第6話 本戦とちがう戦場
本戦とちがう戦場
さらに地下深くへもぐると、まったく魔獣が出現しなくなった。
しかしみんな異様な雰囲気を感じとり、この奥に強敵がいると信じ、さらに深くへと下りる。
通廊にでた。奥深くまで伸びる円筒形の洞窟は、先まで見通すことができないほどの長さだ。
「王様のいる、謁見の間へとつながる回廊みたいね?」
パイルもそう呟く。アゴラが鼻をひくつかせながら「ずっと嫌な、魔獣の匂いがするが……」
その通路をすすんでいくと、急に辺りから殺気が沸き起こった。
「警戒しろ!」
ローグがそう指示をだすまでもない。通路の壁、天井、床、その至るところから、細いものがぬーっと現れた。
「ワームだ……」
細いと言っても、人の首ぐらいの太さ、十メートル近い長さのそれが、洞窟を埋め尽くさんばかりに勇者パーティーをとり囲んでいる。
戦士のアゴラが剣で斬りつけても、僧兵のリュウが殴っても、ヤナギに風とばかりに受け流される。物理攻撃は利かないようだ。
「ワームは熱に弱い。ポーラとヘラは、熱系の魔法で追い払ってくれ。オレもファイアーソードで援護する。他のメンバーも、二人を援護しろ!」
さすがに数が多く、ローグも緊張しながらそう指示をだす。
ミミズは通常、腐葉土を土にもどす役割をもつが、ここのワームは恐らく死体を土にもどすよう食性を変化させているようだ。そしてそれは、死体を自らつくりだすことさえ……。
「はぁ……、はぁ……。あら? 逃げていくわ……」
凄惨な戦いがつづいていたが、ポーラも荒い息遣いながら、そう気づいてホッと息をつく。
ヘラも火魔法は得意だけれど、いくら広いといっても洞窟内では巨大な魔法はつかいにくい。それに勇者パーティーは6人、すべての冒険者の位置を確認し、魔法をつかうのに苦労していた。
ただ魔獣の方から逃げていき、みんな安堵する。
そのとき、ボクが現れた。
「どこへ行っていたの⁉」
ヘラお嬢様にそう怒られるが、ボクは「安全な場所に隠れていました。さ、みなさん。お疲れでしょうから、お茶にしませんか?」
「休憩した~い」
エクリーがそう応じ、お茶をする流れとなった。少しもどったところでボクは人数分、用意してきたお茶をだす。
「まさか、ダンジョン内でお茶会をするなんて……。キミがわざわざ従者を連れて歩くわけだ」
ローグもそう感心し、一息入れたことで勇者パーティーはダンジョンをでた。
でもその途中で、巨大な魔獣の死骸をみつける。先ほどのワームたちは、この死体があることに気づき、勇者パーティーを襲うのを止め、死体へと群がったのだ。
「元はモグラか……」
アゴラもそう気づくが、リュウは首を傾げた。
「ワームは魔石を食べることはないが、どこにも魔石が見当たらん」
「誰かが持ち去った……?」
ポーラも眉を顰めるけれど、誰も答えをもっていない。否、ボクを除いて……。
ミミズはどこの世界でも、それを主食とする動物がいるもの。
それにボクは、勇者パーティーが通過した後で、巨大な魔獣の気配がただようことに気づいた。
そこで勇者パーティーがワームに向かうのをみて、こちらを倒すためにもどったのである。
お嬢様とは『絶対に戦わない』と約束している。だから、こっそりと倒してしまうつもりだ。
モグラが永く生き、魔獣化すると体高が10メートルを超えるほどとなり、体長は30メートル以上あり、土を掻く前足は硬く、鋭くなり、長く伸びた鼻先のセンサーにもなる無数の毛は、鋭利なトゲとなる。
ボクは魔力もない。まして武器ももっていない。いつもの倍ぐらいある風呂敷の包みを下ろし、身構えた。
戦い方はいたってシンプルだ。殴って、蹴って、素早く動いてとにかくダメージを蓄積する。
今では雑食を増やし、他の魔獣や、冒険者も食ってきたのだろう。だから、地下には魔獣がいなかったし、そこは危険として冒険者たちも忌避してきた。これだけの大きさだ。山の方に上がることはできず、山の中腹から入る洞窟の、80メートルより下が生息場所となった。
いずれいしろ、お嬢様とよくいくダンジョンにこんな魔獣がいたら、迷惑だ。半死にすると、ワームが現れ、食べ始めたのでボクはそのままにし、お嬢様たちにお茶会をすすめた。ボクが戦った証拠隠滅、である。
屋敷にもどってきた。ぐったりした様子のヘラお嬢様は、ソファーに身をしずめながら「疲れた……」とつぶやく。
「マッサージをしましょうか?」
ボクがそう申しでると、じとっとした目でみつめられ「変なことをする気じゃないでしょうね?」
ちょっと下心もあったボクは、それをおくびにも出さず「滅相もない」
「……。ありがとう、でもいいわ。集団戦闘って、やっぱり私には向いていないと思う。そういう気疲れだから……」
お嬢様は勇者パーティーからの誘いを断ることにした。ボクが動かずとも、ボッチのお嬢様には難しかったのだ。
「それに、この屋敷を離れるわけにはいかないしね」
それはボクたち、執事や下僕を想ってくれてのこと……。お嬢様にとって、今はこの屋敷での生活が安らぎのようで、少しうれしくもあった。
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