0467:高級素材

(それにしても……随分早かったですね。巨人だったのでしょう?)


(あいつ、デカい図体してるくせしやがって頭良いぞ! こっちに人が揃ったら、途端に逃げた。しかも、ムダにイロイロよびやがって)


(ああ、そりゃ……)


 火炎赤龍を率いて? いや、使い魔にした? うーん。言うこと聞かせた? まあ、とにかく一緒に攻めてくるんだから……多分、ヤツも悪魔伯爵の一人だろうなぁ。九大伯爵の中に巨人の人いたらしいからね、


 気を利かせて、アリエリ他、モリヤ隊の面々は一斉に火炎赤龍の周囲から退く。ああ、イリス様には付与してないけど……まあ、いいよな。うん。強化バリバリのアリエリで行けたということは……まあ、アリエリには失礼だが、イリス様なら……。


 青白い刃が鈍い光を放つ。ああ、そうだね……ミスリルの……片手剣。所謂ショートソードってやつだが、イリス様のはちょっと違う。


 他の……モリヤ隊のメンバーの持っているのは短剣を伸ばした感じ、とでも言おうか。ああ、あれだ、忍者のクナイの長いバージョン。乱戦、不意打ちなどでの振り回しやすさ、取り回しやすさを重視している。柄頭から切っ先まで50~70センチくらいだろうか(長さの好みは個人で違う)。


 しかも、つや消しならぬ、輝き消し加工を施してある。そのせいであまり光らない。ミスリルと言えば魔力を這わせた時に光る、青鈍い光が有名なのだが、これ、夜の闇ではかなり明るい。存在を主張する。当然、隠密行動には向いていないのだ。全体をつや消しの黒塗装とかに出来ないか、ドガルにお願いしている。


 それに対して。イリス様の片手剣は、片手剣にしてはかなり長い。バスタードソード……とまではいかないが、イリス様の身長(足の長さ、腰の高さ)で佩いて、ギリギリ取り回しが可能な長さだ。一メートルはあると思う。俺には十分両手剣、ツーハンデッドソードってやつだ。


 さらに、モリヤ隊で見慣れているつや消し加工が施されていないので、もの凄く光っている様に見えてしまう。スゲー目立つ。


 時間は……まだ昼過ぎ、午後一時近辺だと思う。日の光は明るく、ミスリルの輝きが目立つ明るさじゃ無いはずなのに……。


 剣身が弧を描く度に、確実に、龍の寿命が失われていく。尋常じゃない速さで、剣速が……さらに加速していく。アレでは……どれほど再生能力があろうと無理がある。


ガアアアァァァァァァアア!


 必死なのが判る。あの最初はビックリした重低音の攻撃も焦りにしか聴こえない。当然、イリス様そんな音を気にもせず、足を固定せずに、剣を振り続けている。


 別に火炎赤龍が何もしていないわけではないのだ。


 尻尾や腕、さらにこちらは使えないのに向こうは使える魔術も巧みに組み合わせて襲いかかっている。


が。


 どうしても遅い。イリス様の圧倒的なスピードにどう考えても龍が追いついていない。


グヴァン……


 龍の使う魔術は独特の発動をする。いきなり発動し突き刺さる大きな「炎矢」。何十本も束になっているような太さで、それが幾つも今その瞬間までイリス様が立っていた場所に突き刺さり、燃え上がる。


 が。それを剣の一振りで打ち消してしまう。どういうシステムだ、アレ。イリス様の剣線に魔力喪失のスキルが備わってのかっていう。


「おい、あれ、多分、素材にする気マンマンだぞ」


 オーベさんが指さしたのは……腕の部分だ。まず、中間を奪い、さらに手の先、肩の部分を切り離す。


「そうみたいですね……今、ガギルたちはイリス様用にこないだ回収してきた黒皇竜の素材で武器を作り始めています。多分、コイツもそうしようと……」


「余裕じゃな……。龍の中では……古代五龍の上にはもう、数匹しかおらんぞ? ヤツラはかなりの上位種なんじゃが……さすが我が君と言った所か」


「そうですね……力押しに見えて実に冷静に斬れ目を入れてますからね……」


「そうね~さすがね~」


 そこから先は……イリス様の……マグロ解体ショーならぬ、火炎赤龍解体ショーだった。断末魔を上げる間も無く、首を飛ばされ、それが回復しないように着実に別の場所に投げ捨てられてしまった。


「それにしても……今回のこの襲撃……どういう意味があるんでしょう?」


「……まさか、ここまでの強者がいると思わなかった……というところではないかのう。ソロモン王の伝記外伝によれば、悪魔……特に位が上の者はお互いに協力し合うことが無い。自らの力しか信じない種族だと言うしな」


「そうね~あの龍が居れば……こんな都市くらい、なんとでもなると思っても仕方ないんじゃな~い? 本人も乗り込んできたみたいだし~。だって、スキルとか能力値、伝説とか伝承通りだったもの~」


「はあ……それにしても狙い……は?」


「以前に出現した「暴食の王」アルバカイトはここで呼ばれたのだよな?」


「はい、領主館の側だったかと」


「ソレを追ってきた可能性はある。が。それ以外も考えられる」


「それ以外?」


「おいおい、ここはオバンド・ベルツヘルム・ニムア・スメルアなのだろう? 古代語だぞ。古代語といえば悪魔……じゃろう」


「え? そうなんです?」


「……関係があるかどうかは判らん。が。ソロモン王の記録は……古代から語り継がれてきたと言われている」


「九大悪魔を使役したって話……そんな昔のことなんですか」


「そうね~私が知ってる限りでもかなり古代~ってことだったかな~」


「まあ、関係あるかどうかは判らんが。考えられる限りは想定し、予防する方法を用意しておいた方がよいじゃろうな。相手は……まさに伝説級じゃ」


 そうだよな。妻たちが強いからって油断していいわけがないよな。訓練をしておくことが大事なのだ。というか、オーベさんはものすごい人なのに、油断がないなぁ。すごいなぁ。


「フリージアさん、オベニスの防衛用に適した魔道具って設置できますかね?」


「そうね~ファランちゃんがやってたことくらいは魔道具でやってもいいかもね~出来るし。大きな攻撃魔法を察知して動く感じにして~それでも魔石はとんでもなく消費しちゃうけど~」


「緊急時のみでしたら問題ありません」


「判った~見繕っておく~」






 


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