第9話 滝の城

     滝の城


 滝の城の前で、アカミアと待ち合わせをする。

「私がついていっても、いいんですか?」

 アカミアはもじもじと訊ねてくる。

「ここのダンジョンは、洞窟を隠すため建てられた。そこで洞窟を探索するとき、あなたの祝福が役にたつわ」

 ヘラお嬢様はそういって慰める。昨日話し合いをして、洞窟を探索してみよう、となった。

 確かに、アカミアがいると滝の城に多いトカゲ系の魔獣とも遭遇しない。あっさりと岩城の奥にある、洞窟の入り口まできた。

 扉があるけれど、開けて中に入るのは自由。ただし中には強い魔獣がいるとされ、扉を開ける者はほとんどいない。

 そこはアリの巣のように長く魔力にさらされて周りの岩が、仄かに明かりを放つ。ただしアリの巣のような、人の手が入ってはおらず、鍾乳石もみられる、自然の洞窟である。

「ひんやりしていますね」

「恐らくかつて水が流れていたのよ。その水を、外に流すようにして、それが岩城の表面を流れているのね……」

 お嬢様も改めて、このダンジョンのことを知ったようだ。


 奥にすすむと徐々に空間が広がり、そこにまるで主のような巨大なトカゲがいた。トカゲといっても、銅の部分から細くて蛇のような首が伸び、百はあろうかという数の頭がつく。まるでメデューサの頭だ。

 何本かが鎌首をもたげ、こちらに気づく。

 リザードが立ち上がった。四つ足だけど、体高は十メートル近くあり、それ以上に百本はありそうな蛇の頭が、一箇所の首からからわらわらと伸びる様は、気持ち悪くすらあった。

「な、な、何ですか⁉ あれ⁈」

 アカミアも怯えるけれど、ヘラお嬢様はすーっと前にでた。

 この場で戦えるのは、お嬢様だけ。その責任感が、お嬢様を奮い立たせている。大魔道士たる決意が、そこに籠められているようだ。

「ライトニング・アロウ!」

 魔獣は雷撃に弱いものが多く、雷撃の数本は首に直撃すると、首をうなだれる。ただ数が多いことと、うなだれてもすぐ復活してくるように、回復力が高い魔獣のようだ。

「ロック・バラージ!」

 これはお嬢様の固有魔法、ゴロ石を弾丸のように魔獣へと飛ばす技――。蛇の頭を一つ一つつぶすより一気に撃ち抜こう、という作戦だ。

 しかしリザードは数本の首を丸め、盾のようにし、わずかな犠牲で堪える。

 お嬢様の攻撃が止まると、蛇の口から毒液のようなものを吐き、お嬢様に当てようとし、その間に倒れた首が復活するのだ。

 お嬢様はその攻撃をかわし、また魔法を……という終わりなき戦いに陥っていた。


 その間、ボクはこっそりとリザードの背後に近づく。何でかって? ボクは魔法をつかえないし、お嬢様と「戦わない」と約束しているので魔獣に近づくことすら厳禁だ。

 まして、ボクが攻撃をした、その痕がのこってもよくない。

 そこで……。ドンッ!

 リザードの肛門から、大きな岩を差しこんだ。爬虫類系はよく、肛門から温度計を突っこんで体温をはかる。これは多くの動物でもそうだけれど、消化器官の痛覚は、皮膚などよりはるかに低い。岩をつっこまれて、びっくりしたかもしれないが、動きが止まることはない。

 しかし、お腹に重い岩が入ったのだから、当たり前のようにリカードの動きは鈍くなる。

 お嬢様も、リザードの動きが遅れることに気づいたようだ。

「ロック・バラージ!」

 岩の弾丸を連発し、首を何本もへし折っていく。リザードも逃げてその攻撃をかわそうとするが、お腹が重くて動けず、やられていく首の数の方が増えていく。

「ライトニング・バレット!」

 ある程度の数を減らしたところで、一気に大魔法で決めに出た。

 降り注いだ雷撃の雨で、リザードは完全に沈黙してしまった。


 ボクが魔獣を解体する間、お嬢様とアカミアは洞窟内というのに優雅なティータイムを過ごす。

 どうやら魔獣は、巨大な魔石を守っていたようで、そこから魔力によるエネルギーを得て、ここに入ってくるものを捕らえ、食っていたようだ。

 巨大な魔獣なので、中にある魔石をとりだすのも大変で、しばらく時間がかかる間に、お嬢様がアカミアに語りかける。

「私、やっぱりお役には立ちませんよね」

「いいえ。あなたはこれから役に立つの。だって、私はもう魔力を使い果たし、ふらふらだもの。帰るとき、余計な魔獣と出会いたくない。そのとき、あなたの祝福が役に立つ」

 アカミアはそういわれ、嬉しくて涙を流していた。自分も役にたつ、そう言ってくれる人がいるだけで、自分のことを卑下していた人間にとっては嬉しいものだ。

 こうして、アカミアはお嬢様の屋敷で、メイドとして働くことになった。いつもではないけれど、必要なときに冒険者として参加する、という契約だ。

 お嬢様は困っている人がいると、手を差し伸べる人だ。それはボクのときもそう。この世界にきて、途方にくれていたボクを下僕として雇ってくれた。アカミアが困っているから、彼女にも手を差し伸べる。こういう人だから、お嬢様の下僕はやめられないのである。












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