0460:迷宮専用浮遊台車

 装備の調整が終了したそうだ。


 後は、現在の仕様のまま、その人に合わせて細かくデータを保存して、全く同じ一式を五つほど用意しておくそうだ。何それスゴイ。というか怖い。


 俺、パティからガギルの作るミスリル装備の価値を蕩々とレクチャーされたばかりなんだけど。これ、本当にヤバイのは俺じゃ無くて、ガギルの皆さんなんじゃないの? ヤツラの職人魂? スゴすぎるよ?


 さらに。迷宮探索セットとして、特別製の小型の浮遊台車を作成した。小型といっても90センチ×180センチ、一畳くらいの大きさで。緊急時には数名を運搬出来る。これを二台。


 まあ、浮遊馬車でも良かったんだけど、迷宮は細い通路もあるからね。台車とか荷車だ的に使えばいいと思う。


 当然だが、この台車の床材には迷宮臭を撥ね除ける、迷宮臭バリアーの術を魔道具化した物が埋め込まれている。効果範囲は浮遊台車の周囲……30メートル程度。通常の~うちの迷宮だと五階層以降にいる魔物の一般的な魔石で五十日は持つらしい。うん。一回の探索で……それ以上の日数が経過することは無いだろう。最初のうちは特に。


 が。こうすると、浮遊台車の周囲以外では戦闘が出来なくなってしまう。


 それは困る。ということで、前述の通り携帯用の、自分の周り一メートル程度を覆う消臭効果を発生させる魔道具も開発してもらった。


 こちらは浮遊台車の周囲に居る限りはスイッチがオンにならない。本体が小さいだけに、魔石効率が悪く、極力効果を発揮している時間を抑えたいからだ。


 迷宮臭に関しては……現状ではもう、これが限界ということで勘弁してもらった。まあ、オーベ師はともかく、フリージアさんは随時改良していく気満々だそうだ。まあ、彼女もガギルと一緒で一流の職人だからね。気質がね。似てるよね。


 これで荷物運搬という意味でもかなり軽減されたハズだ。最初、背嚢……まあ、冒険者が良く使うという大きなリュックサックを背負うことを考えていたからね。


 全員。浮遊馬車の存在を忘れてた……わけで。


 言い訳的には……浮遊馬車は誰かに存在すら知られたくない魔道具で、基本隠して使用している。さらに、使用の場を迷宮外で考えていたので、極秘に人を輸送するのに最適! と思い込んじゃってたんだよな。


 荷物運搬に適しているのを忘れてた。


 ということで、本来迷宮内に設置されている浮遊罠を使用しているのだから、迷宮内で使用するのが当たり前なわけで、さらに、今回のうちの迷宮探索は、紅武女子独占案件である。


 俺が許可しない限り、五階層以降なんて踏み入れることが難しい。まあ、無理だ。つまり、浮遊台車をバンバン使っていても誰かに目撃される事は無い。


 とりあえず、後衛とか、その時の隊列に合わせて、誰かが引っ張って行けばいいわけで。敵に遭遇した場合、手を離せばその場に留まるようになっている。


 あ。最初のヤツは常に誰かが抑えていないといつの間にかちょっとずつ動いたりしていたが、現在のバージョンは、手を離すと完全に「動かなくなる」。動き出しにほんの少し魔力を流さないと駄目なブレーキ機構を組み込んであるんだよね。なので、どこかへ流れて行ってしまうことも無い。

 

 最終的に、今回の迷宮用浮遊台車は小型とはいえ、かなりの量の物資を運搬可能だ。問題は……外見的な部分……かな。うーん。車の無い大八車に小さいコンテナが載っている様な形……だからね。ちょっとダサい。と思う。多分。高校生、しかも女子高生から見れば……うーん。どうなんだ。って。


 その部分はどうにもならないけどさ。


「……正直。私専用のこれも欲しい……」


 が。本格派、迷宮マニア領主様からはこのようなお墨付きをいただいた。早速、専用タイプ(赤くでも塗っておこうか)を発注しておいた。これがあるのと無いのとで、迷宮での活動が大幅に変わる様だ。そりゃそうか。


 ということで。装備的、物資的な準備は整った。後は……実際に迷宮に潜って、調節をしていくしかないだろうな。うん。


「さ、さすがです! 杜谷さん! 考えていただいてありがとうございます!」


 うーん……最近、紅武女子の面々の俺に対する当りが非常に柔らかい。以前はなんだこのクソオッサン……といった感じの……ごく普通のよくある対応だったと思うのだが、体育館を作った辺りから、妙に尊敬の目で見られている……気がする。俺は自己評価が非常に低いので、多分、間違いじゃないと思う。


 女子高生に好かれているなんて……よほどのことじゃないと思えないタイプなのだ。つまりは、今現在ここでは、よほどのことが起こっている。


 ってまあ、助けたから……かなぁ。うーん。


 まあでも、イリス様がスゴイって事になるハズなんだけどなぁ。


 だからといってどうにもならないんだけど。当然、何かが始まるわけも無く。こっちからもほぼ話しかけないし。宇城さんとか八頭さんくらいにしか。


 女子高校生に好意を持たれてこの客観性は自分でもどうなんだ? とは思ったけど。


 俺、分不相応な……嫁。いるしね。しかも沢山。ハーレム。もう、これ以上は……ちょっと……。ね。これが持てる者の余裕ってヤツなんだろうか? すげぇな。嫌味なヤツにならないように気をつけないと。うん。


 とはいえ、紅武女子が、女子じゃなくて、紅武高校で、男女一緒にこっちに来ていたら……男は焦るだろうなぁ……俺みたいなのがいたら。だって、運だけでのし上がったみたいな感じだし。嫌われるよな……。うん。自分がそういう立場にいるということを常に考えながら行動しよう……。男子いないけど。そう感じる女子もいるかもしれない。うん。


 気をつけよう。勘違いしないように。中年のオヤジ的に。








 

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