第七節 天職
今まで色々仕事はやってきたとです。
警察官やって警備員やって、人と会わんよう工場やって、酪農もやって腰痛めて。そいでも結局、天職いうもんは見つけられんかったように思います。ギャオスに追われて逃げて逃げて、何やりたいか分からんようになって。
でも、何となく人を喜ばせたい気持ちはあったとです。私は何かっちゅうと怪獣を引きつけるんで人に迷惑かけたくなか思ってましたけど、笑顔に触れると温かい気持ちになるんはずっと変わらんこつです。だから花火職人は自分に合っとう気がしてました。
大森君の最初の印象は最悪でした。
彼、金髪の大男でしょ?どさくさに紛れて海外のマフィアか窃盗団が来たと思ったんです。しかもね、彼が工場の敷地に入ってきた時、片手にガソリン缶、もう片方は野球バット担いでたとです。酷いでしょ。
私ももう年ですから彼にかなうば思いません。でも最後ギリギリまで工場ば守ろうというのは決心したこつですから。一応手近な鉄パイプ掴んで忍び寄ったんです。
「「うおぁぁあああーー!!」」
「だ、誰だオッサン!」
「そ、それはこっちのセリフど、誰だ君!」
「え、お、オレ?オレは大森だ!」
福岡県警時代に子どもから年寄りから、悪い人良い人色々見とうですから、しゃべり方でどんな人か何となくわかるとです。所属でなく名前を名乗る人は正直です。それで何となく警戒は解けたとです。
大森君の説明はほんなこつ下手くそでした。
何がしたいのか分からないし知らん名前ばっかり話すし、「ギャオスが飛んでる」とか「核攻撃がある」とか誰でも知ってるこつバラバラに話すし、ハッキリ言うと時間の無駄だったとです。ちょっと可哀そうな子が迷い込んじゃったのかな思ってたとです。
話を信用したのは草薙さんの名前が出たからです。
直接お会いしてはねぇんですが、長峰さんから昔よくお話伺ってました。ガメラと心を通わせる不思議な力があって、協力して最初のギャオスを倒したって。しかもその後いろいろご苦労されて、今は普通の人じゃ名前も知らんようなお立場だって事情も知ってたとです。それでやっと信用することにしました。
「だから、六時三十五分と四十五分ピッタリに花火上げて欲しいんだよ!」
「最初からなーんでそう言わんとね」
「とにかく全部頼む!バンバンピカピカして目立つやつ!」
「んなこつ言ってん、すぐ打てるわけでもないぞ。第一ここ工場やろ」
「工場だから来たんだよ、あんだろ花火!」
「工場で打ち上げるバカあるか、ここで打つのは無理だ。打ち上げ場所まで運ばな」
「じゃあ急いで運ばねぇと!どれもってきゃいいのか教えてくれ、全部持ってく!」
見た目で分かってはいたとですが、とんでもねぇ力持ちでした。大玉だの発射筒だのいっぺんに抱えて近所の空き地まで何往復も走るんで。
私もなんか感化されたっちゅうか、この頃になると「やるぞ!」って気になって。
知りもしないセイ君とか松尾ちゃんだとかが一生懸命戦っとるちゅうのを聞きますとね、私も昔そういう仲間が必死になって人知れず戦って、平和を守ったのを見とったとですから、こりゃ運命だな思ったとです。
大急ぎで準備終わったのはもう三十四分でした。ちょうど日没の頃です。
「大森君離れて!点火は俺ばやる」
「いいのか?俺も手伝うぞ」
「あぶねぇから離れてみてろ!ひでぇ雨風だしそっち飛んでくかもしれねぇぞ」
「分かった!水村さんも気をつけろよ!」
「ハハ、俺ゃ水村じゃねぇ!水村さんは社長さん!」
「えぇ?オッサン社長じゃねぇの?」
「俺は大迫!見習い上がりん新米職人だ!」
「最後まで残ってるから社長だと思ってた!とにかく気をつけろよ大迫さん!」
我ながら結構うまく上げられた思います。セイリュウが来なかったら夏祭りのテレビ番組で使うはずだった可哀そうな花火たちだったんで、喜んでた思います。あいにくの天気で湿気ってるのもありましたが、ちょうど大森君のそばに駆け寄った時に一斉に上がり始めて。
「すっげぇ!カッコいいなぁ、めっちゃ音凄いじゃん!」
「まだまだ上がるぞ、もうちょい離れとけ」
「俺テレビでしか花火見たことねぇよ、こんなすげぇんだな。もっと天気よかったら綺麗かなぁ」
大森君の顔は忘れられんとです。考えたら花火職人になって一度も、花火を観る人の笑顔を間近で見たこつはなかでしたから。
だからそん時思いました、やっと天職に就けたんだぁって。
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