破、決意
秋晴れとはこのことなんだろうか。
雲一つない晴れの日に文化祭当日を迎えた。
校長先生のお話であれば,皆さんの日頃の行いが天気に表れていますなどと言いそうなくらいだ。
ホームルームでの出欠確認を終えた俺は、悠陽と二人で校内を歩き回っている。
中間テストを終えた直後の文化祭ということもあり、生徒の熱気は去年よりも増しているように感じる。
「私たちのシフトは午後にしてもらってるから午前中に遊び尽くさないとね」
「係の仕事もあるしな」
「最初、どこ行こうか」
「どこでもいいなら三組に行きたい。金本が来てほしいって」
「それなら三組に行こう」
プログラムによると三組ではお化け屋敷をやってるようだ。
風船や段ボールで装飾され、普段のくすんだ壁の面影を感じさせない廊下を進んでいく。
並んで歩くとどうも視線を感じる。
好奇心が丸出しのおもしろがるような下世話な視線。不快感がないといえばうそになる。
「いらっしゃい」
何を模しているのかまったくわからないがお札を大量に張り付けた白装束のゾンビにに話しかけられた。和洋混交してしまっている。
「お化けかゾンビかはっきりしろよ」
「どっちも死んでるしいいんじゃない?」
「そういうことにしといてくれ、さっそく中へどうぞ」
衣装の説明を雑に流し、金本から設定と遊び方を聞かされる。手のひらサイズの小さな紙皿に置かれている盛り塩をゴールまでこぼさずに運べばクリアというルールらしい。当然だが、お化けに扮した生徒が驚かせに来る。掃除が大変になりそうだな。
悠陽が手に塩を盛った紙皿を乗せたのを確認して中へと入る。
真っ暗な教室の中には模造紙で書かれた墓が見える。臨時的に設置されている段ボールか何かで仕切られた壁に沿って進んでいく。
「秀矢、暗いのとか怖いの大丈夫なの?」
「人並みには大丈―――うわっ」
「だいじょばなそうだね」
曲がり角から急に貞子みたいなの来たんだから仕方ない。なかなか気合の入った衣装のようだ。
「悠陽は平気っぽいね」
「うーん、あまりドキドキとかしないな」
「まあ学生レベルだしな」
「どの口が言ってんの…」
若干呆れられながらも順路に沿ってさらに進んでいく。
普段なら教室の真ん中あたりに立っているのだろうが暗くてわからない。
突然、袖を引かれ質問される。
「ドキドキする?」
俺より数センチ背の低い悠陽が上目づかいで見てくるのはわかった。なにを試しているんだろう。
「いや、しない」
「…そっか……」
何故かありがとうと聞こえたような気がした。
「とりあえず袖引っ張るのやめてくれないか。伸びるから」
「え、袖?」
「ほら」
そこで右手を胸元当たりまで持ち上げて気づいた。袖を掴んでいる細長く白い手は後ろの方へ―――
「「―――ぎゃああああ」」
二つの叫び声は狭く短い教室の通路を高速で移動し、廊下へと脱出する。
「お疲れさまでした」
出口で待ち構えていた係の人に笑われながら景品を渡される。貰ったのは定価十円ほどのおいしい棒のお菓子。ちなみに盛り塩は跡形もなくどこかにこぼしてきた。
「最後だけびっくりしたね」
ケラケラ笑いながら悠陽はさっそく戦利品を開封し、食べ歩いている。
「行儀悪い」
「なにをいまさら気にしているんだか、周りを見てみなよ」
「まあ今日くらいはいいのか」
普段なら食べ歩きは間違いなく注意されているだろうが教師陣も文化祭の日くらいはと大目に見ているのか、注意するべき人が多くて対処しきれないため放置しているのかわからない。
悠陽はいつもよりテンションが高いのか珍しくバレッタで髪を留めている。以前、大事な日にしかつけないお気に入りって言っていた。部活の大会の日に目にしたような気もするし、俺が告白された時もつけていた気がする。
そのあともいくつかのクラスを回り、クラスのシフトがあるため自分たちの教室へと戻る。もちろん実行委員として記録の写真も忘れずに。
「お帰りー」
教室の前の廊下で呼び子の役割をしていた上崎が迎えてくれた。
「おかげさまで楽しく回ってこれたよ」
「じゃ、さっそく働いてもらいます」
「わかった。玲菜より頑張るよ」
悠陽は得意満面の笑みでピースしながら答える。人差し指と中指を二回くっつける。そのしぐさに上崎が一瞬驚いたように見えた。
悠陽は教室の中へと入っていく。続いて入ろうとしたところで上崎に呼び止められる。
「あんたはこっち」
クイっと親指で床を指す。どうやら呼び込みをやれということらしい。
「了解」
手持ちサイズのホワイトボードを持ち上げる。そこにはやたらとキラキラしたエフェクトで射的と書かれている。うちのクラスの企画名だ。
目の前を人が通るたびに、どうですかと一声かけて宣伝をする。無視されるか大丈夫ですと断られるのが大半だが、中にはやりますと意気込んで遊んでくれる来客がいる。
「さっき、何か話した?」
「係の仕事もかねて色々回ってきた」
「違う違う、何か話した?」
「なにかって…普通にいつもどおりのどうでもいいような話」
そう。とつぶやくと上崎はまた仕事に戻る。物憂げな顔を横目にして俺がこの後、やろうとしてることが気づかれたのかと思う。
「これは独り言なんだけど―――」
と前置きし上崎がなにやら言い始めた。
「私はまだ応援してるし、いけるんじゃないかって。あと、お似合いだとも」
「なんのことだ」
「独り言だよ」
意外と見ているんだな。
そう言われてしまったら追及はできないし、する気も起きなくなった。
そこから上崎と会話をすることなく、ひたすらに仕事をした。時々、他のクラスメイトと担当場所を変わりながらも仕事をした。
そして、文化祭の終わりを校内放送が宣言する。
そして―――
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