0437:目的

「とりあえず、ここでちょっと休みましょうか?」


「そうじゃな……もうすぐ夜になる。森に入るのは明日でも良かろう。故郷とはいえ……今ではどうなっているか判らんでな」


 簡易小屋を出して休憩する。何よりもソファに座ったら、腰が上がらなくなった。なんだかんだ言って走り続けてここまで来たわけで。疲れていた様だ。


 これで風呂にでも入ったらもう、ベッドで寝たくなるのは確実だ。この小屋の周囲には獣除けの結界が組み込まれている。後で蛮族避けに幾つかの結界を張っておけばいいだろう。その手の魔道具もかなりの数、しまい込んである。


 小屋は一階が食堂と台所、風呂、トイレ。二階に寝室。ベッドが二つの部屋×2、ひとつの部屋×1。


 という小屋というか……うーん。コテージ? ちょっとした別荘? みたいな仕様になっている。純粋に迷宮で使用する場合のことを考えての五人の寝床といった感じだ(一人部屋が俺のって感じ)。


 水回りや火、光源などを魔道具で賄う、魔石を大量に使用した贅沢仕様だ。まあさすがに暖房は暖炉で、薪を使うようになっている(ちなみに薪は薪で収納に山ほど入っている)。


「これを持ち歩いているというのが未だに……信じられん……」


「お館様、潜入任務で遠出する時に一緒に来て欲しい」


 食後のお茶を飲みながら、だらんと伸びる。


「確かに……これ便利だよね……」


「そういうレベルでは無いのだがな」


 外見は完全に普通の小屋だけど、結界の強度的にはそこらの砦とか、ヘタすれば城砦都市なんかよりも上だからね。守らないといけない面積が、体積? が小さい分だけ、強度を上げることができるからさ。


「さて。我が主よ。ここに連れて来た理由じゃ」


「お墓参りと遺産整理じゃないんですか?」


「そうじゃな。それも大きい。が。ひとつ賭けをしようと思う」


「賭け?」


「我には叔母がいてな。母の姉じゃな。この人は真の天才じゃった。あらゆる魔術にあらゆる錬金に、あらゆる魔道具……特に魔とつく事には異常な能力を示したそうじゃ。実は我が家の地下に埋もれている魔道具のほとんどは、この人の創ったモノじゃ。ちなみに、今世にある魔道具の基本の仕組みを作ったのもこの叔母じゃ。それがリーインセンチネルの賢者達に伝わって、販売され大陸中で使用されておる。それこそ……この光を生み出す魔道具な? 魔石から魔力を効率良く吸い出し、光に変換するという魔術紋。これ以前にも似たような物は多くあったそうなのじゃが、ほとんどが叔母の設計よりも性能が著しく低かった。叔母は魔道具の普及のために、しごく安価で売りたかったそうじゃが……若くして身を隠してな。リーインセンチネルが後を継いだ結果が今現在と。以前よりも魔道具は広く使われる世の中にはなっておる。が。叔母が欲したほどでは無いじゃろうな」



「それは……凄い人ですね」


「ああ。本当の天才というヤツじゃな」


「あ。というか、その人の創った魔道具の中に迷宮の臭いを防ぐ物があるとかですか?」


「残念だが、そういう物は無かったと思う」


「ああ、まあ、そうですよね。そんな都合の良い話、無いですよね」


 オーベさんがお茶を飲む。


「光属性の魔術……自体、使い手が少なく謎が多いという話はしたし、その属性や方向性、及び詳細が判明したのは我が主の鑑定の結果だという話は聞いたな?」


 頷く。


「我が主以外の光属性の使い手は……大抵が癒しの術の使い手で、自分でも気付かぬうちにその力を使っていることが多いと思う」


 ああ、確か、セタシュアも光属性を持っていたハズだ。そりゃそうか。鑑定出来なきゃ、光属性を持っているって判らないんだから。


「我が主の癒しの術や光属性の術が強力なのは……最初からその分類分けが出来ていて、さらに、使い方、使い道、そして効果を認識しているということになる。癒しの術で女神に祈らない……などありえんからな」


 そうなのか。純粋にその人の肉体や細胞に治れ! と呼びかけてたわ。なんとなくだけど。


「まあ、今はそれはよい。実はな。先ほど話した叔母、な。伝わる話では……死んではおらん」


「!?」


「叔母は不明の病に蝕まれてな……日に日に衰弱する中、生物を眠らせてその身体を冷たくすることで長期保存が可能だということを発見した」


 冷凍保存か……独学で? すごいな……。


「自分の病の治療を未来に託した……のじゃ。それこそ、身内にのみその存在を明かして……ここぞという時に起こして欲しいと残してな」


「それが……」


「ああ、この月夜の森、私の実家の地下……さらに深い所で眠っておる」


「と言う話をしたということは? あの、起こす気……満々でしょうか?」


「その通りじゃ!」


 顔が……既にドヤ顔だ……。


「モリヤは病を癒す術も、光属性の病を払う術も使えよう? そもそも……病人が……病気であるのか、呪いであるのか、その辺の区別がハッキリ付かないモノも多いのがいかんのだ。それこそ……病癒しの術で治った……と思ったら、実は治ってなかった、原因は他にあったという症例を山ほど見てきた」


 それはそうでしょうね。だって鑑定がなければ現状の診察も正確にはできないし、良く判らないのだから。


「つまりは治療をせよ、と」


「こちらにも益があるからな。いくら自由奔放な叔母でも、命の恩人を蔑ろにはしまい。叔母が居れば……多分、迷宮の臭いを防ぐ魔道具も作れるはずじゃ」


「え? そうなんですか?」


「叔母は既存の魔術、呪文を一通り魔道具化できていたというからな。叔母の作った中に、迷宮の臭いを消す魔道具が無いのは、その光呪文を使える者が居なかったからじゃ」


「呪文を使える者が居れば、問題無いと?」


「ああ。大丈夫じゃろ! ということで、起こす! そして癒やすのだ!」







 


 



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