0429:臭いは元から
「やはり、この臭いは……うーん。どうにか出来ないですかね?」
「昔から迷宮はこういう臭いだからな……」
やはり、臭い。試行パーティで最初に出た話題、問題がこれだ。何の臭いだろうか? 生き物の臭いでは……ない。すえた臭いでもない。つんとくる様な刺激臭でもないのだ。ただ、どう嗅いでも爽快な気分にはならない。
何かが腐っている……俺の知っている肉ではない、何か。それこそ、精神が腐るとこんな臭いがする……とでも言われれば納得出来るような。
これは……どうにか出来るんだろうか? 風属性の術で周囲の空気を散らしたところで、ずっとこの臭いなのだ。動かしただけ、臭いが鼻につく。
「どうにか出来ないんでしょうかね」
「判らん……ああ、この臭いな、迷宮の外に出ると一切しないんだ。それこそ、腐乱した毒の沼地、土地に探索なんか行くと、その臭いが体や髪、鎧や荷物に染みついてしまって帰って来てもしばらく臭いままじゃないか」
いえ、そういう現場へ探索とか行ったこと無いので……。まあでも判ります。生鮮食品売り場専属の時の辛さですね。
「それが無い。迷宮の中にいるときだけ臭い。ああ、返り血を浴びすぎて、血臭が消えないなんていうことは良くあったな。だが、迷宮の臭いは外の世界に引きずらないのだ」
不思議なことがあるものだ……。臭いっていうのは確か、小さな粒。粒子だ。それが鼻から入り、臭覚の感覚器官を刺激して、それを脳に送る。つまり、臭いということは、埃の様にその臭い粒子が一帯を漂っているということになる。なので、普通であればそれを散らしてしまえば濃度が薄まり、臭くなくなるのだ。
ああ、そうか……フィルターか。ガスマスクとか……活性炭だっけかな? 水の濾過と同じ仕組みで、空気をフィルタリングしてやればいいんだな。臭いだけで息は出来ている。普通に酸素が含まれているということだ。臭いだけで。
そんなイメージで……自分の周り五メートルくらいの半円に細かい目の細かい布で覆い、その布に浄化の術を纏わせて、空気は通すけど、臭いの粒子までは通さない……というイメージを定着させる。光属性……そういう意味で汎用性高いな。呪いから悪臭まで対応しちゃうのか。
ん?
というか、この臭い……もしかして呪いなんじゃないか? 迷宮という異空間に込められた呪いというか。そうなると、臭いとは仕組みが別系統という可能性もあるか。
ということで「浄化」をバリアーの様にする術を使ってみたが、あまり効果が無い。それならば。と。「浄化」ではなくて、一般的な「解呪」の術を今の範囲内で使用してみる。
「あ、あれ? 臭いが……消えた?」
「お、おお……」
「本当です! 消えました!」
「ああ……やっとしゃべれる!」
やっぱりそうか。宇城、八頭の二人は第六層に入ってから何一つ話さなくなっていた。それは話すと口から臭いが入って来る感じがして辛かったからだと思う。というか、俺がそんな感じだったから。
「杜谷さんはやっぱりスゴイ人だったのですね……これは」
「奥さんが多いっていうのはやはり、理由があるということですか~」
八頭さん……は何か違ったフィルターで俺を見ている気がするよ。まあでも本気で臭くない。と思う。凄いな、この呪文。今までこういう使い方をしていなかったのかな。
光属性の魔術自体が謎が多いって言ってたか。オーベさんが。MPの消費が……少々激しいのか。こんな風に常時使用は厳しいのかもしれない。
「モリヤ、すごい。気にしない身体になったと思っていたが……やっぱり、臭かった」
我が本妻様からもお褒めの言葉をいただいた。
しかし問題は、この呪文を使えるのが俺だけということか……。明確に光属性の術を使用出来る人間がいないからなぁ……。
そこら辺はとりあえず、戻ってから専門家達に相談しよう。そうしよう。
しばらく何一つ問題無く迷宮を進んだ。オベニス迷宮の第六階層は第五層半分と同じく、石の迷宮だ。純粋に石造りの迷路と、広間と呼ばれている部屋で構成されている。
広間には大抵、敵がいるのだが、ほとんど、イリス様が一蹴してしまう。まあ、この辺りで襲いかかってくる魔物であれば、このパーティで一番戦闘力に乏しい八頭さんソロでも問題無く倒せるだろう。それこそまだ、一人で囲まれてもなんとかなるだろうレベルだ。
あっという間に第七階層に降りて、しばらく通路を歩くと、かなり先まで見通せる広間が見つかった。中にはゴブリンが数匹。あ。俺がゴブリンと呼んでいる魔物は
そのゴブリンもイリス様にあっという間に倒されてしまう。ヤツラがパーティを組んでるとか組んでいないとかその辺がまったく判らなかった。
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