第2話 サクヤ
その時、突然、2機のダチョウ型マシンが炎に包まれ、爆散した。パイロキネシス(発火能力)だ!サクヤ(佐久夜)か。
「サクヤ!」念波を送ってみると応答があった。
「タケルさま!ご無事でしたか」
「助かった、どこにいる?」
「この建物の下にいます。銃声が聞こえたので駆けつけました」
タケルは階段を下りて、サクヤと再会した。サクヤは背が高く運動能力に優れた女性である。パイロキネシスとサイコキネシス系の能力が特に優れている。融合神アマテラスにおいては「手」、火力、攻撃系の能力の源泉となる。しかし、見た目は黒髪を長く伸ばしたしとやかな容貌で、物腰も礼儀正しい。
「みんなは?」
「わかりません。私も探していたのです」
タケルは仲間を探すためにサクヤと精神融合をすることにした。二人融合では、あまり大きな力は得られないが、一人でいるよりは数段強いレベルにはなる。
「サクヤ、心をつなげよう」
タケルがそう言うと、サクヤはうなずいた。サクヤは背が高いので、向かい合って立つとタケルと目の高さがほぼ同じだ。タケルはサクヤの目をのぞき込む。心の触手を伸ばしていくと、サクヤの感覚と思考に触れる事ができる。サクヤの目から見た自分が見える。サクヤの不安を感じる。みんな無事なのか、死んでいるのではないか、また出会えるのか、どこに行けば安心な暮らしがあるのか……。だんだんサクヤが考えているのか、自分が考えているのか区別がつかなくなっていく。すると不意に、背が高くなったように視界が上がる。音も良く聞こえ、感覚が鋭敏になるのを感じる。気が付くとタケルたちは一柱の下級神に
この形態を取ると、かなり遠くまで見通す事ができる、心の触手の到達距離もはるかに広くなる。一人でいる時の視覚では気が付かなかったが、周囲にはかなりの数のダチョウ型が展開していて、先ほど破壊した仲間が発信した信号の地点に集結しつつある。ここにいては危険だ。みんなはどこにいるのだろう。心の触手の感覚網に反応を感じる。やはり南北方向に散らばっている。北に三人、南に一人いる。ミキはどこか。おそらく北。しかし、次第に感度が下がってくる。心的エネルギーが減ってきている。がんばれば、まだ持続できそうだが、ここで無理をし過ぎない方がいいだろう。
分離を始める前に、ダチョウ達を攪乱する必要がある。逃走するタケルたちのダミー情報を近くにいるダチョウ型の感覚器官に送り込む。そして分離プロセスに入った。融合しているテレパシー帯域が狭まるにつれて、サクヤの心と視界が見えてくる。それがどんどん遠ざかって、気が付くと、タケルはサクヤの前に立って目を覗き込んでいる。ちょっと疲れたが、問題ない。サクヤがちょっとふら付く。
「サクヤ、大丈夫か」
「少しめまいがしました、もう大丈夫です」
「見えたな」
「見えました」
「行こう」
タケルたちはダチョウに送ったダミー情報とは反対の方向に、移動を始めた。しばらくはダミー情報を与えたダチョウが仲間を引き付けてくれるだろう。しかし、衛星からの索敵にも警戒しなくてはならない。できるだけ崩れかけた建物の軒下を通るようにしながら、足早に移動する。
南北方向につながる元の商店街を見つけた。あまり破壊されておらず、アーケードの天蓋が残っているため、衛星からの視線を遮るのにもちょうどいい。この商店街を北に進む。崩れている建物は少ないが、多くの店舗には略奪の跡が残り、シャッターや戸口のガラスが破壊され穴が大きく開いている。戦争に使われた生物兵器の汚染のため、この都市が放棄されてから、かなりの年月が経っている。錆の浮いた鉄柱、天蓋にもところどころに穴が開いている。しかし、生物兵器は鳥たちには影響を与えなかったようで、商店街にはたくさんの鳩が住み着いていた。タケルたちが近づくと通路にいた鳩がバサバサと羽音を立てて一斉に舞い上がる。こんなコンクリートとアスファルトで地表が覆いつくされたような場所でどうやって暮らしているのだろう。
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