ニンカツその三「蛹化合体! ホワイトシャドウ!」

「四の五の言うのは性に合わねえや。オレはヤるけど、オマエはどうする?」

「オレはもう少し考えたいな。だって相手は痴女神ちめがみ様だ。万能不滅の存在だぞ。全然フェアじゃない」

「痴女神て」

 小麦色に日焼けした赤髪健康優良児の灯夜とうやは、準備体操に余念がない。

 一方、今風にアレンジされた紅い振袖姿のつむぎが、白い前髪を弄りながらおねーさんを揶揄する。

「いいねえ。勝ち目を増やそうとする姿勢、実にいい。じゃあ人間時代の力だけでお相手するよ。君たちの能力についても一端忘れる。これでどうかな?」

 一瞬、しゅわわわわと光ったかと重うと、女神の存在感が薄まった。

 一方でリアリティは増した気がする。

 超越存在から人間に成り下がると、得体の知れなさが和らぐようだ。

「ちぇっ。神様と闘いたかったぜ。負けても箔がつくのによ」

「負けたら死んで輪廻転生、ゼロからやり直しなんだ。次の人生までに箔も綺麗に剥がれ落ちてるさ」

「それにしても、エロさが増してね?」

「神々しさが抜けたからなー。物言いは俗っぽかったけど」

「うんうん。生々しい肉感がイイよな」

「ヤル気が湧いた。行くぞ!」

 言うや否や後ろに跳びずさり、およそ五メートルほど間合いを取って。

 同時に、叫ぶ!

「「蛹化!! 合体!!」」

 無数の絹糸が灯夜と紬を覆い、巨大な繭を作った。

 その中で二人の肉体は溶けて混じり合い、サナギへと変態する。

「普通ならカイコガに羽化するが」「《オレたち》は一味違うぜ!」

「変態中の液状組織を」

「増殖、変形の万能体に!」

究極アルティメット変形ヴァリアブル怪忍クリーチャー」「それが!」

「《オレたち》ホワイトシャドウだ!」

 純白の繭を内側から破り、姿を現す恐るべき怪異。

 長身痩躯、だが鍛え抜かれた筋肉が禍々しくうねる黒の忍装束に、紅白の色彩が流動する異形の忍者。

「アレをやるぜ!」「指鞭猛蛇ヴァイパーウィップッ!」

 両腕を突き出すや、その十指が毒蛇の如く伸び、更に枝分かれして五十の槍と化す!

「かわせるもんなら」「避けてみろ!」

「なるほど、これが増殖変形か。でも起点が一つだと、五十に分かれても」

 女神は抜く手を見せず、右手に取りだした扇子の閉じた親骨で、一本を小さく弾くや、その蛇体は大きく波打ち、周りの鞭を弾き飛ばす。

 一見、無造作に見えて、弾かれた蛇体が最大多数を巻き込む、精妙な一撃。

 連鎖が連鎖を呼び、ただの一打で五十の弾幕は蹴散らされた。

「牽制にもならねえか!」「だがよ!」 

「これなら」「どうだ!」

 剛力で両腕をクロスさせ、弾かれた鞭の群れを横薙ぎに振るう。

 左右から空気を裂いて再び女神を襲う五十鞭!

「鞭の横腹を見せてるなら、こうだね」

 いつの間にか左手にも握られている扇子を、双方一閃させた。

 開けば鋭利な刃を為す扇面の縁が、迫る蛇鞭の胴を根こそぎ斬り飛ばしたが。

「かかったな!」「散針爆雷ヘッジホッグブラストッ!!」

「喰らいやがれぇっ!!」

 切り飛ばされた五十の先端が、鋭いトゲを持つ雲丹ウニに変形し、爆散の勢いで細く長い針を全方位に突き出した!

「しまったッ!?」

 《オレたち》は最初から、衝撃を受けた蛇状触手が自動的にトゲを生やすよう設定しておいたのだ。

「垂れ幕、乳暖簾」「褌をめくる?」

「殺す気でなきゃ」「通じないさ」

 至近距離、同時多方向からの無数の刺突。果たして?

――カカカカッ!!

 扇面の薄く鍛造された鋼が盾となり、辛うじて頭や胴の急所を庇う。

 だが、頬や肩口、太股から爪先まで針が貫いた。

「んぁああああっっ!?」

 激痛に仰け反るのを堪え、布地が捲れるのを防いだおねーさんだったが。

「足を止めたのが」「運の尽き」

「触手プレイの」「時間だぜ!」

 切り飛ばされた断面にキノコ状の先端を生やし、《オレたち》は十指を触手と化して女神の肢体を絡め取った。

 首、両腕、両脚は言うに及ばず、下乳や股間の谷間にも触手を這わせ、絞め上げる。

「はうううっ! うぁああああ~~~っ!」

「へっへっへっ、やっぱ、やらしいなあ。おねーさんは」

「もうさ、いつだってめくれるんだけど、その前に楽しんじゃおうか」

 ベール越しに喘ぐくちびるへ、触手の先端を潜り込ませて。

「んぉっ!? おぶっ、んぶぶっ、ぢゅぼぼぉおお……っ!」

 ずぼずぼと音を立てて潜り込ませ、口内を蹂躙する《オレたち》。

「たまんねえ!」「一気にヤルか!」

 これならもう試験は合格確定、本格的に楽しもうと、悶える女神をぐっと引き寄せようとした瞬間。

「なんて、ね?」

 完全に捕らえたはずの女体が掻き消え、ちらりと小さな人型の紙が取り残された触手の間を舞う。

「分身ッ?」「いつの間に!」

「キミたちが繭に入った瞬間さ」

 その声は《オレたち》の背後から聞こえた。

「粘着質かつ衝撃を分散し、難燃性の繭。守りは堅いけど、知覚に隙があったからね」

 解説して見せた女神の本体は、いやこれも分身かも知れぬ姿があるのは、動揺する怪忍の左斜め後方、裏鬼門の方角。

「背後ががら空きだと」「思うな!」

 広背筋が盛り上がる背中から飛び出したのは、まさしく蚕蛾の羽。

 幅広の鋭利な蛮刀と化して羽ばたき、切り刻もうとしたが。

「苦し紛れ、勢いだけでは通じないよ。よいしょっと」

 羽刀うとうの猛烈な斬撃を扇子でいなし、ひょいと捻る。

 それだけで怪忍は逆に羽根の付け根を決められ、地面に押さえ込まれた。

「合気か!?」「蛾の羽根に!?」

「弘法筆を選ばずだね。術理を知り、構造を見抜けば、人以外でも制するのさ」

 筋骨の可動方向、神経の反射運動を逆用し、相手の体を誤動作させ、組み伏せる技が合気。

 人間と身体構造が異なる人外の怪物に、合気を通じさせるとは恐るべし熟練ぶりだ。

「負けたあ!」「流石は伊賀の上忍」

「でもイイ線」「イったよな?」

「分身だけど」「いつでもめくれたんだ」

「ははっ、キミたち。足掻くねえ。それでこそ忍者。勝つだけが手段ではないと心得てる」

 そう笑いながら女神の繊手はついと扇子を動かし、形のよいたわわな丸みを隠す暖簾を捲り上げる。

「えっ?」「わぁ」

「薄いピンク色だ!」「エロい」

「「……なんで!?」」

「合格だよ。キミたちは十分強いし、まだまだ成長できる。それに」

 薄絹のベールの向こうで、ペロリと艶めかしく唇を舐めたのが透けて見えて。

「捲って見せてあげよう、そう思わせる『力』をキミたちに感じるんだ。魅力や人徳とも違う、害意を擾乱し、好意を抱かせる怪しい『力』に当てられてね」

 妖しく淫靡な気配が、《オレたち》の周りにねっとりと立ちこめていく。

 じわ、と小さく布地が湿る卑猥な音に、《オレたち》は生唾を飲み込んだ。

 仰向けに転がした怪異の腰に跨がり、小さく浮き上がる左右の暖簾を指で摘まんで託し上げながら。

「おねーさんを誘惑するなんて悪い子たちだ。ご褒美をあげるけど、手加減できないかも。死なずにガンバってね?」

「それって」「追試じゃん!」

「合格って」「言ったのに!」

「やっぱ」「痴女神じゃん!」

「やめとく?」

「「ヤラせて下さい!!」」

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