第13話 大魔道士 対 氷晶の魔人

     大魔道士 対 氷晶の魔人


「あれが、ヘラ・リベレットね」

 暴風王と呼ばれるティア・ゼフュレムが競技の様子をながめている。彼女はすでにすべての競技を終え、後はチームのメンバーがどれだけ得点を積み上げられるか? が勝敗を分ける。

「私たち、一番メンバーが多いのに、やっぱりぎりぎりじゃん!」

 駄々をこねるように、そういうけれど、暴風王は明るい雰囲気で、チームに入りたいという人も多い一方で、その質の低さが悩みだった。

 暴風王は組織化されてもサブリーダーのようなものはおかず、あくまでティアがトップで、後はみんな友達、という位置づけだ。彼女の隣には、親友であるユージン・オズボーンがいる。

「氷晶の魔人は、それこそ謎めいたメルセラに惹かれ、集まったメンバーだからね。うちのように友達感覚で入るところじゃない。真に実力のある者が集まっているんだね……」

「でも、ここでメルセラが負けると痛いよね。彼女の神秘性にも傷がつく」

「大魔法使いに勝てるかしら?」

「学園はじまって以来の英才、氷晶の魔人がこれまで得てきた名誉は、伊達じゃないでしょ。特に、今回は彼女の得意競技よ」

「でも、ヘラはあらゆる魔法に精通している、と噂されるわ」

「学生のうちは、一つの魔法を磨くよう指導される。それはその分野で秀でた方が、応用も利くって話。あの年で、あらゆる魔法って……。手を広げても散漫になるだけよ」

「じゃあ……」

「ここで勝ったら、本当にすごいわよ、彼女……」

 エルフ族である彼女にとって、人族の貴族のごたごたなんて興味ない。でも、大魔道士には興味があった。


「3分の間に、地上から湧き上がってくる水が、1500mmの高さまで上がる前に魔法を当てる。その数を競う競技です。先に円の中に立ったのは、メルセラ。さぁどうなるでしょうか!」

 マスクにフードをかぶり、周りが見えていないはずだが、水柱が上がると、すぐに氷のつぶてをぶつける。そちらを見ることも、向くこともなく、メルセラは正確に水柱に氷を当てることができるようだ。

「前半は、早く当てた方がすぐに次の水柱が上がるので有利。残り1分は、複数の水柱がランダム発生になります。さぁ、どう捌ききるか……。おおっと! メルセラがかすみに包まれ、そこから氷のつぶてが飛ぶッ!」

 メルセラの周りに、まるで雲のようなものが現れ、彼女の姿がみえなくなった。それは小さな氷ができたためで、本当に雲の中にいるようなものだ。

「周りにある氷が鏡のように周辺を映すことで、360度を完全にみることができているようね。これは好記録がでるわよ」

 ティアもそうつぶやく。

 そう、雲はあくまで遠くからみた者が、光の散乱によって白、または灰色に見えるものだ。

 メルセラ自身は、光を屈曲させるだけなので、むしろわざわざ振り向かずとも真後ろだって見える。

「さすがメルセラ! 3分で118の的に当てた。学園の記録を大幅に上回る、新記録です!」


「さぁ、ヘラが舞台に立ちました。杖をもっていないが、彼女も氷を使って的を射抜くのか? 注目を集めます」

 水の柱が立ち上がると、ヘラお嬢様は「ファイアボール!」と火の玉を飛ばしてそれに当てる。

「あぁッと! ヘラは火魔法だ。水にかき消されてしまうため、より正確に当てないと得点にならないぞ。それに、魔法名を一々叫ぶのか⁉」

 そう、お嬢様は叫ぶのだ。これまでは魔力をつかうけれど、魔法をつかうわけではなかったので、それが明確にならなかっただけ。

 ただ、お嬢様はただのファイアボール、小さな火球を放つわけではない。一瞬にして数十の火球をつくり、それを飛ばすのだ。

 正確に当てる技をもつけれど、メルセラとの差は見いだせない。

「さぁ、ここから複数の水柱が、同時に上がるぞ! 火球を当てることで、水蒸気が発生し、余計に見えづらくなった今、正確に当てられるのか⁉」

 だが、お嬢様は手を上にかかげて「サンダーボルト!」

 雷撃で、同時に水柱へと当てる。

 その技は素晴らしいけれど、やはりメルセラとの差は見いだしにくい。そのまま3分を終えた。

「さぁ、その数は……151! 何だ、この数は⁈」


「氷魔法をつかったメルセラ。それはわずかながら、水柱を上げる噴出孔を凍らせ、そこから水がでるのを阻害していたのでしょうね。一方で、火魔法は水をお湯へと変えるように、水分子の動きを活性化させ、その分も速くなったのね」

 ティアが感心するが、隣のユージンが「でも、それだけの理由じゃあ、151なんて数……」

 ボクには分かっていた。帯電した水は、互いに反発し合うのだ。一発ずつでてくる前半なら、その手は通用しない。でも、残り1分で連続して水柱を上げる際、反発し合うことで、より速く水柱が上がるようになった。ホースの出口を指でつまんでしぼると、勢いがつくようなものだ。

「またもダントツの1位! やはり大魔道士、ヘラ・リベレット‼」

 お嬢様は恥ずかしそうに、そそくさと舞台から降りる。それを見つめるメルセラのことが、ボクには気になっていた。



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