第一話 報告
雲一つも無い晴天のときのこと。
「洸、子供達は今どうしている?」
「あそこの庭で遊んでいますが……」
「そうか」
氏貞は、洸を
「洸、よく聞いてくれ。秀吉殿と会ったとき、言っていた。水下は滅亡させぬ。と」
秀吉殿が、そう言うなんて……。
洸は、氏貞をずっと見つめる。事実を言っているのか、噓をついているのか。
「母上!疑わないでください。義父上は事実ということを、目で表していますよ!」
「あにうえ!みるだけといいましたよね!」
法三郎と零が、洸の背後で揉めている。
襖が閉まっていなかったから、姿は丸見えだ。
「法三郎と零!?まさか、後を追いかけてきたの?」
「はい!話はちゃんと、聞きました。水下を滅亡させないのですよね。また父上を失わずにすむのですね」
法三郎は、洸の三番目の夫とのあいだに生まれた後継ぎ。だが、信長の計略によって離縁された。当時二歳だった法三郎は、そのことは覚えていない。またそういう経験はしたくないだろう。
「法三郎も零も、そういう話をわかってくれる年になったか。大きくなったなぁ」
「殿!思い出話は後で」
ちなみに法響丸は、まだ一歳の幼子。寝室で眠っている。だから、義兄や姉についていけない。
こう大きくなった子供に教えてやりたい――そう感じたらしい。
「よし!お前達にも教えてやろう」
納得しないが、大事な話だからしっかり話を聞く。
法三郎は時々質問しながら話を理解させる。言葉の意味がわからないから。
零はもう爆睡。
「…………とのことだ。これで終了だ。解散して良いぞ」
「私は、眠らせておきますね」
妻と子とわかれて一人だけになった氏貞は、考え込んだ。
(豊臣が敵……。洸は秀吉殿の養女。逃げ延びたって、捕まって死罪か切腹となるか……)
翌日。城の援軍に氏貞が行くことになった。
豊臣との戦がそろそろ近づくからか、評定が多く開かれる。
さすがに氏貞も、援軍等で評定に出ないときもある。
だが、毎回決まらない。これが、現代で言う小田原評定の元ネタだ。
「法三郎も大きくなったら、評定に出るのですよ」
宮橋城の天守で法三郎に言う。
この時代はいつ、誰が死ぬかわからない。足手まといにならないように先に言ったほうが将来のためになると予想したのだ。
夕方の日が、天守に流れ込む。
法三郎、零、宝響丸と一緒に、氏貞の帰りを待つ。
「……洸、皆、待たせたな」
いつもより暗い。法三郎達が話しかけても、無反応。
「氏貞様。どうしたのですか?誰かが……」
「…………いや、何でもない」
その言葉を言い残して、城のどこかに行く。
「今日は、そっとして置きましょう。私が聞いておきますね」
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