第3話 リベレット家の事情

     リベレット家の事情


 ヘラお嬢様が学校に通っている間に、ボクは勉強をする。この世界のこと、言葉もふくめて……。

 教えてくれるのは、ファリス――。メイド服だけれど、まだ13歳。

 ちなみに、この世界では5歳から5年ずつ、初等科、中等科、高等科と学ぶ。でも高等科には貴族か、裕福な一部の庶民しか通えず、庶民でも中等科まで通えればいい方だ。

 ファリスは家の事情から、初等科しか通えなかった。

 そこで、メイドをしながらお嬢様のお古となった、中等科の教科書で勉強をしている。そして、そのついでにファリスのお古となった初等科の教科書で、ボクは勉強しているのだ。

「高等科では、何を勉強するの?」

 少し疲れてきたところで、ファリスにそう訊ねた。

「主に魔法だね。魔力があっても宝の持ち腐れではもったいないし、高等科まで通えるのは魔力をもった貴族や、裕福な商人だから、それこそ自分たちの魔力を生かそうってね」

 社会のヒエラルキーが魔力によって変わってくるのだから、勿論それを有効利用しようとする。考えれば分かる話だった。


「でも、ヘラお嬢様はもう魔法をつかえるよね? どこで習ったの?」

「私も詳しく知らないけれど、師匠がいるみたいよ」

「魔法使いの? 奇特な人だね」

「庶民の希望だもの。ごく稀に庶民でも魔力の高い者が生まれ、貴族になる。そんな子供を応援しようと、庶民出身の魔法使いが師匠となって、魔法を教えてくれるみたいなの」

「貴族はもう親から魔法教育をうけているから?」

「そういうこと。庶民出身者が、貴族の世界で苦労しないように……ってね」

 ヘラお嬢様に親はいない。どういう事情か? そこは禁忌らしく。教えてもらえていない。

 しかし、17歳で大魔道士を名乗れるぐらいの実力を身につけたのは稀有で、逆にそれが学校では妬みをうけそうだ。

 そのとき、部屋に入ってきた執事のクロードが「アキツ、雨漏りを直しておきなさい」と告げた。

「雨……何ですか?」

 これはまだ、言葉が拙いせいだ。

 クロードも眉を顰めつつ「ファリスに教えておく」と、ファリスにメモを渡す。クロードは義手で、また高齢でもあって、力仕事は難しい。この屋敷は、貴族の別荘としてつかわれていたが、古くなって売りにだされたものをお嬢様が買いとった。だから日々、補修が必要であり、そのため若くて作業ができそうなボクを雇った? とさえ思えるほど、よく壊れた。


 この世界でも瓦はあるけれど、高級品で王族、貴族や、宗教施設といったところの建物にしか使われていない。ここも貴族の別荘だったので瓦だけれど、質が低くて至るところに欠け、割れが目立つ。前の持ち主は、見栄は張っても、中身はケチだったらしい。

 瓦を買う余裕はリベレット家にない。あったら、業者に頼んでいる。

 転移者としては、ガルバリウム鋼板といった現代知識を駆使し、貢献したいところだけれど、鉄器すら高価で、鋼板をつくる技術も。それを屋根につかう発想もなかった。 庶民の家は未だに板葺きや、皮葺きだ、

 茅葺きもよいけれど、メンテナンスも結構かかり、貴族の家としての威厳が損なわれてしまう。

「瓦を自作するか……」

 ボクは自分のスキル、〝最強〟の意味を理解しつつあった。

「コールドプレイ」

 そう唱えると、瓦職人の〝最強〟になれる。つまり最適な土、釉薬、焼成する温度まで理解できるのだ。

 でも理解し、行動に反映できても、できないことはできない。例えば、魔法は魔力がないので、魔法使いとして〝最強〟を目指してもムリ! 瓦職人の〝最強〟になったとしても材料をさがし、道具は自分でつくる必要があった。行動だけで済むのならよいけれど、使い勝手はすこぶる悪かった。


 ヘラお嬢様が帰ってきた。

 毎回、疲労と焦燥の強い顔でもどってきて、玄関でため息をつく。

 貴族として、義務的に高等科まで通っているけれど、お嬢様にとって魔法はすでに習うものではなく、実践するものであって、逆にトモダチ関係とか、色々と気を遣うのだろう。

「アキツ、ダンジョンに行きますよ」

 制服の上からローブを羽織り、ハットをかぶって、杖を手にする。

 お嬢様にとって、ダンジョンで魔法をつかうのはある意味、ストレス解消でもあって、複数の実利も兼ねているのだ。

 この屋敷からダンジョンへ行くには、転送装置をつかう。加工された魔石が、宙に浮く形で盤にのせられている。同じ魔石のあるところだったら、一瞬でそこまで移動できるのだ。

 これも魔法なので、魔力がある者でないとつかえないし、紐づけされた、許可された場所にしか行けないけれど、すぐに行きたいところにたどり着くのは便利だ。

 ボクはいつも通り、サンタクロースのプレゼントの入った袋よりも大きな風呂敷を背負い、ヘラお嬢様のローブにしがみつく。魔力がないボクは、お嬢様につかまっていないとダンジョンにも行けない。

「行きます!」

 お嬢様がそういうと、ボクたちは一瞬にしてダンジョンの前に立っていた。

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