0446:メニュー

 畜産は当然、通常の食生活にも影響大だが、肉は元々魔物の肉が流通していたため、そこまででもない。が。牛乳(の様な味のもの)と生卵はお菓子系、デザート系の食べ物には効果抜群だ。


 それこそ、牛乳はほとんどの洋菓子で重要な役割を担っているし、卵もスポンジ生地やクッキー生地に……なんていう根幹食材だ。何よりもメレンゲやプリン、俺の知っている範囲でも活用されている。


 その上。現在では俺よりも料理に詳しい紅武女子の「料理できます」な娘が数名いる。転移してきた娘のほとんどがスポーツエリートであって、包丁など生きてきて一度も持たされたことが無い感じだった。が~アレだけ居れば当然、俺よりは料理に詳しい、ちゃんと親に教わっていた、習っていたなんて娘もいるわけで。


 その娘達には協力をお願いして、積極的にレシピ化してもらっている。


 話はずれるが、現在「迷宮探索」の訓練をしていない、ほぼ療養所内に引き籠もっている娘達にもその作業はお願いをしている。これは宇城さん経由で、彼女達から提案があったのだ。何か出来る事はないか? と。……自分たちが食べるのだから……せめて……と。


 前から言っている様に、別に一生引き籠もってもらっても食べさせられるくらいは、既に用意が出来ている。

 が。その人の役割というか、やりがいというか使命というか、誰かに頼りにされる……という意識が無いと、いつまでも心が復活出来ない場合が多いと思う。なので賛成した。ノルマではないが、どんなメニューが良いか、何を優先するか? その辺の「お願い」は提示してある。


 さらに。未だ回復していないその娘たちには、転移してきた際に自分達の荷物に入っていたスマホ内に残っていたデータの書き出し……という仕事もお願いしている。


 彼女たちの私物は、ミスハルがビジュリア潘都を「潰す」際に宝物庫から回収してあった。まあ、それなりの量(それでも馬車一台程度)になったので、持ち帰るのが大変だったようだけど。


 便利に使っちゃってるミスハルの功績に対して、恩賞が相応しくないような気がする。うん。もうちょい優しくしないと……ね。


 数台だが、予備バッテリーや、太陽光発電可能な充電器を持っていた娘もいたのだ。つまり、経年劣化によって使えなくなる、壊れるまで、地味に使えば今後も永続して内部情報の閲覧くらいは可能な情報端末が存在している事になる。通信機能は使えなくても、内部メモリに蓄えられた各種のデータは非常に存在意義は大きい。


 中でも……宇城さんと八頭さん、他数名のスマホアプリは凄かった。複数の辞書や百科事典、家庭の医学等の専門書、その上、幾つかの技術系の書物までインストールされていたのだ。


 あまり大事なことも入って無いし、気にしないということで(最低限メールアプリ等のプライバシー部分にはロックはかけた)、その内容の「紙」への書き出し用にスマホを供出してくれた。うーん。昨今の向こうの世界、スマホ命の人間が多いし、特に女子は大切な情報てんこ盛りのハズなんだけどなぁ。ありがたいから良いんだけど。


「え? 本当ならこれらはビジュリアの宝物庫に保管されて、私たちの手元には帰って来なかったモノなのですから。ですからモリヤさん……いえイリス様でしょうか、に自由する権利があるかと」


 そんな宇城さん談。


 でと。そんなわけで、ここオベニスの畜産場では羊と山羊と牛と豚、鶏の様な動物、さらにそれに似た魔物を飼っている。正直、俺の知ってる量産体制の取れるような……ケージを用意して、そこに一頭ずつ入れて……っていうのは知識が足らないのでやっていない。ある程度の放牧場で放し飼いにして、育ったら絞めるとか、見つけたら採取するとか、そういう自然放牧系の畜産場なので、効率はあまり良くない。卵だけ、檻というかケージで下に落ちる感じ? には出来た。その程度の施設、なのだが。

 

 何度も言うが、これはデカい。


 特に畜産という……獣を飼って食用にするという文化が存在しないこの世界で安全に肉が手に入るということ。さらに、養鶏によって、常時生卵が食べられるようになったのも大きい。これまで卵といえば、偶然手に入る魔物の卵が主であり、冒険者が偶然手に入れたとして、食べるまでに日数も経過する。当然、衛生管理もされていない。なので火をよく通して、硬く焼いたり、茹でたりで、当然、生とか半生でなんて食されていなかった。


 さらにそこに俺の「浄化」の登場である。ババーン! 雑菌滅殺完了! 


 なのでいきなり、ズルズルのフニョフニョのふわふわで出てくるのだ。


 イリス様とファランさんの要望でもあるのだが、これはオベニス領主館の食事を一変した。


 オベニスの……というか、この世界にとって、この食事改革は劇的の様だ。ちなみに、これらが確立できたのはつい先日のことなので、まだ一部の者しか味わっていない。特に俺が途中で月夜の森へ行ってしまったからね。


 が。さすが料理人と言うべきか。料理長のオーリスさん、そして料理人のクオリアさんは俺が戻った時には完璧なオムレツをイリス様に食べさせていた。マジスゴイ。


 ふわふわでトロトロ。これぞオムレツってヤツだった。もう、俺が作らなくても大丈夫。うん。


 で。そんな俺の今日の会食の料理は、


・カツカレー

 元々、この世界で手に入る米はジャポニカ種ではなく、インディカ種(に似た物)である。長細くて日本のお米と同じ水分量で炊くと大抵、パサパサになる。粘着性も低い。なので、この手の米は最高のカレー用ご飯だ。本来のインディカ米は焚くではなく、湯がくだったそうだ(紅武情報)。日本の米飯とは根本的な調理法が異なる。インディカ米=あまり美味しくないという風評は、単純に日本米と同じ調理法で食べようとした人の評価が根付いてしまったものだ聞いたそうだ。

 これに鶏(の様な鳥)の肉で作った野菜タップリのチキンカレーをかけ、その上に、豚(の様な魔物)肉で作ったカツ。そして目玉焼きを載せた。

 ソースは、各種野菜を煮込んで作った疑似ソース。若干薄い気もするけどこれ以上は研鑚が必要だと思う。

 個人的には半生目玉焼きが肝だ。とろりととろける黄身を混ぜながら食べるカツカレーは極上の逸品と言える。

 カレーの味付けはオーベさんの実家から持ち帰ったカレースパイスを小麦粉、牛乳で伸ばして日本的なルーを作り、仕上げた。


・胡麻ドレッシング+サラダ

 生で野菜を食べるという事が少ないこの世界の人にも食べて欲しいサラダ……というコンセプトで、苦みのない葉野菜と、トマト、そこに癖のないチーズ(これも牛乳? の様な動物の乳が手に入ったので可能になった)を載せて仕上げる。胡麻ドレッシングの胡麻が普通とは違うのか、とんでもなく香り立つ。


・オムレツ

 せっかくうちの料理人が作れるようになっているのだからと、出してみる。純粋に美味しいからね。ケチャップもどきがかかっている。


・生クリームと桃のケーキ

 これも今はココでしか作れない、生クリームをふんだんにつかったケーキだ。苺(に似た果物)は時期的に無かったので、桃(以下同)。それをふんだんに使った桃のケーキにした。

 スポンジも迷宮素材を使わずに、ほぼ向こうの世界のままに作れた。なんだっけ……ベーキングパウダーが無いので若干固めだが、紅武女子達が書き起こしてくれたレシピのおかげでイイ感じに仕上がった。スポンジに使う粉の分量とか、勘ですら分からないからね。俺には。

 あ。牛乳が手に入る=バターも作らせている。これがもう、絶品。迷宮品よりも美味しいんじゃ無いか? ってくらい美味い。なんで今までこの世界に無かったんだろうか? って畜産がなかったからか。しょうがない。


 すげー学食っぽいメニューだが……まあ、うん。珍しいからね。いいよね。






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