第4話 ミキとヨミ

 タケルは目標を指さした。

「あそこに小さな公園が見えるだろ。あの近くにいる、サルタ大丈夫か?」

「まだまだ、行けるで」

 サルタと手をつなぎ、またジャンプする。小さな児童公園に着地した。雑草が生い茂っていて、今では公園というより草はらだ。ジャングルジムとブランコとすべり台が置いてある。元はカラフルに塗ってあった遊具も、今はみんな塗装が劣化して錆びが浮いている。この公園で最後に子供たちが遊んでから何年経っているのだろう。心の触手を伸ばして周囲を探ってみる。近くにいる、二人だ。


 公園の出口に向かうと、正面のマンションの入り口から二人の女性が現れた。二人とも子供といっても通用するような背丈だ。

「ミキ、ヨミ(詠見)、大丈夫だったか?」

「タケル、待ってたよ。ボクたちは大丈夫。サクヤとサルやんも無事でよかった。ミキはちゃんとボクが保護しといたよ」

 ヨミがちょっと得意げに言う。小柄なヨミは髪型もボーイッシュで、活発な少年のようにも見える。ミキも小柄だが、ヨミとは対照的に女性的な容姿だ。色白な顔に肩まで伸ばしたおかっぱの髪。しかし、その顔には表情がなく、まるで市松人形のようだ。


「サルやん、あんた大丈夫、シャツが血まみれだよ」とヨミ。

「ああ、ちょっとケガした。もう血も止まっとるし、大事ない。かすり傷や」

「サルやん、あんた無駄にデカいけど、大きさの分、動きが鈍いんじゃないの。気をつけなさいよね。ホントに」

「ほっといてくれるか、チビ助」サルタもヨミと再会できて嬉しそうだ。

「ヨミ、君たちは、どんな様子だった。問題はなかったのか」

「うん、ボクたちは平気さ。朝、目が覚めた時はちょっと頭が痛かったけどね。それだけ、すぐに治った。ミキもボクのすぐ近くに落ちてたんだ。すぐに見つけたよ。あいかわらず、何考えてるかわかんないけどね。タケル達の様子も見えてたんだ」

 ヨミの能力はクレアボヤンス(透視・千里眼)である。アマテラスにおいては「目」となる力だ。


「ヨミ、ミキを助けてくれてありがとう」タケルはヨミに礼を言うと、ミキにも話しかける「ミキ、こわかったかい、もう大丈夫だよ」ミキは相変わらず無表情だ。

「ミキさま、昨日、私たちを助けてくださいましたね。ありがとうございます」サクヤがミキを抱きしめる。

「ミキさま、髪の毛がくしゃくしゃですわ。といてあげましょう」

 どこに持っていたのかサクヤは小さな櫛を取り出すと、ミキの髪をとかし始める。ミキの表情は変わらないが、彼女の心の奥の方で、かすかにやわらかな感情が動いた感触があった。


「感動の再会やけど、もう一人、探さなあかんのちゃうか」とサルタ。

「あんまり役に立たたないヤツだけどね。ボクはもう見つけてるよ」ヨミの千里眼は、捜索には便利な能力だ。

 「彼の能力が役に立たないわけではないんだ。世界の在り方の方に変化が起こって未来が大きく揺らいでいるから、予知が成り立たなくなった。でもアマテラスに変化するためには彼がいなくてはならない。それに、その前に大切な仲間だろ。彼の前で役に立たないなんて言ってはいけないよ」

「わかってるって、タケル。ところでサルやん、今日は何回か飛んでるみたいだけど、まだ元気ある?」

「今度は5人か、ちょい重いけど、もう一回くらいはなんとかなるやろ」

 サルタのテレポーテーション能力にはかなりの心的エネルギーを費やすので、連続して使える回数には限度があるのだ。

「じゃあボクがあいつのいる場所を見せるから、タケルがサルやんに中継してちょうだい」ヨミの心に情景が浮かぶ、川のそばの大きな建物に隠れている少年の姿が見える。タケルはその情景をサルタの心に投影した。

「よっしゃ、わかった、みんな手、繋いでんか」5人が輪になって手をつなぐと、瞬間、テレポートした。

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