第四節 襲撃
「ガメラはそのまま大通り沿いを直進、正面の交差点で右。多分そこからセイリュウが見える。テンは二ブロック先を右だ」
レーダーには大型ギャオスが二体映ってるけどレーダーの高度表示が落ちてない。さっき一体ブッ飛ばしたのが上手くけん制になったか。
サングラスに映ったドローン映像を見てると小型ギャオスが画面を横切る回数が増えてきた。ガメラとセイリュウの戦いに巻き込まれるのもごめんだけど、小っこい奴らに見つかるのもマズい。あんま時間ないぞ――
――バツンッ、パツッ
車の後ろから小石がぶつったみたいな音が二回聞こえて、振り向こうとした瞬間身体が左ドアに思いっきり叩きつけられた。フロントガラスの景色が目で追えないスピードで左に流れてく。テンは運転席に伏せると、バックミラー見上げながらハリウッド映画みたいにバックで大通りを爆走し始めた。
「テメッ、ふざけ……」
「頭下げろ!」
「は?」
「下げろ、撃たれるぞ!」
撃たれるってなんだよ?
クラクラしながら後ろを見ると、松尾の座席のすぐ横に大きなポップコーンみたいのが張り付いてる……。いや、穴だ。小さい穴が開いてて中の詰め物が見えてんだ。それって、要するに、
「撃たれた!」
「だから言ってんだろ、さっきのグレーのトラックだ!」
「でもなんでバックで」
「般車は後ろの鉄板ペラいんだよ、こういう時はエンジン盾にすんだよ」
――バシュ!ボボボボ……
次の音は何が起こったかすぐわかった、昔親父が夜中に縁石に乗り上げたのと同じ音だ。
「タイヤ打ちやがった、アイツら良い腕だな!」
「逃げきれねぇか?」
「キツイぜ、追いつかれるぞ。いきなり撃ってくるような奴らだぜ」
「もうチョイ粘れ、この先の繁華街でダッシュするぞ」
店舗なら裏に搬入口があるはずだ。鍵が閉まってれば一巻の終わりだけど鬼ごっこになるならちょっとはマシだ。
助手席から灰色の空を見上げてみると、いつの間にかギャオスがかなり増えてる。でも勝手気ままに飛んでんじゃなくて、駅前で夕方飛んでるムクドリみたいに規則性がある。ガメラに一気に仕掛けるつもりか、なんだってこのクソ面倒くさいタイミングで!
「車捨てるぞ、テン松尾担げるか?」
「任せろ、どこ行く?」
「あそこの百貨店だ、確か駅地下でつながってる!」
車から転がり出て地下の食品コーナーまで思いっきり駆け下りる。
「生鮮コーナーだ、行け!」
「ガメラは、ガメラどうした?」
「とにかく隠れてからだ。車の奴ら何人いたか見えたか?」
「三人だ、さっき見えた。誰か隠れてなきゃ三人だ」
「テンは車の奴ら頼む。松尾、ギャオス大型二体が降下してきた!群れと同時に来るぞ!」
生鮮コーナーの商品棚に三人が寄りかかった瞬間、サングラスの向こうで小さな煙が上がった。高層ビルの一つが超音波メスで切られたのか、ガメラに向かって倒れてくる。ちょうど交差点の辺りにいたガメラは避けるヒマもなくて直撃した後うつ伏せになる。その隙に大型の二体が上空から急降下してくる。
「セイ、ひとり来た!土産コーナーの辺りだ」
「クッソ、忙しいな!一人か?」
「ああそうっぽい。お前ベルトよこせ、オレが縛り上げる」
「……え、マジ?あぶねぇぞ」
「いいからアイツは任せろ、合図すっからうまくやれよ」
ベルトをテンに放り投げると松尾を引きずって商品棚に隠れた。湿度高いしクソ暑いせいで汗が止まんねぇ。二人で息を潜めてると追手がフロアに降りてきて、そいつのボロいスニーカーが足音立てないようにこっちに忍び寄ってくる。と、テンが長い腕を振り上げた。髪が触れるくらいの耳元で松尾に囁く。
「今だ、やれ松尾!」
サングラスの中のガメラが白い霧に覆われる。衝撃波じゃ流石に大型は死なないだろうけど、思った通り空中でバランスが崩れる。レーダーの『UNKNOWN』表示が硬直した瞬間、
――ドォン!
店中のものが床に叩きつけられる、商品も設備も。人だってそうだ、足音を立てないよう中腰になってた追手も足を取られて派手にひっくり返る。でも俺らは違う、衝撃のタイミングも知ってるし元々伏せてるからな。
「うおぉぉ!!」
商品が散らかった通路を飛び越えて、テンがひっくり返った追手に飛び掛かった。ナイフ持った大男とベルト持った大男がすぐ隣でのたうち回ってるなんて結構ブッ飛んだ状況だけど今はそんなこと構ってられねぇ。
「松尾来たぞ、前に詰めろ!」
ガメラは衝撃波で周りのギャオスを追っ払うとすぐに起き上がって、瓦礫かき分けてセイリュウに突進する。手下のギャオスがひるんだ今、巣を守れるのはセイリュウだけだ。思った通りセイリュウもガメラに向かって突進して、見せつけるみたいに大きな尾を高く上げてる。一対一、このタイミングを待ってた!
「そこだ、打て!」
ガメラの脚の爪が勢いよく下に伸びてアスファルトを貫通して突き刺さる。姿勢を前傾しながら吸気。セイリュウはこっちの動きを悟ったのか、身体を波打たせて走りだす。
「撃て!」
足を固定したガメラが火球を連射する。狙いはセイリュウと後ろの巣。セイリュウの尾はヤバイけど、火球を打ち続けて防御に回らせれば手を出せない!
ガメラの口から溢れた炎が固まりになって飛び出す。一発目を見た瞬間、セイリュウはやっぱり尾で火球を叩き落した。続けて撃った二発目も後脚で身体を支えて横に回転して、横前に倒れ込むように叩き落とす。防がれたけど体勢は完全に崩れた、後ろがガラ空きだぜ!
「もっと撃て、撃ちまくれ!」
間髪入れずに三発目と四発目が噴き出して、ブッ倒れたセイリュウの後ろ、丸くくり抜かれてる地面の穴目掛けて飛ぶ。
でもその火球を見た瞬間、セイリュウは身体を跳ね上げて二発の火球に顔から飛び込んだ。身体の鱗粉が剥がれて頭の角が砕けても、セイリュウは勢いを止めずにガメラに突っ込む。そのまま脚を固定したガメラの首下に飛び込んで喉笛にかみつきながら体当たりする。ガメラが撃った五発目は上に大きく外れて、ガメラはそのままセイリュウと一緒に瓦礫に倒れ込む。
絡みつかれて尾を喰らったら終わりだ、でも指示出す前にもうガメラは反応してた。倒れ込んだ瞬間脚を収納してジェット噴射に切り替えた。倒れ込んでくるセイリュウの下で左に半回転して、その勢いで頭突きしてセイリュウの腹を噛みつきにかかる。慌てたセイリュウはガメラを蹴り飛ばして距離を取って、巣を守るように身を低くした。
「セイ、もう一人来た!裏口から抜けるぞ」
気付くと背中全体が汗でびっしょりしている。クソ、なんてこった。ギャオスも強いし怖いけど、コイツはあいつらと違う。賢いし、何ていうかブチギレてる、巣を守るためにマジで死んでもいいって思ってやがる!
「おいセイ!早く来い、地下鉄まで走るぞ!」
相変わらず細い俺の腕じゃ松尾の身体は持ち上がらなかった。テンに抱き上げられて不自然に硬直した松尾を見上げてると、なんだか腹が立ってきた。
チクショウ、倒すしかねぇ。
俺たち知りもしねぇ奴に水平射撃されて、松尾はパンパンの脳腫瘍抱えながら戦って、おまけに失敗したら核攻撃だ?なんだそりゃ、クソにもほどがある。
全部あのクソデカいトカゲを倒しゃ片が付くんだ。このクソみたいな状況から抜け出して松尾を助けたいんだったら、あのクソ野郎を倒すしかねぇじゃねぇか。
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