第二節 突入
バックミラー覗いて、サイドミラー覗いて、リアウインドウ見て、またバックミラー。窓に付いた雨水が波打っててまともに外が見えない。
「ホントにいたのかよ?」
「マジマジ絶対いた。見えたから」
「松尾見えたか?」
「分かんねぇよ。でもまあ居てもおかしくねぇとは思うけど」
「全然見えねぇよ……、見間違えたんじゃねぇの?」
「絶対いた。オレ目良いから」
追手がいる、んだそうだ。グレーのゴツい外車っぽいトラック、ライトはついてないらしい。テンが言うにはしばらく林道を走っていた時に直線でチラッと見えたらしい。普通だったら信じないけど、コイツこないだMLB中継でピッチャーの投げてるボールが何回転したか当ててたしな。
もう一度後ろ覗こうとしたら、テンはいきなり左ハンドルを切りやがった。クルーザーは急減速して、植え込みの藪をバキバキ折った後停車した。
「あっぶねぇな!頭突きするとこだったぞ」
「わりぃ、ちと様子見るわ。通り過ぎるかもしんねぇ」
「ムチ打ちになっちまうよ、首痛ぇ……」
でも一分経っても車なんて通り過ぎない。松尾も俺も緊張がゆるんで上空のギャオスを探し始めた頃、やっとテンは車を出した。と、思ったら車は道に戻らず藪の中を突き進んでく。
「おい、どこ走ってんだ!」
「ナビ見ろ!隣にまっすぐな道がある!」
「バカ、林の向こう側じゃねぇか」
「任せろ、俺のドラテクで何とかする!」
言い返そうとした瞬間クルーザーが根っこで跳ね上がって舌を思いっきり嚙んだ。振動がヤバすぎて松尾も俺もドアの上のハンドルに齧りついてる。
「よし、抜けた!」
「抜けてねぇよ、あそこバリケードあんじゃねぇか!」
「このまんま突っ切る!お前ら掴まれ!」
もう摑まってるよバカ野郎が。遠くに見えていた金属製のフェンスに正面から突っ込む。
――ガシッ、バキン
吹っ飛んでくフェンス、ライトかなんかの破片、その他諸々。
「イヤッホォォウウ!!いっぺんやってみたかったんだよなぁこういうの!」
「バカすぎだ、殺す気か!」
「でも撒いたぜ、近道もできた!完璧だろ!」
「ってかさ、バンパー吹っ飛んでったんだけど平気なわけ?」
「えぇ?!」
漫画みてぇなリアクションでテンがバックミラーを覗く。松尾の言う通り、クルーザーのバンパーが間抜けな形にひん曲がって道路の真ん中に転がってる。
「なんで?!映画だと平気なのに!」
「映画だからだよ、本物でやるわけねぇだろ」
「っていうかこの車って特殊な処理してあんだろ?パーツ取れたらヤバいんじゃね?」
「マジ?ヤバイのか?どうしよう、どうすんだセイ!」
「もうどうしようもねぇ、街行くぞテン」
「だいたい速度出したら熱出ちまうだろ、コイツなんもわかってねぇな」
「うるせぇ松尾、もう何も言うな。コイツの脳にこれ以上負荷をかけるな、強制終了しちまう」
「オレ、オレ……」
「テン、運転しろ。できるな?」
「オレ……、スル。ウンテン」
「よーし、エラいぞー」
再起動したテンの坊主頭を犬みたいに撫でてやった。松尾のやつコッチの苦労も知らねぇで道でつぶれたネズミ見るみたいな目ぇしやがる、全部終わったら覚えてやがれ。
外の風景はしばらくのっぺりした田んぼとか畑が続いてたけど、いつの間にかそれが住宅街になって、そのうちマンションとか飲食店がある繁華街になった、なんかいわきと雰囲気が似てるな。綺麗な繁華街が完全に無人で風に吹かれてるのって、なんか見てて気味悪い。そろそろ水戸駅も近いしセイリュウの巣にも近づいてるはずなのに、動くのは風で飛んでくる枝とかゴミばっかでギャオスも見当たらない。
「セイ、巣の位置とか分かってんのか」
「いや、レーダーにはセイリュウの位置しか出てない。この先真っすぐ行ってくれ、駅前の大通りは見通し良いんだよ」
「スゲェな、オレ地図見ただけじゃ分かんねぇわ」
「前に来たことあんだよ」
嫌な思い出だけどな。もう二度と来たくなかったけど。
大通りも殺風景そのものだ。時々ガラクタが吹っ飛ばされて前を横切ってくのと、真っ黒い炭の塊みたいのが上から建物に突き刺さって燃えてるのが一つある以外、全部止まっちまってる。
「……!南だ!」
ラーメン屋の大将みたいに空睨んで腕組みしてた松尾がいきなり叫んだ。
「ガメラか!どの辺だ?」
「分かんねぇ、とにかく南だ。急げ、かなり近い」
フロントガラスに手をついて雨雲を見上げる。上空は風が巻いてるらしくて、何層にも重なった雲がバラバラに動いてて、どこを見てるのかわからなくなる。濃い雲が見えるたびにガメラか?ギャオスか?なんて身構えるけど、なにも現れない。
「降り始めた、追われてる!次の通りで右だ!」
俺の返事より早くテンがハンドルを切る。強烈な横Gでほっぺたを窓に張り付けながら上を見た。
流線形の影が雲の中を通り沿いに飛んでく、デカい!旅客機だかヘリだかが低空を飛んでくみたいな轟音で車が振動する。
「見たかセイ、ガメラだ!」
「ああ見えた、この先だ!とにかく車をガメラの後ろにつけろ。松尾いけるか?」
「ああ、お前らしくじんじゃねぇぞ」
捨て台詞を残すと松尾はシートにもたれて、ゴーグルを被って動かなくなった。
サングラスのビジョンを点灯、テンと松尾との同期を確認。右目の視界に松尾と共有された半透明の映像が加わって、レーダーに写った大きな『UNKNOWN』の矢印が緑色の『GAMERA』に切り替わるのが見えた。
通りの先に目をやるとガメラが急降下してくのが見えた。よく見ると、ガメラよりずっと高いところからジャンボジェットみたいな大きさのギャオスがつけているのが見える。
「頼んだぜぇガメラ」
ハンドル握りながらテンが呟く。真っ赤なガメラのジェット噴射がビルの間に吸い込まれてくのを目で追ってると、バックミラーに映った松尾が目に入った。
腕組んだままピクリともしないけど、よく見ると胸がゆっくり上下してて、そしたら自然と言葉が出た。押しつけがましいから使うのも使われるのも嫌だった言葉だけど、今だけはそう言ってやりたかったんだ。
「頑張れよ、松尾」
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