0447:歓迎会じゃないの?

「モリヤ、これいうあはおっぼぼはおほあほあほほ」


 ああ……我が主君が……アホの子になってる……。口にカレーとカツを入れすぎだ。熱いよな。うん、熱い。


 この人……今後、王族とか上流な人たちとの会食とか乗り越えられるんだろうか? いや、この世界、マナーとかイマイチ確立してないレベルじゃない……よな。ナイフ、フォークあるし。その手のマナーあるっぽいこと聞いたし。詳しくは知らないけど。


 ヘタすれば手掴みで食べちゃいそうだなぁ。


「もが、も、モリヤ、モリヤ、これ、これ、すごい」


「はいはい、イリス様は領主なんですから、もう少し、もう少し嗜みを。最低限でかまいませんから。口にいっぱい食べ物を入れてしゃべるのはダメです。フリージア様がビックリしてますよ」


「あらあら~違うのよ~ビックリしてるのはこの料理なのよ~なにこれなにこれ、なにこれ。なんで、こんなに美味しいの? カレー……の元になってる香辛料とかはうちにあったやつよね? うん、なんとなくだけど、食べた覚えあるもの……でも……なんで? なんでこんなに美味しいの~? おかしいのよ~」


 フリージアさんも結構、反応はイリス様に近い。天才魔道具師……残念。


「いや……普通ですよね?」


「モリヤ。私は感情の起伏が非常に少ないので判りにくいと思うのだが。以前から、お前の料理を食べる度に、結婚して良かったと思い直している。毎回」


 え? そうなの? ファランさん。


「そうじゃな。正直、これまでそれなりに高級と言われるような料理も食べてきたが……。こんなレベルの高い料理は食べたことがないのう……なんじゃ、この……カレーだけでも凄まじい複雑な味、辛いが辛すぎず、甘さも感じるのにサッパリとしている……にも関わらず、その上に、単体でも十分に美味しいカツとやら。さらにその上に……とろっとした所のある目玉焼きじゃったか? なんじゃ、これは。なぜ、こんな複雑な味が構築出来るのか本気で良く判らんのじゃ。我が君とお姉様がああなるのも判らんでも無い」


 いやいや、グルメさんか! そんな。カツカレー目玉焼き載せなんて……学食メニューだし、安価な定食屋さんの定番だし、下手すりゃ牛丼屋さんのカレーメニューでも出てきちゃいますよ? 


「モリヤ様。正直、皆さんの賞賛は極過小なものだと思いますぞ? このカツカレーそして生野菜、サラダでしたか? 素材の素晴らしさは当然として、ですが、この調味料の組み合わせも凄まじく旨い。さらにさらに、さりげなく置かれたこのフワフワの卵焼き……はなんですか、これは。なんでも、衛生管理された新鮮な卵であるから、こういった生焼け状態のものでも問題無いそうで。こんな食感が……食べ物にこんな食感があるとは思いませんでしたぞ! もう、ああ、自分はいつかこれも商売にしたいものです。ただ、この領には売りたいモノが多すぎる。どうしてくれますか!」


 どうもせんよ……。あ。今日のフリージアさんの顔見せ会食には丁度、ファランさんと打ち合わせに来ていた「大」ガリエラが同席している。

 彼は総合商社、しかも財閥の長の様な立場で各国の王族とも付き合いがあったそうだ。つまりは相当な真のグルメなハズだ。そんな人にそうも褒められるとまあ、悪い気はしない。というか、作ったかいがあるというか、報われるというか。


「皆さん、会食での会話は重要です。ですが。食事中にそこまでの大声出したり、怒鳴ったり、文句言ったりするんなら、もう、デザートは出しません。今回の桃のケーキは……自分でもかなり良く出来たと思ってるんですが」


……


 シンと静まりかえった食堂。いやいやいや。しゃべるなとは言ってない。子供か。


 そんな。マジで。違うでしょう? 違う。イリス様は、なんでそんな酷いことを言うのかみたいな顔をするのは止めてください。貴方にそんな顔をさせられる敵はそうそういないでしょうに……。もう。


 全員が黙々と食べるようになった。いやいや……ねえ。黙れと言ったわけじゃ無くてですね? 適度にね。こう、普通に。うん。


「こ、これは……」


 ガリエラ老が絶句している。というか、この人、かなりの策士にして腹黒にも関わらず、表情豊かだな。判りやすいというか。アレか、切り替え出来ちゃうタイプなのか。私生活はスゴく喜怒哀楽激しいって感じなのかな?


「この様な……神の国の食べ物が……この世にあったとは……」


 大げさですよ……。


「すごいのぉ~」


「確かに。これはスゴイ……」


「クリームとスポンジだったか? 過去にもモリヤが作ってくれたが、今回のこれは……本当に旨いな。食べ物など、腹が膨れればなんでも良いと思ってた自分が馬鹿馬鹿しくなる」


「我が主よ……これを奪いあって戦争が起こるのではないか? これは。コーヒーも合うな!」


 コーヒーはまだ代替植物がまだ見つかっていない。なのでダンジョンポイントで賄っている。今回の会食メニューでこれが唯一かな。高級品として超限定だが、俺は……愛飲している。領主館限定だな。


 まあ、お茶文化としては、こちらの世界では元々ハーブティが主流で、紅茶系のお茶が高級品とされている。コーヒーは……うーん。残念ながら主流にはなり得ない感じかな。苦味文化が受け容れられるには時間がかかりそうだけど、コーヒー豆がDPでしか得られない以上、普及しないからなぁ。


「オーベさんだけですよ。笑。そこまで思い入れるのは」


「いや……まんざらでもない……気がする」


「そうだな……私も戦うな……これを奪われれば」


「ファランさんまで……」


 戦争はしないでくださいよ……シャレになりませんから。ここにいるほとんどの人が人間凶器なんですから。






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