0444:病の浄化

「何これ~」


 フリージアさんはオベニスの城壁を越えた辺りからずっと窓から見ていた様だ。


「な、何ここ。何ココ~。幻影? 私、騙されてるの? 地下へ入ってきたわよね? ね、ね? どうなってるの? これ、というかここ、ここが領主館? 本当に?」


「本当ですよ。お姉様」


 浮遊馬車から降りたフリージアさんは、そのまま領主館の迎賓館へ通された。この建物は、見かけ的にかなり現在の貴族に侮られない格式を重視して装飾されている。元は俺が用意した茂木アレンジの豪華な洋館だ。


「ここは迎賓館です。高貴なお客様をお通しし、滞在して頂く際に利用しよう……と思って作った館です。といいつつ、この領は嫌われているので高貴なお客様なんて来ないんですけどね」


「あらあら、そうなのー?」


「お姉様。領主が女性ですので……」


「あーあー。それってこの時代でも変わってないのね~」


「ほぼ変わっていませんな」


「そっか~いやいや、誤魔化されないわ~そんなので誤魔化されないわ~説明して。全部説明して。誓約したんだから説明して〜」


「お姉様……まずは御自身のお身体を癒すのが先だと思うのですが」


「あ。あらあらあらあら。そうね~そうよね~私、自分の病気を治す為に冷たくなってたんだった~思い出した~」


「では……まずは診察を始めましょうか」


「んーというか、診察ってモリヤちゃんがやるのよねぇ~?」


「はい」


「治療も?」


「はい、そうなります」


「なら、モリヤちゃんの執務室がある館の方がいいな~」


「そうですか? とりあえず、オーベさんが敬意を払うレベルの御方なので、最高賓客扱いです。まずは一番豪華なところへと思ったんですが」


「こういう豪華なのもいいけど~でも~狭い部屋で研究一筋だったから落ち着かないの~」


「なら、お姉様、地下領主館の私の部屋の隣が空いております。滞在はそこでよろしいですか?」


「あ! やっぱり地下なのね~! ここ! ここ! 地下なのね~!」


 ヤブヘビって言うか、また思い出させてしまった……。別に説明してもいいんだけど、その前に診察してって思うよね。うん。それ一番大事だし。


 まあ、イリス様やファランさんも挨拶しやすいだろうから、地下領主館に滞在してもらえると楽か。魔道具工房を用意するのは後でいいだろう。


「うんうん。信じられないわ〜ここが本当に遺跡? 遺跡って過去の建物とかよね? あ、確かにこっちの館は活気があるわね~!」


「では、とりあえず、現状を診察させて下さい。ご病気に関して御自身で判っていることは?」


「んー多分、黒腫瘍だと思うんだよねぇ~うちの家系はそれで何人も死んでるし。お腹の辺りにある臓器に巣くってる~吐き気とかそういうのはもう当然で~冷たくなる前は……確か血を吐いたりもしたわね~なにより~指先の震えが止められなくなってしまって~魔道具作れなくなっちゃったのよねぇ~魔道具作れない人生なんて生きててもしょうがないじゃない? あと、もう、なんか魔道具以外の生活には飽きてきてたし。だから、冷たくなって未来に託したのよ~」


 黒、腫瘍?……ガンの事だろうか? 外科的な手術とかあったのかな? 昔は。まあ、いいか。


 急遽用意した部屋。ベッドに寝てもらう。イリス様は紅武女子の訓練中で、ファランさんは地上で仕事中らしい。挨拶は夕食時で良いだろうということで、先にこっちだ。


 オーベさんが見守る中で、室内着のフリージアさんに手をかざす。全身を感じる様に調べていく。判りやすく、ガンかも? という情報が入力されているからか、明らかにお腹、胃と小腸……えっと胃の次は十二指腸だっけかな? 辺りだろうか? 確かに違和感を感じる。


 あるね。確実に。なんていうか、重い……確かに黒いというか、もやってるっていうか。大きいのが一つ。その周りに点在してる小粒なの。


 まあ、うん、診察なんて言った所で、俺に判るのはその程度だ。ただ、スゴイのは光の魔術って事になる。ここで違和感を感じてしまえば……後は、それを「正常な状態」へ浄化してしまえば良い。


 イメージする。悪性腫瘍を除去する、完全に取り除いて根治させる、転移したりさせない……で固定する。


 浄化。


「え?」


 厳密に言うと……多分、これは死霊を払う際に使ってた「浄化」と違う術な気がする。ただ、イメージとして身体を病から守る、病原菌から守るということで、俺の中で統一されてしまった。

 考えるとちと面倒だけど。一度決まってしまったものは、修正するのが難しい。頭で考えた結果がそのまま反映されるだけに、これだ! と思って術を使ってしまったら、その後はそれで固定されてしまうのだ。


 大量の……魔力が消費された……って、ギリギリ……な気がする。俺、かなり魔力増えてたんだけどな。これくらいの癌、転移してないレベルの癌を浄化させるだけでヤバくなるとは……今後、「死にかけの病人」を治療しなければいけなくなった場合、ヤバくなる……あ。いや、そうか。一気にやらずに、少しづつ、数日、数週間かけて治療すればいいのか。忘れてた。


 ああ。つい、診察と言いながら一気に治してしまった。


「……あら? あららあらあら? い、今、施術……した~?」


「あ、はい、とりあえず、試しに……と思ったら、結構上手く行ってしまいましたね……」


「え? ええ?」


「多分というか、確実に、根治出来てると思いますよ?」


 再度、フリージアさんの身体に手をかざし、違和感を感じるところは無いか探知していく。良かった。俺に治せる病気で。医者じゃないので根幹が理解出来ていない以上、どうしても対処できない病気もあると思うのだ。それこそ、悪性腫瘍っていうのは敵だ。判りやすい。その敵を違和感として感じるのは可能だし、それを排除するのも難しくない。


 だが、脳溢血とか……心臓病とか……その辺の病気は……違和感を感じるんだろうか? そもそも、病の分類が上手くできないしな……。脚気とか、壊血病とか白血病とか……喘息は肺に巣くう病原菌をやっつけろみたいなノリでどうにかなるのか? そうなのか? うろ覚えの医療知識がなぁ。分厚い辞書みたいな家庭の医学だっけかな? あんな本があれば……。


「ええええ? もう? 本当に?」


「はい。治ったかと……思います」


「何これ。何これ。なにこれ~~~~!」


 フリージアさんの声はかなり大きく……おっとりしている分だけ、狼狽ぶりがちょっと面白かった。







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