0452:クリスナ公国異変①

 大きな……力がなんとなく判る。強者だ。


「パルメス……」


 モルエアは短剣を抜き、構える親友の姿を見て自分も敵に向かい合った。


(良かった……。二人で。一人だと対応出来なかった……)


 今回の任務はクリスナ公国で異変が起きているという情報部からの報告を受けて、その詳細を調べに来たのだ。が。目の前で行われていたのは、たった一人の強者とクリスナ公国騎士団との闘いだった。


 調査目的だったため、公都クリスティアにあるクリスナ公城の周囲で情報を収集していた二人。


 が。


 いきなり激しい戦闘音と共に、壁が崩れ、公都全体を巻き込む阿鼻叫喚の惨状が広がってしまった。当然だが、公都には一般人も多い。戦闘の余波で生じた火災や破砕に被害は増大する一方のようだ。


 いきなり始まったそんな状況を、崩壊した建物の影から伺っていた二人だったが、なぜか、敵の強者に気付かれてしまった。


 その瞬間。「黒い鎧を着た戦士」が、二人に分裂、分身が二人を追いかけ始めている。


「モルエア、どうにもならなそうなら、一人で逃げて」


「いや」


 パルメスとモルエアは昏き森の実家で迫害に近い扱いを受けていた。一族の長である父親の言う通りに他家に嫁入りしたものの、夫が魔物との闘いで命を落とし、居場所がなくなってしまった。結果、突き返される形で出戻りとなったのだが、その後、家の恥とされて、軟禁状態とされてしまった。


 ほぼ同じようなタイミングで同じ状況になった二人は、家が近所だったこともあって以降、一緒にいることが多かった。二人ともおしゃべりではなかったので、会話は少なかった。が、唯一、心を許せる相手だと思えた。裁縫が趣味で二人で服を作るのが気持ちの上がる唯一の時間だった。


(なんで、こいつは……クリスナと戦っているのだろうか? というか、なんで私たちとも闘い始めたのだろうか?)


 現在、目の前の「黒い戦士」の本体? は大絶賛でクリスナ公国軍とも戦闘中である。


(というか……クリスナ公国軍、騎士団が……たった一人に……押されている?)


 パルメスもモルエアも……決め手になるような武力も、魔力も持ち合わせていない。が。基本的な能力が高いので、大抵のことはどうにでもなる。二人一緒ならどんな調査でも大丈夫だと思っていた。


「ちっ」


 分身とは言え、「黒い戦士」は異様に強かった。本当に……一人で立ち向かうことになってたら簡単にやられていたに違いない。


ヒュ……ボッ!


「黒い戦士」は手甲を装備していた。長めのかぎ爪の付いたその一振りは、短剣を装備しているパルメス達よりも攻撃範囲が広い。その脇をくぐって一撃を加えようとするが、どうにも届かない。根本的な動きが速いのだ。


(でも……)


 素早い敵の動き、素早い攻撃も擦る程度だ。


 彼女達以外の騎士や兵士は擦るだけでも腕が飛び、鎧毎、身体が斬れ跳んでいる。そこまでの攻撃なのだ。


 だが。


 逆に既に何度か、彼女達の刃が「黒い戦士」に傷を与えている。彼女達の持つ短剣は当然の様に完全なミスリル製。彼女達の得意な風属性の魔術を載せて、攻撃力、攻撃範囲も若干伸びている。


(本体よりは……かなり力量が落ちる? のか? さらに、私たちには……)


 少し血が流れた瞬間に、癒しの術がとんでくる。そう。モルエアとパルメスは二人とも、高いレベルの癒しの術が使用可能なのだ。

 つまりは。お互いを癒し合うことによって、ほとんどのダメージを無かったことにできる。一撃で致命傷を与えられない以上、逃走しながらの長期戦であればこちらにも分があると考えていた。


 そんな幾ら攻撃しても効果が無いことに焦れたのか、追いすがってきていた「黒い戦士」が唐突に消えた。気配もろとも全てが消え去った。


 残っているのは……少々遠くで戦闘を続けている本体だけだ。


(倒した? いや、面倒くさくなって見逃された?)


「モルエア、どうする?」


「……ここで手助けする意味が無い……逃げる。報告に帰ろう」


 頷く。自分たちに与えられた任務は調査であって戦うコトでは無い。


 そのまま走り出そうとした瞬間、誰かが近づいてくる気配を感じた。


「いきなりで申し訳ない。そこにいるのは……ひょっとするとメールミアの「荒れ狂う鬼」イリス様の御配下ではございませんか」


 立っていたのは大きな盾を装備したクリスナの騎士だった。


「私はボンダ・ホーネック。元傭兵の「穴開け」ボンダと申します」


 パルメスが頷く。


「ガバラ砦の戦闘では……命を見逃して頂きました」


「ああ……公女を逃がした人」


 クリスナの軍は、連合軍として攻めて来て、イリスたちの圧倒的な暴力で壊滅的な被害を受けた上に、敗走時の追い打ちを見逃されている。


「はい、覚えておいでですか」


「見逃したのはイリス様。私は見てただけ」


「実は……折り入ってお願いがございます」


 元々陽気でがさつな傭兵とは思えない……真剣な口調で話を始めた。





 


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