第14話 魔術大会の後始末
魔術大会の後始末
学園中に、ヘラ・リベレットの名がとどろいた。
それは氷晶の魔人を、みごとに完敗させたのだから当然だろう。学園三強の一角、それが下級生に負けた、という事実が弥が上にも名声を高めている。
ただお嬢様として、注目されるのは困りごとで、自分が出場する競技が終わったので、また逃げモードになった。
ただ、そうやって逃げている間は安心だ。中途半端にうろうろしていると、お嬢様に近づく輩も増えるから。逆に、そうなったから、やっとボクが自由に動けるようになった。
「そろそろ、後始末に動きますか」
そう、ボクはお嬢様をただ護衛していたわけではない。この学園の裏にある事情も色々とさぐっていた。
炎龍帝は最初から不利を自覚していた。レッド・グラウニーが金銭により、お嬢様を誘おうとしていたように……。そして、その金銭の出元、それが賭博を仕掛けている人間たちだ。
大穴である炎龍帝が勝てば、一獲千金が狙える……と。
だが、途中で冒険者をつかって命を狙ったのは、むしろ危機感をもたせて、どこかのチームに在籍するよう促すためだったのだ。
そして、金銭的なメリットをチラつかせ、炎龍帝に所属させよう……と。ただもう一つの事情も存在していた。
「レッド・グラウニーさん」
ボクは声をかけた。血眼になって、お嬢様をさがしている炎龍帝のブレーンとして活動していた副官である。
「グラウニー家では、炎龍帝がこの魔術大会で勝利し、息子の名を上げようとしていたようだな」
「し……知らない」
「親が失職しかかっていて、息子の名で復権……。情けない話だな」
レッドも気付く。マスクをしているボクがすでに事情を知っていることに……。
「フレイム・バースト!」
詠唱ではなく、身体に刻んだ呪文で高速発動された魔法だ。
対象の周囲に炎を発生させ、一気に焼き尽くす危ない魔法……。でも、同じ魔術師だとそれに対抗できる魔法があるので、防御が可能だ。
ただ、ボクは魔力ゼロ。魔法でそれを食い止めることなどできない。だけど、それ以上に素早く動いて、心臓を軽く小突いていた。
ハートブレイクショットは、相手の息を一瞬止める。心臓が止まることもあるけれど、どうせ健全な心臓ならすぐ動く。高齢者や心臓の弱い人にやると本当に危ないので、良い子は真似しちゃダメ!
しかしレッドはただの飾りだ。むしろ、グラウニー家を追いこんで、魔術大会で、絶対に勝利をめざさないといけない状況においやったヤツがいる。
マスクをかぶった貴族、エド・ボーマンだ。今回の賭博の元締めであり、子供たちの大会で、莫大な利益を狙った男である。
別に、そういう輩はこの異世界とて五万といるだろうし、そんなものに関わるつもりはない。
でも、お嬢様を命の危機に追いやった……否。お嬢様にいらぬ不安を与えたことは万死に値する。
その日、エドは全裸に剥かれ、学園の時計塔から逆さづりにされた。犯人は不明であるが、同時に屋敷も燃え、財産を失ったのは如何なる理由か……。
大会は終焉した。結局、チーム戦は氷晶の魔人が勝利した。メルセラ・スタンフォードはお嬢様に負けたが、最低3つの競技に参加するとは、それ以上の競技にでられる、ということ。チーム戦や個人成績には3つの競技しか参照されないので、数を打てばいい、というものではないけれど、炎龍帝や暴風王のメンバーが得意そうな競技で、得点させないように有力なメンバーを多数の競技に参加させるなど、戦略が功をそうしたからだ。
メルセラも7つの競技でトップであり、お嬢様に負けた一戦は参照する競技として申請にふくめなかった。
暴風王は逆に、友達感覚であつまっているので、そういう戦略を通すのは難しい。メンバーが多数、参加する競技で有力なメンバーをたて、上位を独占させるなどしたら、ランキングにも入れないメンバーの不満が溜まるだけだからだ。
でも、そうした勝利とは別に、メルセラは不満を溜めていた。
ヘラお嬢様がファリス、アカミアと屋敷に帰ろうと、学園をでたところで待ち伏せしていた。
「私と勝負しなさい」
「……勝負?」
「競技として……ではなく、魔法で私と戦え!」
「イヤです!」
お嬢様ははっきりとそう応じた。こういうとき、お嬢様は意外と、ちゃんと意見をいえる。
嫌なことは嫌だからだ。不特定多数から追われ、逃げ回っていたときとはちがう。
ただ、メルセラは驚いた。貴族は通常、勝負をうけないのは、名誉にかかわる、と考えるはずだからだ。
でもお嬢様は、成り上がりの貴族。勝負なんて関係なく、嫌なことは嫌で、やりたくないのだ。特に、魔法に関して誰かと争ったり、それを見せびらかしたりすることも嫌う。
師匠の教えらしいけれど、お嬢様にとって野良争いなんて何の意味も価値もない、と考えているのだ。
手にしたサルナシの木の杖を、メルセラに向けた。
「それに、今のあなたでは私に敵わない。魔力量だけでなく、氷魔法には隠しきれない弱点があるから……」
お嬢様はそういうと、ファリスとアカミアを連れて歩き去る。後には呆然としたメルセラが残されるばかりだった。
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