さよならサメ子

愛田 猛

【短編】さよならサメ子


太陽の照り付ける嵐の日だった。


僕がサメ子と別れたのは、まるで運命の皮肉のようだった。


ホオジロザメのサメ子は、宙返りをするように海へと消えていった。僕の心は、嵐の海のように荒れ狂い、鉛のように重かった。


サメ子との思い出が、走馬灯のように駆け巡る。


一緒に泳いだ青い海。全裸の君はうつっくしいサメ肌だったね。


分かち合った食事は人肉だったのかな。


そして静かな夜に語らった夢。僕は海賊王に。そして君はサッカー選手かクジラになりたいと。


全てが、今は幻のように思えた。


僕は何とか立ち上がろうと試みる。しかし、足は重く、心が前に進もうとしない。


ふと、ポケットに何かが入っていることに気づいた。それは、サメ子がくれたサメ子の歯だった。


その歯を手に取り、そっと耳に当ててみる。すると、かすかに波の音が聞こえてきた。それは、サメ子の声が聞こえるような、優しい音だった。


「さようなら、私の太陽。いつかまた、どこかで会いましょう。」


サメ子の言葉が、僕の心に響き渡る。僕は、決意を新たにする。


「必ず、また会おう。サメ子。」


僕は、サメ子の歯をを胸に抱きしめ、街へと歩き出した。太陽が照り付ける中、嵐は、まだ収まる気配を見せなかった。


しかし、僕は前を見据えていた。サメ子との再会を信じて。


数か月すると、正月になった。サメ子が居なくても、時は流れる。


雑煮とお屠蘇。日本の正月は美味しい。

紅白の蒲鉾に、醤油とワサビ漬けをつけて食べる。


「約束通り、また会えたね…」そんな声が聞こえたような気がするが、きっと気のせいだろう。


僕は今、インドマグロのマグ子と、熱烈に愛をかわしあっている。



(完)



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さよならサメ子 愛田 猛 @takaida1

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