第4話 偶然? の出会い
偶然? の出会い
ダンジョンは〝〝古代の建築物〟というイメージだ。
ダンジョンなんて大体そう……という意見もあるだろうが、誰が何のために造ったのか? 歴史は途絶しており、今では使われていない、目的すら不明な大きな構造物である。
ヘラお嬢様とやってきたのは〝アリの巣〟――。山の中腹にある洞窟を入る、地下迷宮だ。
上下の移動には階段もあり、壁もきれいに削りとられた岩城だ。ボクの知る世界でいえば、カッパドキアに近い。
長く魔力にさらされたことで、壁といい、天井といい、発光するので薄暮ぐらいには明るい。
この世界では、ダンジョンをマッピングする発想がない。冒険者は協力するというより競争相手であり、ダンジョンに関する情報は各々の冒険者の財産で、他人に教えることはない。
ボクはこのダンジョンをマッピングする。それはお嬢様が道に迷わないようにするためで、今では深度80メートルまで行けるようになった。
「こ……、こちらだったかしら?」
「はい。そこを右に」
「右ね、右……」
ボクは冒険のパートナーではなく、相談する相手ではないので、お嬢様はこっそり訊ねてくる。
ちなみに、ボクは〝最強〟の測量士であり、重い荷物を背負うときは〝最強〟のポーターだ。ボクの〝最強〟スキルは時間などの制約もなく、同時発動も可能だ。便利だけど、他人には理解しづらいのが難点だ。ちなみに、お嬢様には単に『力持ちで物覚えがいい』奴と思われているみたい……。
「ヘャッ‼」
ヘラお嬢様は何もないところで、前のめりにコケる。背丈にくらべ、長いローブを羽織るため、時おり引っかかって転ぶのだ。今日はローブの下が制服のスカートなので、その下は……ピンク♥
ボクが手を貸して引き起こすと、真っ赤な顔で「い、行きますよ!」と、ちょっと怒りながら言う。
かわいい……。照れ隠しの、このちょっとツン発言は、男心を微妙にくすぐってくれる。
こういうところがあるからお嬢様の下僕はやめられない。支えてあげたくなってしまうのだ。
しかし、いざ魔獣と対すると、大魔道士の一面が覗く。
「フレイム・ビガード‼」
特に、ヘラお嬢様のあみだした固有魔法は、恐るべきものである。
炎が魔獣をとりかこみ、表面を激しく焦がす。動物に火をつけても、すぐに燃えたりしない。焼き肉でも、すぐに肉は焦げたりしない。つまり火球をぶつけたり、火炎放射ぐらいでは、火傷させるのが関の山。でもお嬢様のそれはじっくりローストするのだ。
魔法回路の組み合わせ、お嬢様は大魔道士なのである。
お嬢様が魔獣を倒すと、早速ボクがさばいて魔石をとりだす。ローストされても、魔獣を食べることはできない。生肉と比べるとステーキのように切り分けやすくなるだけだ。
「今日はレアがいないわね」
レアはあまり焼かない、という意味ではなく、勿論レア魔獣の意である。
「そういう日もありますよ」
「大金を稼いで、ちょっと気分よくなりたかったのにぃ~ッ!」
学校で何かあって、憂さ晴らし……ならぬ、受け払いで、がっつり稼ぎたかったらしい。
そのとき、ヘラお嬢様が緊張してサッと杖を構える。だけど、そこに現れた人物をみて、杖を下ろした。
「勇者様ですか……」
「大魔道士、ヘラ・リベレットじゃないか。久しぶり」
壮観な男、ローグ・バイスはにこやかだった。
この世界の冒険者は、庶民の出でありながら、強い魔力をもつ者たちだ。その中でも特に秀で、また実績をみとめられた冒険者が〝勇者〟を名乗る資格を与えられる。現状、三人の勇者がおり、それぞれが異なるパーティーで世界を巡っているとのことだ。
勇者パーティーは六人。戦士(ウォリアー)、僧兵(モンク)、盗賊(シーフ)、魔導士(ウィザード)、癒術士(ヒーラー)。
強い魔力をもつといっても、冒険者のそれは貴族より劣る。実践には長けるので、貴族より強い冒険者も多いけれど……。
「おや? 従者かい?」
ボクに気づき、ローグはそう声をかけてきた。
「雑用をしてもらうため、執事についてきてもらっています」
ヘラお嬢様はボクを紹介するとき『執事』と呼ぶ。だけど、魔力がない以上、貴族と接することを赦された執事にはなれない。下僕だと一緒にいることすら不自然なので、角が立たないよう……との配慮だ。
「ヘラ、久しぶり~!」
勇者パーティーの魔導士、ポーラが前にすすみでてきた。
「ポーラさん、息災で何よりです」
「敬語ッ! ヘラの方が年下だけど、貴族は庶民に敬語なんてつかわないし、勇者に『様』もつけない」
ポーラは耳長のエルフであり、若くみえるけれど年長らしい。
「一応、姉弟子ですし、それに……」
「私より魔力も強いし、才能にあふれるアンタとじゃ、姉弟子を名乗るのもおこがましいわ」
ポーラはそういった後、すぐにヘラお嬢様の肩に、親し気に手をまわす。
「でも、今日は奢らせて。それぐらい、姉弟子らしいことをさせてよ」
困ったようなヘラお嬢様の顔は、ボクが何とかすべき……と強く思わせた。
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