第12話 大魔道士の参戦

     大魔道士の参戦


「さぁ、満を持して登場! 大魔道士ヘラ・リベレット‼ この競技はまさに針の穴に糸を通す……否、魔力を通せば勝利です。この3mmまで狭まったところで、ヘラが初の試技に入ります」

 お嬢様は右手の人差し指を、10m先の小さな穴にむける。するとそこに魔力の糸がすーっと伸びていき、見事にその穴を貫通した。

「さすが、世界に数名しかいない大魔道士の称号をもつ、ヘラ・リベレット。難なくこなしました」

 実況はそう興奮するけれど、お嬢様は1mmでも平気で通すのだ。1人でダンジョンに行く、というのはそれぐらいのことができないと、使いものにならない。

「お嬢様は断トツの1位だね」

 アカミアはそういって喜ぶけれど、ファリスは首を横にふった。

「チーム戦の点数は、基本的に順位により確定するけれど、これだけの大差がつくとさらに特典がある。お嬢様がこの競技の得点を総取り……かも。そうなったら、三つのチームもますますお嬢様のことを放っておけなくなるわ」


 そのころ、ボクはお嬢様に近づこうとする怪しい人物らを、徹底的に排除する動きをしていた。

 足にチクッとした痛みが走り、蜂に刺された! とカン違いさせる。慌てて医務室に行くので、お嬢様に近づくことを諦める、という仕掛けだ。

 さすがにお嬢様も注目度が高過ぎて、逃げも隠れもできなくなった。でも逆にそれは、お嬢様がどこにいるか? すぐ分かるということ。さらにそこに近づこうとする者を、ボクが監視しやすくなった、と好意的に考えることにした。

 ボクはマスクをして、校内をうろつく。この魔術大会は、お忍びで見学にくる貴族も多く、顔を隠すマスクがふつうに露店でも売られている。それを被っていれば身分がバレることもない。

 この前のように、いきなり害そうとする輩は近づきにくくなった一方、気軽に声をかける者も増え、見極めが大変だ。

 この魔術大会では、大きな威力を出すような競技はほとんどない。むしろ、適切に制御できるか? その技を競う。

 お嬢様が次にエントリーしたのは、紙で折られた人形を浮かせて、所定のルートを如何に早く動かせるか? という競技である。

 杖ももたず、お嬢様は指先だけで見事に動かし、またもダントツのトップだ。

 お嬢様はあまり、自分の杖を人にみせたがらない。それは、通常の魔法使いはニワトコの木でできた杖をつかうのに、お嬢様はサルナシの木。しかもスティックタイプではなく、身長と同じぐらいの大きさがある。どうしてその杖を? と訊ねたことがあるけれど、はぐらかされた。

 お嬢様の力を、一番引きだしてくれる杖なのだけれど、周りとちがうのが恥ずかしいようだ。


「ヘラ・リベレット! オレと戦え! そして、オマエが負けたら、オレの配下になれ!」

 炎龍帝のバートが、お嬢様に戦いを挑んできた。

「えっと……、その……」

 戸惑うお嬢様に、さらにバートが詰め寄る。

「オマエが勝ったら、対等な同盟をくんで、オレのチームに入れ!」

 何とも都合のいいことをいっている。

 炎龍帝は今、最下位にしずんでおり、お嬢様を招き入れて一気にトップ争いに加わりたい、との目論見だ。

 でも、お嬢様は当然のように逃げだす。それを追いかけようとしたバートは、こめかみに石を喰らって、そのまま伸びてしまった。

 しつこそうなので、ボクが石を放って、気を失わせたのだ。死ぬことはないが、当面のびていれば、それでいい。

 バートはもう出番を終えており、ここで彼が伸びてしまったことで、最下位も確定だろう。

 ただ問題は、激しくデッドヒートを繰り広げる氷晶の魔人と、暴風王だ。お嬢様はどちらにも入る気がないようだけれど、恐らくお嬢様が参加すると、勝負の帰趨が決まってしまう。

 ただ、ボクはもう一つの勢力に気づいていた。それはお嬢様を襲った冒険者から聞きだした、賭博師たちの存在である。裏では大きな金額が動いており、お嬢様を排除しようとする者がいる、というのだ。

 マスクをつけ、お嬢様を護衛するのもそういった事情があった。


「さぁ、ヘラ・リベレットがここでも登場だ。そして、この競技にはメルセラ・スタンフォードも参加するぞ! これは愉しみな一戦です」

 競技は円の中心に立って、その円の周りで噴水のように立ち上がる水に、魔力を当てれば得点だ。

 メルセラは氷晶……とつくように、氷魔法を得意とする。お嬢様は目立ちたくないので、地味な競技をえらんだはずだけれど、水をつかう競技だということを失念していたようだ。

 氷なら、水の柱にあてやすく、かすっても当たった、と判断されるだろう。最終盤で、氷晶の魔人は勝利を確定させるつもりなのだ。

 お嬢様とて、目立ちたくなければ負ける、という手もあるけれど、学校の成績にもかかわるので手が抜けない。メルセラはチーム戦での勝利を、そういう意味でどちらも負けられない。

 熾烈な戦いとなることが予想された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る