0466:魔力喪失の陣

 自らの「はやかけ」で強化されたアリエリはミスリル製の剣を片手に、凄まじいスピードで龍に迫っていた。


 龍は墜ちたきり、地上に押しつけられたまま、起き上がれずにいた。裂けたり斬れなかっただけで、結構なダメージを与えていた様だ。


 あれかな……結構、「物理」「質量」に弱いタイプなのかな? まあ、うん、蛇っぽいしね。細いし。手足あるけど。


ザッ!


 アリエリの剣線が龍鱗を斬り裂いた! 


 龍の鱗と言えば、高級食材じゃないや、高級素材として取引されているって聞いた。アレ? それは竜の鱗だったかな? 


 その値段の理由は「とにかく硬い」だったはずだ。つまり、鎧に加工出来る素材の中ではある意味最強。まあ、ある意味の意味は「魔力を這わすことが出来るかどうか」だ。


 フルミスリルの鎧も大概なものだそうなのだが、竜鱗の鎧も大概らしい。とにかくフルメイルが作れるくらいの量がキープ出来るほど、竜種が討伐されなかったため、稀少の上に性能も凄まじいとのこと。龍はどうなんだろう?


 そういえば。この龍のお仲間の竜であるところの……なんだっけ。


「コイツ名前なんでしたっけ?」


「伝説の古代五龍。黒皇龍、白光龍、火炎赤龍、氷河蒼龍、大地黄龍。そのうちの一匹。火炎赤龍じゃな」


 いつの間にか背後に立っていたオーベさんに聞く。


「フリージアさんは?」


「計測機械を準備しておる。龍の使う魔術のデータを取りたいそうじゃ」


「……間に合えばいいんですが……」


「それならそれでいいのではないか? まあ、火炎赤龍は龍の中でも特殊じゃからな……魔術はほとんど通用せん。私やフリージア姉様は足手まといになるだけじゃな。なので、さっきの「魔術なのに物理」で押すやり方は正解じゃの」


「あ、やっぱりそっち系だったんですか?」


「知らなかったのか。まあ、そうじゃな。古代龍は様々な特徴を持つことで有名じゃ。この火炎赤龍は、魔術を無効にする……魔術士殺しじゃな……確か」


 そうだったのか。効きが悪いとかじゃなくて、単純に無効化されちゃってたって事か。


「ということで~あの無効化を調べて魔道具化しようかな~って」


「フリージアさん」


 あれ? でも……。


「それって、もうありますよね?」


「あら~知ってる~?」


「魔術喪失の陣……ですよね。ええ。指輪型を使ったこともありますし、敵に使われたことも。イリス様と分断されて大変になりましたね。特に移動が」


「あ~あれでしょ~あれね~もの凄い魔力消費なのよ~あの魔道具~指輪はひと部屋くらいしか効果無いし、広さを求めれば大きくなるし~」


 広域タイプは厄介だったので、発見次第破壊してしまったので、現物は残っていない。一つくらい取っておけば良かった……というのは後の祭りだ。


「そっか~広範囲のヤツをそんなに~そりゃイライラして壊しちゃうね~術士はツラくなるからしょうがないかな~」


 そう。特に通常「はやかけ」の連続使用で高速移動しているモリヤ隊のみんなが、やっきになって潰しまくった。親の仇の様に。


「もの凄い大量の魔石を消費するのよ~。というか~、使う魔石の大きさ~効果範囲が変わるの~あと、一度起動すると魔石の魔力が無くなるまで「起動しっぱなし」だし~」


「あ。そうだったんですね」


「確か、あの魔道具の元になった魔術が~あの火炎赤龍だったハズ~前に読んだ気がする~」


 す、すげぇ。そうなのか。


「なので、こうして~元データを取ってるの~」


ギジッ!


 変な音が響いた。視界をアリエリに切り替える。赤黒い……龍から血が! そんなに踏み込んで斬った? 最初の一撃は……鱗を斬り裂いた位で、ダメージになっていなかったようだ。


 が。今の一撃は違う。手と足の真ん中……胴、人間だと腹の部分から血が溢れている。


「古代五龍……伝説の固さなんですよね?」


「ミスリル製の剣に、「氷纏」の付与術。さらにそれを使いこなせる魔力の豊富な剣士……それだけ揃っていなければ、ヤツには傷一つ付けることはできん。こちらの魔術は無効化されてるのに、あやつは魔術を使用してくるからな。そもそも……あやつを地に墜とすことが不可能だからな?」


 ああ、向こうは空から魔術撃つのに、周囲は魔術喪失なのか。ズルイ。


「……しかし、物量で押すか。そんな魔術の使い方……」


「あ~聞いたことないな~そんなの~「きりさき」を同時にっててそんなに? モリヤちゃんくらいよね~もう一度みせて~」


 うーん。油断して色とか付けるとヤバイ気がしたので、さっきと同じように「風裂」を起動させる。少な目。何百という刃が……俺の上空に生成された。この二人なら、何が起こっているのが、魔力の動きで判るハズだ。


「これは~改めて見ると~」


「凄い……見たことも聞いたことも……無い」


「そうです?」


「そもそも……いや、今はいい。後でにしておこう」


「あ、はい。じゃあ、とりあえず、もう一度!」


ゴアアアアアアァァァァアアア!


 折角用意したので、再度響く重低音。幾つか……元新市街跡地に立てられていた簡易な建物が崩れた様だ。ビリビリくるもんね……物理的に。


 アリエリが距離を取ったところで、上空から「風裂」を再度喰らわせた。炎赤龍には幾つか傷があるが……攻め込みあぐねている。


「時間をかけると……回復するぞ? 「竜」そして特に「龍」は、その肉体に常に癒しの魔術が掛かっているからのう」


「ああ、それは……もう少しでうちの最高戦力が……あ。来ましたね。まだやられてなかったので嬉しそうです」


 そこには……満面の笑みを浮かべた「荒れ狂う鬼」が立っていた。



 







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