0448:挨拶

「それほどですぞ? これは、それほどです」


「でもだからって、どうにかなるとかどうにかするとかじゃないと思うんですが」


「いえいえいえ……このガリエラにお任せいただけませんか? モリヤ様。今日食べた……そうですな。今日食べた様な神の食事が味わえるレストラン……これをオベニスで開店させていただくというのはどうですかな?」


「んーそんな~大したレシピはないよ? 数も」


「大丈夫です。イリス様は既に数十品は食べられているとのこと。それだけあれば……」


「んー」


「モリヤ様、一流の食事処というのは……正直あまり存在しません。戦争で取り潰されることが多いからというのもありますが、引き抜きが激しいのです。上流階級の者は、己の食を充実させるために手を緩めることはしませぬからな。さらに腕の立つ料理人は、市井で腕を振るうよりも、王宮や上級貴族の専属になる事を望みます。なので長続きしないのです。ですが……ここオベニスであれば貴族達から守られている。さらに……腕の立つ女性料理人がいる。女性に自分の家の厨房を任せようとする貴族はいませんからな」


 ああ、そういう事か。さずがだなぁ。一のキッカケがあるとそれを膨らまして十の形にする。そのスピードが早いんだろうな……。この人は。


「何よりも……ここに来て、金を払いさえすれば、王侯貴族すら食べたことがない料理が食べられる。そんな場所など……聞いたこともありません」


「ガリエラ老……なぜ、これまでそういう店がひとつでも無かったのです? 多くは無理でもひとつくらいは……あっても良いと思うのですが」


「……先ほど言いましたように……そもそも、歴史がありません。数代ならともかく、それ以上に長く……三百年以上続いた国も早々ございません。ノルドやガギルの皆さんは……そもそもそういった「店」自体に興味を持ちませんし。食に拘るという意味でヒームの国でなければその手の料理店は生まれないにも関わらず、短命種の国は旧帝国以来、ほとんどが長続きしておりませんからな。評判が評判を呼び……という状態になったとしても、次の瞬間に戦乱に巻き込まれ略奪され……そもそも「国」が無くなってしまっているのでは……話になりません」


「まあ、そうですね」


 なんという世知辛い……。あ。でも……。


「リーインセンチネルでしたっけ? あそこは建国されてから長いのでは?」


「あそこは……古の秩序に従ったノルドによって動いております。少なくともヒームの国ではありませぬ。商売に関しても少々付き合い方が難しく」


 そうなのか。まあ、そう考えると確かにそうなのかな。ともかく。


「判りました。ガリエラ老。貴方には他にお願いしている重要案件が多々あります。それらを押しのけてまで注力すべき事なのかどうか、計ってみましょう。この話はここでは、ここまでで」


「はっ」


「モリヤ……もう、無い。これはふわふわしてて、口に入れていくといつの間にか無くなってしまう」


 ……我が君よ……。まあ、そうかな……と思いましたけどね。


「おかわりありますよ」


 満面の笑顔だ。美しい……し、かわいい……。ずるいな。っていや! イリス様だけじゃ無いじゃん! 全員か、全員おかわりか! これ、ホールそこそこ大きいケーキだし、さらに1/8を二つお皿に載せたのに!


 全員か!


 さすがに……おかわりでお腹の方はくちくなった様だった。全員が満腹感を全身から発散している。……ってまあ、イリス様だけはもっと食べたい状態の顔だが、それは我慢させる。


「さて。今回の会食は、オーベ師の血縁、フリージアさんの御病気からの回復をお祝いするためと~もうひとつ、意味がありまして。フリージアさんがこの席に加わったことの意味を考えていただこうかな? と。ああ、まずは御本人の希望を確認したい。貴方はこの領、いや、イリス様の元でその力を使う意志はありますか?」


「うん、というか、まずね~。キチンとご挨拶をさせて頂きますかね~。領主閣下。月夜の森「森守」アラガン・グランバニア・ミードの孫にして、「魔道具」フリージア・ミードでございます。未熟者ではございますがお知りおき下さればありがたく思います」


 えっ? という顔をしたのは、「大」ガリエラ老と……ファランさんがピクっとした?


「この度は縁あって家宰のモリヤ様との交渉の結果、お仕えさせて頂く計りとなりました。我が能力、微力なれど御身のお力になりますよう、粉骨砕身仕えさせて頂きます。今後よろしくお願い致します。こんな~感じでいかがでしょう~?」


 口上というのだろうか? その時だけ……フリージアさんの雰囲気、そしてその周囲の感じが大きく変わった。静まった……とでも言うのだろうか? 立ち上がり、御辞儀をしたその姿は実に美しい。何か……光が……細かい光の粒子がフリージアさんの身体からぶわっと舞い出た。気がした。


「ああ、判った。フリージア師、今後共よろしく」


 でも、さ、さすが、我が君! イリス様。動じてない! サッパリ動じてない! さすが!


 イリス様の一言で、全てが動き始めた。ポカンとしていた全員が視線を戻す。


「お姉様、ちゃんとできるのですね?」


「もー失礼しちゃうの~」


「そういう所ですのじゃ……」


 こうして。有能な(多分)魔道具製作者が我が領に加わった。






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