急、終止符

 終わりが目前に迫る光景が好きだ。

 残り火というか余韻というか。私の語彙では表現できない。

 文化祭の開催時間を過ぎ、各クラスや文化部、実行委員は撤収作業へと進んでいる。

 折り畳み式の机を片している男子の群れの中の一人。

「秀矢、ちょっといい」

「あー、あと五分くらい待って」

 よかった。呼んどいてだけど、今来られたら困る。

「先行ってるよ」

「どこに?」

「東階段の一番上」

「…わかった」

 視界の真後ろで彼がひゅーとか、なんだとか僻みを言われてる。

 私は足早になりそうなのを抑えながら目的の場所を目指す。途中、意味もなく立ち止まり夕日を眺めてみたりもした。初めて学校の階段の段数を知った。しっかり一段、一段踏みしめて数えたから間違いはない。

 センチメンタルな気分を壁に預けて、彼を待つ。

 階下から一つの集合体となって言葉を成さない声が聞こえる。

 なにか大きなものを落としたような強い衝撃音も聞こえてくる。

 足音が近くなってくるのも聞こえる。

 聞こえるだけで見てはいない。

「ここって立ち入り禁止じゃなかったか?」

「規制されてないし大丈夫でしょ」

 私たちがいるのは屋上へ続く扉がある踊り場。屋上にはそもそも出れないし、ましてや今の時間にここに来る人はいないと考えた。

「……」

 伝えることも覚悟も決まってるはずなのに何も言い出せない。

「なあ、終わりにしようか」

「え?」

「別れたくてこの場所まで呼んだんじゃないのか」

「……うん」

「そっか」

「…えっとね、嫌いになったとかじゃなくて…でも前みたいに好きってわけじゃなくて、それで―――」

「―――わかるよ。負担になってきたんでしょ」

「…うん、だから…別れたい」

 俯いた顔を持ち上げると君は笑っていた。

 その表情を見て思わず頬が緩む。


 ようやく肩の荷が下りた気がして、安心できた。


 これが失恋なのかはわからないけど、これが失恋ならいいな。

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