0431:ボス戦
第七階層、第八階層、第九階層、第十階層はあっという間に走破されつつあった。一番大変なのは多分、ミスハルだ。移動スピードを含めて何もかもが早いので、地図を描いている余裕が無いのだ。
ここまで、大体、十二時間程度……か。これは当然ながら脅威的な時間だと思う。イリス様の判断でドンドン先へ進んでいるからだ。
次の階層への方向がなぜか判ると言うか、着実にそっちへ近づいて行く本能の様な能力によって、あっという間にここまで来てしまった。
俺はちょっとした癒しと能力強化の術しか使って無いし、紅武の二人もただただ荷物を背負って歩いている。それだけなのに、かなり疲れている。
「迷宮は魔力が濃いからな。慣れないと疲労しやすい。それにしても十階層じゃなかったな。ボスは十一階層か」
そう。今日の予定は一番最初のボスを討伐し、転移陣で紅武療養所の地下に戻る所までとなっていた。迷宮内で泊まったとしても最大でも一泊で問題無いということだった。既に一階層余分になっている。
とはいえ。十階層でも比較的アッサリと次の階層への階段が見つかった。ここまで、なぜ、こんなに迷い無く進めるのか。
「迷宮の階層には幾つかのパターンがある。特にこの手の石の迷宮はその傾向が強い」
「簡単に言うと?」
「勘だ」
だと思った。
「十一階層、か。中途半端な数だが……誰が決めたのか、その辺は適当でお構いなしだからな」
確かに切れは悪い。が。文句を言っても仕方が無い。
十一階層はこれまでと様相が違った。まるで茂木先輩が設定したかのような……いや、茂木先輩よりももっと子どもが設定したかのような……一本道の向こうに扉が待ち受けていた。
「あれですね、この廊下で休んで、完全回復してから挑めってことですね? これは」
「ああ、そうだな……ボス広間の手前は……大抵がこんな感じになっている。ここでキャンプを張って、一日回復させてから突入って言うのが普通だな」
「念を入れてですね?」
「ああ。後……極まれに。通常のボスでは無い、亜種が現れることがある。これは通常のボスの倍以上の強さを持っている。なので、冒険者はかなり余裕が出来てから、ボス戦に挑むことが多い。それこそ、通常のボスが二体出現しても勝てる……くらいになってからとかな」
「命大事にってヤツですね」
「死んだら元も来ないからな。とはいえ、どれくらい強くなったらボスに挑むのか? はリーダーの判断力の見せどころになる。余り慎重すぎると、パーティメンバーに見放されて解散……なんてこともよく聞くからな」
そりゃ難しいな……確かに、この世界だと、陣頭指揮を執り、率先して魔物に突っ込んでいく様なヤツじゃ無いとリーダーとして認められない。多分、俺の様なコソコソしたやり方をしているヤツは、絶対に無理だろう。ここでも論理的では無く、感情的。後方で指揮を執っている超大物よりも、戦闘で常に姿を見せながら戦っているちょい強いリーダー。どちらに人が付いていくかは一目瞭然なのだ。
だって、イリス様が女だてらにこの領、冒険者の中でもの凄い人気、カリスマを誇っているのも、あらゆる場面で、先頭に立って戦ってきたから。三つ首竜、そして、その死霊との闘いなんて、目の前に立ち塞がり敵を押しとどめていた姿を、ほぼ全ての領民が認識している。
だからこそ、平民上がりで歴史や背景がまるで無いにも関わらず、この領はイリス様の元にまとまっているのだ。
「まあ、とにかく、ここを突破しなければ転移陣は使えない。まずはここでボスを倒して、先へ進まなければ」
全員が頷く。やっと本格的に戦闘……となるのか? と。思ったが。
広間の扉を開け、中に入った瞬間、扉が強制的に閉まる。広間の奥にいるのは……デカいゴブリン! 両手剣を持っている? のかな? その周囲に通常のゴブリン。杖持ちが複数見受けられる。
「ああ、やっとそれなりに手応えがありそうだな!」
何で嬉しそうなんですか……。
「このまま真っ直ぐ行くから! 周りを頼む!」
と言い放つと、そのまま、腰の片手剣を両手で抜き、奥のデカいゴブリンに斬りかかった。まあ、ゴブリンリーダー、ゴブリンファイター、ゴブリンナイトってヤツもいたか。種族がちょい違いそうだから、ハイゴブリンってやつかなぁ。
ガシュ!
え? と思っている間に、思い切り袈裟斬りで身体がずれ墜ちていくデカゴブリン。
こっちは「風裂」で幾つかのゴブリンの喉を刮裂いた。ミスハルの「きりさき」も決まる。おお……少し離れていた一体は宇城&八頭ペアが仕留めつつあるようだ。
ボスを倒しても……宝箱は出現しなかった。階層が浅いと出てこないことも多いらしい。残念。そこそこ大きめの魔石はドロップしてたので慎重に回収する。
奥へ続く扉の奥に下へ続く階段。十二階層への続いている。
その途中、踊り場の様な場所に出現した転移陣。そこに入ると……なんの問題も無く、療養所地下に出現した。良かった。座標設定をミスって無くて。
これで、次は十二階層からの探索スタートになるということですね。
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