達特別捜査官にはただの一度も捜査命令が下されていない。これまでの三つの実験区画での重大事件では例外なくわたし達は駆り出されてきた。それなのに、D区画ではわたし達は遠ざけられている。これは一体どういうことなのだ。囚人が死んでいるにも関わらず、何事もなかったかのようにD区画は運営され続けている。何故、誰も市警察に通報しない。何故、管理委員会はわたし達に捜査を命じない。あそこでは、一体何が起きているんだ?

 脱走事件の担当捜査官は、それから間もなくしてわたし達の前から姿を消した。管理委員会からは何の説明もなかった。わたし達も彼については口にしないように努め、やがて忙しく仕事をこなすうちに、捜査に呼ばれることのないD区画のことなんてすっかりと忘れていたのだ。

 そんなある日の夜、わたしの携帯電話が鳴り、翌朝一番で未未市に向かうように告げられる。あの街の出身だからある程度土地勘があるだろうと踏んでの人選だろうが、わたしはそれほど深く考えずにわかりましたと返事し、刑務官の不審死を捜査することになる。朝五時に起き、髪の毛をとかすこともほどほどに着替えの詰まった鞄を手に始発の列車に飛び乗りそして、わたしはD区画を訪れた。

 D区画に入ってからは驚愕の連続だった。最初の異常事態は終日監房が施錠されないというD区画特有の刑務状況だった。日中、囚人の監房を施錠しないのは、他の実験区画でも同様の試みがなされており、実社会生活と近い環境を作るという点においては合理的だが、夜間帯は刑務官の勤務人数が限られるため、安全面と管理コストの両面から監房は施錠することが最適解とされている。監房の施錠を行わない場合、仮に監房エリアを監視する刑務官が二人しかいなければ、三カ所で囚人が監房から出た瞬間に、監房エリア全体が制御出来なくなる。現場を知らない馬鹿な役人が現場に押し付けたルールであるなら刑務所側に同情するが、あいにく他の実験区画を見る限り、管理委員会はそんな馬鹿な決定は下していない。これまでの首都圏の実験区画でも刑務所ごとにある程度のルールの差はあったが、それは刑務所の規模や刑務官の人員など刑務所ごとの事情を考慮して、刑務所側からの申請を管理委員会が承認することで実現している。とすれば、この監房を施錠しないというルールは、D区画側から管理委員会に申請し承認された結果だろう。管理委員会がそんな提案を許可したこと自体は馬鹿げた決定だとは思うが、囚人の人権を最大限に配慮するという方針の性格上、刑務所側に負担がかかっても囚人が恩恵を得られる提案は却下しづらいという背景があるのだろうか。

 それにしてもD区画側は何故、そんな提案を管理委員会にしたのだろうか。明らかに安全面と管理コストの両面からD区画側の負担でしかないはずだ。つまり彼等には、それほどの負担を払ってでも、夜間、監房を施錠したくない理由があるのだろうか?

 異常な刑務状況の二つ目は監視カメラだ。脱走事件のあと、D区画は改装、改築されたと聞いている。何故、そのタイミングで監視カメラを設置しなかったのだろうか。もちろん首都圏の他の実験区画でも囚人の人権に配慮し、囚人達の同意がとれない限り監視カメラの設置は許可されていない。ほとんどの実験区画で監房エリアに監視カメラはないが、管理エリアのような公共スペースには限定的に監視カメラが設置されている。密室の中で行われた刑務官の囚人への虐待こそがこの実験区画の設立理由である以上、囚人の安全確保の面からも監視カメラは刑務所側と囚人側の双方にメリットがあるはずだ。しかもD区画では脱走事件まで起きているのだ。それでもなお、頑なに監視カメラを設置しないことにも、わたしは何者かの意思の介在を疑わずにはいられない。

 施錠されない監房に監視カメラの不在。あまりに異常な二つの刑務状況。一体誰の、どんな思惑があるのだろうか。

 水沼、気をつけろ。あそこは普通じゃない。

 いなくなった同僚の言葉がひたひたと足音を立ててわたしに忍び寄る。何か、強大な意思と力が働くこの灰色のコンクリートの要塞の中で刑務官が殺害された。そしてそれをわたしは特別捜査官として、たった一人で対処しなければならない。そのことにわたしが恐怖を覚えなかったと言えば嘘になる。そんな中で市警察から応援の刑事が来るというのは数少ない朗報であった。かつて、たった三カ月だったが刑事になりたてのわたしに、殺人課刑事としての生き方を教えてくれた未未市警察捜査一課の刑事達。わたしは知っている。彼等はこの街の守護天使。彼等と一緒に捜査をすることが出来るのであれば、あるいは、わたしはこの捜査をやり遂げられる。わたしはそう期待したのだ。そう信じたのだ。そして迷えるわたしの前に、彼は遣わされた。

 わたしは彼に訴える。このD区画をとりまく巨大な悪意を。それに押しつぶされる前に、悪意と戦うために、わたしは彼に警察官としての正義を必死に口にする。だが彼の声は、まったく感情の色を帯びないまま、わたしの背中に残酷に投げかけられる。

「それで、お前はその十八件の不審死をすべて掘り起こして捜査しろと言うのか?」

 彼の威圧感のある口調に、わたしは心臓を鷲掴みにされる。

「ここが異常であることに異論はないがな、その十八人の不審死と今回の事件に何か関係があるのか?」

 それは、ない。まだない。「いいえ、」わたしは絞り出すように答える。

「だったら、」彼は有無を言わせぬ口調でわたしに命じる。「だったら目の前の事件の捜査に集中しろ。お前が今考えるべきは刑務官殺しであって名前も知らない囚人の死じゃない」

 そんなことはわかっている。彼が言うことは正しい。だが正式な記録に残されていない囚人の死がここにはおびただしく横たわっている。その一つ一つの死と、今回の刑務官の死はわたしにとっては同じ一つの死だ。わたしは警察官としてどんな死も見過ごすことは出来ない、疎かには出来ない。わたしは淡い期待を込めて振り返る。彼はこちらに背を向けたまま微動だにしない。その広い背中に、わたしは十五歳の少女に立ち返る。あの頃に立ち返る。そしてわたしの感情は爆発する。

「人が死んでいるんです。それなのに、ここでは誰もそのことに気を留めていません」

「囚人が死んでも誰も気にはしない。俺もな」囚人の死には意味がないというのか? 囚人だから、罪を犯した人間だから、誰かに恨まれる存在だから、だから囚人が死んでも通報しない。囚人だから捜査もしない。死んだのが囚人だから。名前も知らない囚人、その死には意味がない。そういうことですか?「囚人が一人死んでも、世界から悪人が一人減るだけだ。誰も気にはしない」

 そんなことを彼が口にするなんて。そんな言葉を。失望の波が襲い、わたしは涙があふれそうになる。必死にそれを押し止めながら、わたしは彼の背中に伝える。

「どんな人間でも、誰かの父親で誰かの母親で誰かの子供で誰かの友人なんです。わたしは、わたし達は刑事です。なかったことにしていいはずがないんです。東方さん。わたし達は捜査をするべきです」

 だが、祈りにも似たわたしの訴えは彼には届かない。彼は顔だけこちらをちらりと向けると、うっすらと笑みを浮かべたまま首を振る。

「駄目だ」

 その言葉にわたしは悟る。わたしは理解する。わたしの知っている東方日明はもう死んだのだ。一年前のあの事件、仲間の堕落を目にした時、きっとあの時に殺人課刑事の東方日明は死んだのだ。彼は、もう。

 それから彼は再び資料に視線を落とすと、わたしに言う。

「どうした。捜査に行かないのか?」

 その声は静かで、穏やかで、甘いささやきのような響きにわたしは喉元を掴まれるような感覚に襲われる。踵を返し目の前に立ちふさがる扉の前で、必死に息を整える。ぶるぶると肩を震わせたあと、わたしは大きく息を吐き、それから絞り出すように一言だけ口にする。「そうですね」

 わたしはおもむろにインターホンを押す。

「特別捜査官水沼警部、出ます」



 なんて。

 思春期か、わたしは。

 ごん、と音を立ててバスの窓に頭を置いたわたしは、ガラスに写る自分の横顔をぼんやりと眺めながらため息をつく。市街地に向かうバスに揺られながら、わたしは窓の外を流れる街灯の灯りをぼんやりと眺める。「東方、日明」わたしは自分の顔を見つめながらそうつぶやく。童顔を少しでも誤魔化すたびに選んだ古風な黒縁眼鏡でどんなに背伸びしたところで自分は自分でしかないのと同様に、彼だって東方日明に違いない。理想の彼を勝手に期待し勝手に裏切られたと落胆する。何て身勝手なんだろうとわたしは自分で自分に呆れてしまう。駄目だな、彼の前に立つとわたしはどうしても感情的になってしまう。きっとわたしは彼に甘えている。十五歳の少女に戻ってしまう。これじゃあ本当に父親に反抗する少女だ。だがそれにしても。

 わたしは相貌を引き締めると、猫の目をした男のことを考える。九一楼。彼はどうして東方日明をこの事件に巻き込んだのだろう。東方日明が推測した通り、D区画側が彼をこの事件の担当に指名したことは事実だろう。彼の性格、彼が置かれている状況を考えれば、囚人が犯人だというシナリオに都合よく乗っかってくれる刑事としては最適だ。だがいくらそんな青写真を描いたとしても、法務省側、いや、九一楼がそれを承諾しない限り実現しない。しかも九一楼のことだ、事件の性急な解決が望まれる場面で、一年近くまともに捜査をしていない刑事をD区画側が提案してくれば、当然その裏に不埒な動機が隠れていることはお見通しだったはずだ。法務省としては囚人が犯人であるというシナリオは望んでいない。それなのに何故、D区画側の思惑に加担するような決定をしたのだろうか。早期の事件解決が必須の中、それでもあえてD区画側の提案に乗ったのは、彼が東方日明という稀有な刑事のことを知っており、彼の殺人課刑事としての能力を高く評価しており、彼ならと期待したのだろうか。あの二人には過去に接点でもあったのだろうか。

「何を企んでいるの、九局長、」

 わたしが小さくつぶやくと、その息で窓ガラスが一瞬白く曇る。

 バスが終点の未未市中央駅のバス停に停まる。近道をしようと入った裏道には、いかがわしい露天商が路上に並んでいる。わたしは器用にそれを避けながら歩くが、古本を並べているワゴンの前で足を止める。「安くしとくよ」歯の抜けた老人の背後で、ビルのネオンがちかちかと点滅している。ワゴンに並べられた文庫本の中の一冊に、わたしはふと目を惹かれる。ヒロ・イシグロの『ボクサア』。表紙の擦り切れた文庫本を手にしたわたしは、老人に代金を支払うと本を片手に歩き出す。この本を読めば、少しは彼のことを理解出来るかもしれない、何てちょっとだけ期待して。ほんと、思春期か、わたしは。

 雨の上がった濡れた道を歩く。その先に、レンガ造りの古い建物が見えてくる。さあ、仕事だ。


 1994/4/4 Monday


「首都警察から本日付けで着任しました。水沼桐子巡査部長です。本日より三カ月間、お世話になります。よろしくお願いいたします」

 わたしは深々と頭を下げる。途端にきちんと閉じられていなかった背中のリュックからどさどさと中身が散らばり、わたしは慌ててそれを拾い集める。これだから本当に。ただでさえ真っ黒なおかっぱ頭にパンツスーツの小柄なわたしは未成年に間違われることもめずらしくない。最後にノートとリップを鞄にねじ込むとわたしは姿勢を正す。目が合うと銀縁眼鏡のその刑事は苦笑し、わたしは背中一杯に嫌な汗をかく。首都警察から来た上級一種公務員採用試験合格のお嬢様がこの国で最も過酷な捜査現場で知られる未未市警察捜査一課に来るなんて一体どんな気の迷いなのか、そう思われているに違いない。凶悪犯罪があとを絶たないこの街に、世間知らずの少女が研修に来たならわたしでも本気かと問いただす。

「捜査一課を案内しよう。まずは刑事部屋からだ」

 さっさと歩き出した刑事の背中を追う。刑事部屋。そこら中で電話が鳴り響き、制服警官が容疑者を取調室へと連行し、あちこちで怒声が響いている。まるで野戦病院のような刑事部屋を、刑事はわたしがちゃんと着いてきているのかたしかめもせずに歩いていく。どうして殺人課刑事という人種は、こうも歩くのが早いのだろうか。わたしはメモを片手に必死に追いかける。こういう時、足の短さは致命的な欠点だ。本当に嫌になる。

「彼等が電話交換手。捜査一課への通報を取り次ぎ、俺達に捜査を割り振る。捜査一課には現在四つの班がある。こいつは杉本、大島班の刑事だ」

 背の高いがっちりとした男が「杉本だ」と会釈し、わたしは深々と頭を下げる。

「あっちにいるのが同じく大島班の永野刑事と鈴下刑事。斉藤班と木山班は、今は捜査に出ていて不在だがどうせすぐ会える。ちなみにタバコを吸うか?」

 唐突な質問。わたしがいいえと首を振ると刑事は俺もだ、と答える。

「だがあいにく俺の相棒はタバコを吸う。ここは政府直轄都市だぜ。建前上、公的施設内は全館禁煙のはずだが、やめる気はないらしい。だから慣れろ。お前に気を使って禁煙を心がけるような奴じゃない。お前がタバコの煙にアレルギーがあって心臓発作を起こしても、咥えタバコで心臓マッサージをするような男だ」

 それは素敵な性格だ。

「あいつは今、取調室にいる。こっちだ」

 そう言うと、刑事は刑事部屋の横の扉を開ける。そこには廊下に沿ってずらりと取調室が並んでいる。

「最初に言っておくが、あいつの第一印象は最悪だ。殺人課刑事としては優秀だが人間としては絶望的だ。アドバイスしよう、必要以上に関わるな。あいつとは絡むだけ損をする」

「褒め言葉に聞こえませんが」

「褒めてない。あいつには褒めるところがない」

 そう言ったところで、一番奥の取調室の扉が乱暴に開いて一人の男が現れる。背はそれほど高くないが分厚い胸板と黒々とした隈を双眸に浮かべた目つきの悪い男。

「落ちたぞ」

 わたし達の方を見るなり男は言う。刑事はふむ、と腕時計を見て答える。「早いな」

「四分十二、新記録だ。俺の勝ちだ、払えよ」

 やれやれと刑事は頭を振ると、男の方へと歩いていき財布から紙幣を一枚抜き取って手渡す。慌てて刑事を追いかけてきたわたしに気付いて男は怪訝そうにたずねる。

「いつから子守りのバイトを?」

「話しただろう? 今日付けで首都警から研修生が来るって。覚えてないのかよ」

「いくつだ、十五歳か?」

「彼女はキャリアの研修生だぞ」

 彼はわたしを品定めするように頭の先から足の先までじろじろと見る。不快な視線。最後に名札を覗き込むとわたしの名前を口にする。

「ミズヌマ、キリコ、」

「トウコです」

 わたしは反射的に訂正するが、男はまるで悪夢を追い払うように頭を振るとわたしの両肩に手を置いて、どっちでもいい、と言い放つ。いくはない。わたしの名前だぞ。そんなこちらの気持ちなど無視して、彼はわたしの両肩に手を置いたまま神妙な面持ちで言う。

「いいかお嬢ちゃん。悪いことは言わない、ここはやめておけ。苦労して一流大学を卒業して首都警察に配属されたのに、こんな掃き溜めみたいな職場でセクハラを受けるつもりか。金に困っているなら駅前で下着でも売ったらどうだ。女子校生なら高値で売れる」

 父はかつてわたしにこう言った。後先考えずに口走るのがお前の悪い癖だと。かっとした時はまず口を閉じろ。一度、冷静になって、それからゆっくりと口を開け。わたしはそんな父を尊敬しているし父の教えに従順であろうと日々努めている。だからこの時もわたしはちゃんと口を閉じていた。ただ行き場を失った不快感の発露として、右手はわたしの意に反して彼の頬を強く張ったのだが。

 派手な音が響き、頬を張られた男は呆気にとられたようにわたしを見る。

 やってしまった。

 全身の血液が沸騰する。真っ赤な顔で思わず逃げ出すように踵を返すとわたしは歩き出す。「出会って三十秒で嫌われたな。こっちも新記録だ」刑事が笑うのが背中で聞こえるが、わたしは足を止めることが出来ない。足早に追いついてきた刑事は、うれしそうにわたしの肩を叩く。

「だから言っただろう。あいつには絡むだけ損をする」

 わたしは真っ赤な顔をしたまま立ち止まると、刑事に向かって深々と頭を下げる。

「すいませんでした。でも、あれは、」

「気にするな。俺もすっとした」

 え、顔を上げるのと同時に、取調室の前に立ち尽くしたままの男が大声を上げる。

「聞こえているぞ」

 ほんと、最悪の出会い。

 だが、最悪の出会いが最悪の物語になるとは限らない。


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