第2話

そんな山に私は一人で入ろうとしている。かなり不安だけれど猫一匹のために他人を巻き込むことはできない。その門まで来た時には不思議と恐怖よりもワクワクが勝っていて、夜更かしをしている時みたいな気分だった。お父さんに心配かけちゃうなとは思ったけれどそれ以上に今は三毛猫のみゃむちゃんの事が心配で居ても立っても居られなかった。

門には上に少し隙間があるだけで他に入れそうなところはなかったので仕方なく門を上る。降りるときにスカートを有刺鉄線にひっかけてしまう、そんなこととは知らずに私は門からクッションになりそうな、やわらかそうなぬかるみに飛び込んだので、勢いよくスカートが裂けた。着地した時に泥が跳ね学校指定のセーラー服もぐちょぐちょだ。お父さんになんて言い訳をしようなんて考えていたら目の前を一匹の黒い猫が通り過ぎて行った。少し不吉だ。みゃむちゃんではなかったことに落胆しながら、黒猫を追いかける。黒猫は人になれているようで少し上がったところで立ち止まっている。やっとこさ黒猫に追いつくとそこは少し開けていて涼しい、小休憩を取り案内猫を撫でてやる。それはもう存分に堪能してやるつもりで。その子はゴロゴロと喉を鳴らしながら撫でられてくれた。

先を急ごうと立ち上がり猫についていく。杉の木ばかりの薄暗い林道をしばらく歌でも歌いながら歩いていると、さらさらとした変わった色できれいな髪の少女が古ぼけた祠の前座りで猫を撫でていた。やっと見つけた、撫でられていたのはみゃむちゃんだった。無防備にお腹なんて見せて気持ちよさそう。みゃむちゃんもこちらに気づき飛びついてくる。黒猫も少女に駆け寄っていきその場の雰囲気と少女の人間離れした様子も相まってまるで感動の再開なんかを丁寧に演出されている様だった。私は宝物を見つけた子供みたいに大泣きをして喜んだ。


して少女の後ろの木の陰に昔の人のような恰好をし、今時見ないようなシルクハットをかぶった、端正な顔立ちをした男が怪訝な顔をこちらに向けていた。男は少女の知り合いの様で手招きをされるとすぐに寄ってきた。おかしいことに男は撫でられている黒猫に嫉妬をしているようで、黒猫を少女からとりあげると頭を撫でてもらおうおねだりをしているようだった。男は変態だった。

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