第10話 魔術大会

     魔術大会


 アカミアが「何をやってもうまくいかない」と言っていた理由が分かった。彼女は典型的なドジっ子である。

 注意力が散漫で、二つのことが同時にできない。一つのことをしていて、別のことが気になると、そちらに注意がとられ、最初のことが疎かになってしまうのだ。

 執事のクロードも頭を抱える。

「お嬢様の放蕩には慣れているものの、これはひどい……」

 放蕩――とは困った人がいると、すぐ手を差し伸べてしまうことだ。ボクのときも眉を顰めていたけれど、執事でありながら、お嬢様に意見できる立場にある。両親がいないヘラお嬢様だけに、年齢的にも父親、もしくは祖父のような立場なのがクロードだ。

「私がつかうよ。調理場は人が足りないからね」

 ベスがそういって、アカミアを指導する。魔力を持つアカミアは、下僕のボクより立場も上である。

 もっともリベレット家の執事は、身分にあまり厳格ではない。ボクがファリスや、他の執事ともふつうに話ができることもそうだ。本来、避けられるぐらいの身分の差である。

 アカミアは天使族であり、人族の序列には入っていないけれど、それが貴族のメイドとして働くのも、異例といえた。


 ヘラお嬢様はしばらくダンジョン探索を控えている。それは学校で〝魔術大会〟が開かれるからだ。

「魔術大会って、何をするんですか?」

 アカミアにそう訊ねられ、ファリスが応じた。

「魔術を学ぶ学校だから、その優劣をゲーム形式で競うのよ。定期試験みたいなものね。対決するような競技はないので、危険はないけれど、成績にも関わるから結構、本気でみんな取り組むわ」

「へぇ~……。ヘラお嬢様は優勝を狙って?」

「多分、ちがう。この時期、お嬢様は逃げまわっているから」

「どうして?」

「大魔道士とか言われて、ただでなくとも目立つからね。お嬢様は性格的に、目立ちたくない! できれば何ごともなく、この時期をやり過ごしたい……というのが、お嬢様の希望」

 ファリスはため息をついてから、つづけた。

「学校の上級生に、すごい魔法使いがいるらしいの。三貴聖とか呼ばれて、その三人を頂点としたチーム戦も裏で行われていて、その争いに巻き込まれたくないのよ。お嬢様が入れば、チームのパワーバランスが崩れるから……」

 他のチームからみれば、お嬢様のせいで自分たちが負けた、となり、恨みを買うのだろう。かといって、どこも取りこめば有利なのだから、スカウトも活発だ。お嬢様にとっては憂鬱な日々がまたはじまった、というところかもしれない。


 魔術大会――。

 ここアラフォルミア高等科、お嬢様が通う学校であるが、その数日はお祭り騒ぎとなる。

 それは貴族にとって、自身の子女がいかに優秀かをアピールする場であり、今後の政治にも影響する。 

 つまり品評会のような場なのだ。人が集まり、またそこには思惑、邪念が錯綜し、出店などもでて、本当にお祭りさながら活況を呈していた。

 貴族が自分の子女を応援するため、観覧することが赦されているので、多くの人々でごった返す。

 昨年は、ファリスがお嬢様の付き添いとして見学したそうだ。

 今年はファリスとアカミアが、お嬢様の付き添いとして参加することになった。

 付き添いといっても、逃げ隠れするお嬢様だけに、やることはない。要するに今年もまた見学だ。

 ボクは下僕であり、貴族が集まるような場所には立ち入りを赦されない。だが、三貴聖とやらがお嬢様を悩ますなら、ボクが何とかするしか……と、二人を学校に送り届けた後、こっそりと忍びこむことにした。

 炎龍帝、バート・オルディン。

 氷晶の魔人、メルセラ・スタンフォード。

 暴風王、ティア・ゼフュレム。

 オルディン家は火魔法を得意とし、バートは傑出した才能を期待される存在だ。

 メルセラはマスクにフードをかぶり、種族でさえ不明だ。ただ氷魔法は、灼熱の炎でさえ一瞬で凍らす。その才により三貴聖に数えられる。

 ティアはエルフ族の女の子だ。風魔法の使い手で、王族にも近いらしく、その魔力は高い。


 生徒の多くはその三つの派閥に加入しており、それぞれの競技ごとに、その得点を競っている。

 学校の非公認ながら、こうして生徒たちの向上心を高め、またそれが賭けの対象となるなど、射幸心も煽っているのだ。

 だから生徒たちも、自分のチームを有利にするよう、かなり強引な手をつかってでも、大魔道士であるお嬢様を引き入れようとする。お嬢様も本気で逃げまわっているようだ。

 お嬢様は基本、争うことが嫌いで、ダンジョンでも冒険者がいないところを択んでいく。貴族でありながら冒険者、という身分の中途半端さが受け入れられにくいことを知っているのだ。

 今回も、争いの種に自分がなることを嫌って逃げている。はっきりと断り切れない弱さも、お嬢様らしい。

 とにかく、お嬢様が楽しく学校に来られるよう尽くすこともまた、下僕であるボクの仕事である。ボクはしばらく、学校に潜んでその動向をさぐることにした。
















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