0458:宇城美帆里②

 迷宮探索が本格的に開始されることになった。なんでも、ここオベニスの迷宮は「最も深き迷宮」と呼ばれていた? らしく、かなりスゴイ伝説があるという。


 何よりも……最奥部まで到達すると、願い事が叶うらしい。杜谷さん達の予想に寄れば、私たちの隷属の呪いを解くことも可能だろうし……もしかしたら、元の世界への帰還方法の手がかりも得られる可能性もある……んじゃないか? と。それはスゴイ。本当にスゴイ。


 ただ。その最奥部というのが……六万階を超えるという。とんでもない階層だ。杜谷さんによれば、ある程度判っているのは百階層位までで、以降は本気の未知の世界。どんな魔物がいるかすら判らないという。


 六万階。正直、想像も付かない世界だ。


「一階層降りるのに、敵を倒し、迷宮を探索しながらだと、最低でも一時間以上かかる。イリス様みたいな規格外ではないにしても、紅武女子の皆は優秀な戦士だ。多分、序盤の敵に躓くことは無いだろう。それでも。階層が進むとフロアの大きさも大きくなるし、迷路や罠も増加するハズだ。それを考えると」


「一階層が二~三時間として。65536階。カケルことの三時間で196608時間。8192日。約22年となる。これは最短でも22年。休み無しでだ。睡眠時間や休息時間を入れたら二倍にはなるんじゃないだろうか? 44年だ」


「君たちの呪いを解くのに見合っているかと言われると……オーベ師やフリージアさんに研究を進めてもらった方が早いのではないか? と思ってしまう。迷宮は当然、命の危険があるしね。まあ、絶対に元の世界に帰れる、自宅に帰還出来るのであれば……44年も惜しくない。帰還に関しては「願いを叶える」とあったので生じた希望なだけで……チラッとした手がかりも無いんだ」


 杜谷さんが言った。ものすごく辛そうだ。本当はそんなことを言いたくは無いのだろう。だが。それを知らなければ何も始まらない。教えてくれてありがたい。


「現在。お世話になっているオベニス領、及び杜谷さんに助力出来そうな案件はないそうだ。ならば。私たちが力を付けて、44年かかる迷宮行を数年、いや、十年で終わらせてしまえばいい。どうだろうか?」


「会長、やりましょう、目標が遠いからってそれを目指しもせず何もしないで時間が過ぎていくのは耐えられません」


「そうですね……迷宮に潜れば嫌でも強くなるようですし……予想される必要時間を短縮すれば良いだけです」


 この決定は……未だに戦う気力持てない娘達を含めて、満場一致で決定された。最近では……杜谷さんが仕事を与えてくれたおかげで、戦闘班と事務&家事班といった感じで別れて行動している。それでも行動しているのだ。俯き、何一つする気配の無かった彼女達も。


 もう少し時間は掛かるかもしれないが、自分たちも戦う……と事務&家事班の皆も迷宮探索に同意してくれた。まあ、それはそうだろう。自分の家に帰れる可能性があるのかもしれないのだ。転移してきて無理矢理戦わされていたのとは意味が違う。


「迷宮の奥に願いを叶える何かがあって。そこに辿り付くのに、会長たちはイヤって程戦うのでしょう? 今は……まだ、正直無理だけど……時間は掛かっても、自分たちもその闘いに参戦してみせる。何よりも……みんな、何もしていないのに、戦闘班の人達におんぶに抱っこで元の世界へ帰るっていうのはあり得ないって言ってる。でも……まだ……身体が動かないの。武器を持とうとすると拒絶反応みたいに……吐いてしまう娘もいて」


「ああ。判ってる。正直……それで構わない。出来る範囲で問題無い。私は……正直、もう少し利己的な人間だったんだ。向こうの世界では……会長とはいえ、生徒会長なんて、別に……ここに居るみんなの運命を左右するようなことはないしな……。でも。でも。ここに来て。杜谷さんが私達にしてくれている事を考えて。それに比べれば……。今は。まだ、調子の悪いみんなも含めて。まとめて連れ帰るつもりでいるんだ。別に見返りも求めていないし、良いカッコしたいわけじゃ無い。私が……したいんだ。私の中のルールを強くするために。私は……私は、強い人間になりたい。自分が助けたいと思った人を助けられる、余力のある人間になりたい。こういう世界だからこそ……私たちを道具としてしか扱えない、扱わないのが常識な世界だからこそ! 強いっていうのは、貫くっていうのはそういう事だろう?」


 ほとんど全員が……泣いていた。


 無理をすることはない……と、全員が言われて続けていた。誰に? 杜谷さんに、だ。あの人はただの……同時代に生まれた日本人であるということ以外、本当にただの赤の他人だ。元の世界であれば、一度もすれ違わずに生きていく可能性が高かった人だ。年齢も違う。住んでいた場所も違う。


 だが。ああ、だけど。私達は命よりも大事な何かを教わってしまった。救われたからだと……最初は思っていた。恩を感じている。だから、彼の様な志を尊敬している……のだと思っていた。が。今は少し違う。ああいう大人になりたい。ああいう人になりたい。


 必要なのは思いやる心か。経済力か。時間か。優しさか。まだまだそれは判らない。だけど。元の世界であれば、本人の言う通り、損をするだけの性格なのかもしれないけれど。元の世界に戻れば、また、世の中や周りの人達の影響でそれをバカにする側になるのかもしれないにしても。


 大切なのは今だ。目の前の魔物を倒し、迷宮を踏破する事。そのためには……自分なりの武を極める。


 あ。でも……あの臭いはどうにかならないかなぁ……杜谷さんと一緒だと臭くないのいいんだよなぁ。アレは長時間滞在しているとクラクラ来ちゃうから。迷宮で連泊とか……避けたいなぁ……。







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