0439:笑顔の為に

 台所を案内してもらって、確認していく。確かに、おいてある食材はほとんどが使用可能レベルだった。生鮮食品、野菜なんかも大丈夫なのはどういう魔法なのか。保存の魔術ってなんなのか。パイセンのとこは食糧はダメだったんだよなぁ。漫画原稿は平気だったのに……多分、贅沢するベクトルが違ってたのかも。


 さらに、調味料もほとんど大丈夫の様だった。手に落として舐めてみると、塩、胡椒、各種ハーブ、様々な香辛料が使用可能な様だ。この調味料の種類だけでもオベニスの何十倍はある。そしてさらに。缶のような入れ物に入った、それら調味料を混ぜ合わせた物。大量のカレー粉の様な物も発見した! これは……凄い。やっぱ、旧帝国時代には商品としてカレーがあったんだな。


「奥に食糧倉庫もあるから幾ら使ってもよいぞ?」


 言われるがまま覗いてみる。そこには保存食を中心に大量の食糧が詰め込まれていた。そしてさらに。先ほどのカレー粉の様な香辛料が納められた缶が山積みとなっていた。缶? あったの? というか、この赤いラベル。カレー……好きだったのかな? この家の誰かが。保存するにしたってスゴい量だ。商売してたとか、売り物の倉庫だったって言われた方が納得出来る。


「カレー……好きだったんですか?」


「ああ……私は子どもの頃、ここに住んでいなかったのじゃ。初めてここへ来たのも、蛮族によって集落が滅び、既に両親が死に、この館に誰もいなくなってからだからの。これがカレー粉だったのじゃな。ただ私は食べたことが無かったが……祖父の大好物だったと聞いたことがある。何百日だか、ほとんど毎日カレーを食べていた、と」


 それはそれでさすがに迷惑な。インド人か。


「全て持っていって良いぞ。我が主よ。というか、オベニスでカレーを作ってくれ。ここは……廃棄する」


 あ。あれ? カレーもどき作った時、オーベさんは……いなかったか。


「判りました。では、遠慮無く」


 尽く収納してしまう。よく考えたら、ここに滞在している間に食べる物はいくらでも収納に入ってる。ゆっくり安心して調理してる時間は……まあ、無いというか、作らない方がいいよな。どんなアクシデントがあるか判らないし。


「余裕のあるうちに回収してしまおう。まずはこの部屋からにするか」

「うーいす」


 とりあえず、オーベさんに伺いを立ててから次々に回収していく。本は全て持って行く。さらに、めぼしい道具類も持って行ってしまおう。オベニスで倉庫に広げて、いらなければ燃やしてしまえばいい。


 注意しなければいけないのは出す時だ。何かある場所に出そうとすると、ぶつかり合って潰してしまう。それこそ……家がある所に、小屋を出すと家と小屋がぶつかって壊れてしまう。良く判らない壊れ方をする。


 イメージが出来れば多分、身体中どの場所の先にでも出せるとは思うのだが、足先とかで出られても……ってことで、掌の先に出すことで固定させている。これ、魔術の場合でもかなり大事で、攻撃用の術なら、指先から出すか、掌から出すかで結構変わる。簡単に言えば、指先だと細く出るし、掌からだとちょっと太くなる。細い方は貫通力に優れてるし、太くなると動く敵に当たりやすい。


 収納を掌の先で固定させたのも、使用時に余計な事を考えてしまって、お尻から出ちゃったりしたら笑い事にならないというか。特に大きい物はね。


 もう一度、地下へ行き、魔道具やそのパーツ、部品、良く判らない素材っぽいものも収納していく。俺の収納はどうなってしまうのだろうか? 現時点でかなりの物量を納めているが、正直、二割程度しか使用していないイメージしか浮かんでこない。この感覚が間違っていた場合、アイテムがあふれ出したりするのだろうか?


 何てことを考えながら、オーベさんの実家の物品回収を行っていく。

 特筆すべきはカレー粉と魔道具関係くらいだろうか?


「貴重な魔術書もかなりあったんだがな。ただ。我が主の鑑定や、光属性の術の再定義によって使い物にならなくなった理論も多いからな」


 そりゃ……。


「ああ、申し訳ない等と思うなよ? 我が主のおかげで様々な研究が一気に進むのだ。私には感謝の気持ちしか無いな」


「そうなら良いんですけど」


 そりゃそうね。研究者を馬鹿にすることになっちゃうもんね。


「私たちの様な学究の徒の宿命じゃ。真実がそこにあるのに手を伸ばさないでいる者は愚かでしか無い。我が主よ。見くびるなよ?」


「ええ。オーベさんやファランさん、ミルベニも大丈夫でしょう。心の底から学究の徒の様ですし」


「そうじゃな。師匠としてそこを見誤ることは無いな」


「さすがです」


 ならば、じゃないけど。気がついたことは全て伝えよう。俺の助言で何かが先へ進むなら、なるべく協力をしよう。この世界の……魔術を進化させるためでは無く……我が妻達の笑顔の為に。






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