第11話 隠密警護
隠密警護
炎龍帝のグループは、かなり縦割りが厳しくて、バート・オルディンがトップとして君臨し、その下にはレッド・グラウニーという中堅貴族の息子が、参謀をつとめている。
魔力の高低には厳然とした差があり、そこで自らが上にいくのは難しい。チームとして勝利することで自分の価値を高めることができる……との思惑で、参謀が暗躍するのだ。
レッドは配下に「リベレット家は家計が苦しい。金銭的なメリットをちらつかせてでも、チームに引き入れろ」と指示をだす。リベレット家の家計には優しい誘い方である。
一方で、氷晶の魔人のグループは、リーダーのメルセラが謎につつまれるように、チームの構成員も不明で、活動自体もなぞだ。ただ、お嬢様に接触するような動きもみられ、決して傍観するわけではない。
暴風王のグループは、ティア・ゼフュレムが明るい性格で、明け透けということもあって、チーム全体が明るいムードだ。
お嬢様のことも、まるで大学のサークルに誘うような軽いノリであり、友達づくりという意味では最適かもしれない。
魔術大会は5日間ぶっつづけで、様々な競技が行われる。
生徒はその中で、最低3つ以上の競技への参加が義務づけられる。その点数が学校の成績にもかかわるので、みんな真剣だ。
チーム戦としては1位に20点、2位に12点、3位に9点……と、10位までが加点の対象となる。
100以上の競技があるので、2300点をどれぐらい超えるか? が勝利の鍵となってくる。
対決型の競技はない一方、得意とする魔法によっては苦手となる競技もあり、自分がどの協議にでるか? その選択も重要だ。
「ヘラお嬢様は、どの競技にでるんですか?」
ファリスとアカミアと、一緒にお昼を食べながら、ヘラお嬢様が応えた。
「5日目の3つよ」
「何で、5日目なんです?」
「だって、早くに参加すると余計に目立つから……」
そればかりでなく、中々手を挙げにくかった……ということもあったけれど、それはお嬢様も恥ずかしいから、ファリスたちには内緒だ。
初日、二日目は穏やかで、こうしてファリスたちと昼食をとる余裕もあったが、三日目からはちがった。
そろそろ不利なところと、有利なところがでてきて、それは勧誘とは名ばかりの、ヘラお嬢様の腕をつかんで強引に連れて行こう、とする強硬派も現れはじめ、本気でお嬢様も逃げる。
「ヘラ・リベレットはどこだ⁉」
そんな怒号もとびかう。授業以外で、校内で魔法をつかうことは禁じられており、探知をつかっても処罰の対象となるが、それでも中にはそれをする者もいて、お嬢様もアンテナを張って魔術探知が来たら、すぐに隠れていた場所から離れることをくり返す。
お嬢様が走っていると、二人の魔法使いが立ちふさがった。長いコートとフードをかぶり、相手は不明なれど、杖をとりだしたことで魔法をつかってでもお嬢様に言うことを聞かせよう、という連中だと気づく。
しかし、お嬢様は杖をもっていない。杖がなくとも、ある程度の魔法はつかえるけれど、魔力を集中するのが難しく、つかえる魔法が限られる。
本気の魔法使いと戦っても、お嬢様なら勝てるだろうが、お嬢様にとっては校内で魔法をつかったら……と考えて、躊躇うはずだ。
だが、その者たちはすぐ白目を剥いて、倒れてしまう。ナゼなら、こめかみに大きな石がめりこんでいたから……。
お嬢様も、何が起きたか分からぬまま、とにかくその場から逃げだす。
そう、ボクが石を投げて、男たちの意識を一瞬で刈りとったのだ。
ボクがフードを外すと、明らかに学生でない顔が現れる。恐らくどこかの冒険者が、お祭り騒ぎの学校にまぎれこんだのだ。
「おい、起きろ! 誰に依頼された?」
「し……知らない。とにかくあの娘を大会に参加させないようにすれば、報酬をだすと言われた」
どうやら、魔法使いとしてもそれほど実力のある相手でない。つまり成功報酬としたことからも、本気でお嬢様を害すことができる……とまで考えていたわけではなさそうだ。
むしろ、どこかの組織に参加するよう、促す目的だったか……?
何人かのお嬢様を害そうとする者をとらえ、そう確信した。ボクはお嬢様の警護を強化することにした。
しかし最終日になると、愈々そうも言っていられない。
チーム戦は、氷晶の魔人と暴風王が接戦を演じ、少し離れて炎龍帝が追う。最終日には、それぞれのチームが魔力の高いメンバーを、続々と追いこみで競技に参加させてくるのだ。
最終日には、注目を集める競技も多く、機運を盛り上げようという学園側の配慮もある。
そんな日に、お嬢様は3つの競技に参加する。否応なく、それは注目を集めることだろう。
多くの見物客がおとずれ、ごった返すので、隠密行動でお嬢様を警護するのも厳しくなってきた。
様々な思惑が錯綜する中で、魔術大会はクライマックスを迎える……。
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