第二話 小田原征伐

「氏貞様。何があったのですか?」


 法三郎達を眠らせた後に、氏貞の様子を見に来た洸。決心をしてから、話し掛けた。


「い……いや、何でもない」


 明らかに動揺している。絶対に言えない事を抱えているのか?


「もしかして、秀吉義父上との戦のことですか?」


 読んでいた兵法(孫子)を落とす。

 やっぱりそうだ。氏貞の部屋には、戦略を書いた紙がある。洸を悲しませないように方法を考えているのだろう。


「……そうだ」


「氏貞様。大丈夫です。義父上でも、戦います。未練など、何もありません」


 氏貞の気持ちを感じて発言した。


 小田原征伐(小田原城の戦い)が始まる一ヶ月前に――



 一ヶ月後。

 北条三万対豊臣二十二万の、小田原征伐が始る。


 五年前、天正大地震が発生した。(M7.8)

 秀吉は復興に力を入れ、北条は一旦保留となっていた。


 武蔵国にある宮橋城は、とても危険な場所になっていた。

 けれど、氏貞は他の城の援軍に行っていたので、洸が城主になっていた。


 法三郎には武芸を教えていたから安全だが、零や法響丸は待機してもらわないといけない。

 特に法響丸は水下の跡継ぎ。法響丸を失うと、水下の血は絶える。脱出か守るの選択しかない。


「かかれ!」


 敵の声がここまで聞こえる。

 そろそろ始まる。小田原征伐が。


 天守に上って方向を確認する。

 軍が向かっている場所は、宮橋城。

 一陣が攻めてから、二陣がくる。


 この時代は、約束をずっと守り続けることは少ない。

 裏切るパターンが多い。


「待った!」


 秀吉の大声が聞こえる。


「水下氏貞の妻・洸は、ワシの妻にする!絶対に攻めるな!!」


 思いがけない一言に、少し嫌気を持った。

 後で秀吉を暗殺しようかなと思った。


 一方その頃。

 氏貞は、小田原城の中に人を入れないようにする役割だ。

 それは、とても大変。

 死ぬか生きるかの境目。主君のために死ぬ人、子のために生きる人と沢山の考えがある。


 水下は、『血を絶やさない』という目的。

 法三郎は他の人とのあいだに生まれたから、当主になれない。

 つまり、まだ二歳の法響丸が当主になる。ということになってしまう。


「まてまて。ワシは氏貞殿に要があって来た。ここを通してくれぬか?」


「……もしや、氏貞殿を暗殺しようと!?」


 なかなか秀吉を通してくれない。

 氏貞は北条の重臣。だから、小田原城のすぐ近くを守っている。そのことは知らない。


「あ!氏政殿が降伏しにきたぞ」


「殿が!?」


 兵達が後ろを向いた隙に、小田原城の方面へ進む。

 もちろん、それは嘘。


「おーい、氏貞。頑張っているか?」


「ひ……秀吉殿!何故ここへ?」


 突然現れた秀吉に、一驚する。


「わかっているだろう。『大阪へ戻れ』という伝えだ」


「は……はあ…………」


 意味は良くわかっていないが、わかったふりをして相づちをうつ。


「とにかく、大阪に戻ってくれ」


「私の主君は、氏政様。簡単に戻りません」


「大阪に戻ったら、百文やるぞ」


 お金を貰わないのと、貰らうでは、差が違う。貰った方が、まだ得。

 断ることが出来なくなって、言ってしまう。


「わかりました」


 恩になった氏政とは、最後だった。最後の小田原城だった。










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