0423:宇城美帆里①
華麗剣法、華法、道場剣術……とはよく言ったモノだ。そもそも、薙刀も剣道と同じく、明治初期の撃剣興業から派生した風習や仕来りが大きく残っている。奇声を上げて打ち込む……等という行為は、判りにくかった興業を「判りやすくする為に」行われ始めたに過ぎない。
そもそも、これから攻撃するよ~と声を挙げて、当たる瞬間、篭手取った! と「俺、当てた当てた!」と部位を叫ぶ必要が無いのだから。
「なぎなた」は平和な時代の競技として考えれば素晴らしいと思っている。競技者として何の不満も無い。格闘系のスポーツと考えてみても、肉体的な強化だけでなく、確実に精神修養にもなる。さらに歴史ある武道としての一面も併せ持っているのは素晴らしい。だが。そこまでだ。
そもそも、薙刀という武道はかなり特定の環境や人によって伝えられてきた。純然たる武道としての薙刀術と、競技としてのなぎなた……は、剣術と剣道のそれよりも、乖離していると言わざるを得ない。そもそも、なぎなたの竹刀に当たる「競技用なぎなた」と本身の付いた薙刀では……物理的に武器としての根本的な仕様が異なっている。
先端にある刀身の重さによって、振り回すと遠心力が発生し、それを利用して敵を斬り倒す事が出来る。それが顕著すぎるのだ。技量が必要で、慣れないと自分を傷付けたり、味方に攻撃を当ててしまうこともあるだろう。
戦場では槍で戦わされていたし、そういう細かいコトに気付ける環境では無かったので判らなかったが。
その上。あまり役に立たないことがもうひとつある。歩法だ。特に剣道部が苦戦している。すり足が基本と誰が決めたのだろうか。
実戦では……この体育館の様な板張り床でない場所で戦うのが当たり前だ。正直、足場がしっかりしている、いない、滑る滑らない。凸凹している、砂場、岩場。湿地、沼地。それを踏まえた立ち振る舞いが重要になってくる。すり足中心の歩法は実戦的ではないのだ。
そう考えると薙刀はまだ、マシだ。すり足からの踏み込みが非常に有効で、
送り足から、歩み、開き、踏みかえ等、攻撃時の身体の入れ方も多彩なのだから。ある程度慣れている。
「ウシロ! 考えすぎだ」
あっさりと首に竹の刃が当てられる。この訓練用の薙刀は、木と竹で作られた競技用の薙刀と変わらない感じに仕上がっている。さらに重さも調整してあって、本身と同じバランスにしあがっているのだ。
それにしても……この……イリス様という女性は……どういう人なのだろう? この領の領主、最高責任者でありながら、限りなく強い。武力というコトであれば、この国で最強だそうだ。
実際、武芸百般とはこういうことを言うのだろうか。素手に始まり、片手剣、両手剣、片手棍、両手棍、さらに槍、難しいハズの薙刀、日本刀も使いこなしている。全てにおいて……センスがいいのだ。私レベルの仕掛けでは、ほぼ勘のみで捌かれてしまう。
私レベル……と言ったが、正直、私の知る限り、私よりも強い薙刀使いは元の世界に二人しかいなかった。一人……お師匠さんは去年亡くなってしまったため、今はもうその直弟子である師範代だけだ。その二人に……何度か、なぎなたではなく、薙刀を教わる機会があった。その時感じた違和感、違いが露骨に稽古に反映されている。
このままでは戦えない。今のままでは必ず競技が混ざってしまう。迷宮で襲いかかってくる魔物は全て本気なのだ。それを相手にしているうちに、いつか、ミスが出てくる。自分の中でなんとかしなければという気ばかりが空回りする。
「不安か?」
「は、はい」
身長は私よりも大きい。十センチくらいだろうか? だが。体つきは私と変わらない。正直、そこまで大きく見えない。にも関わらず底知れない力を振るう。特にこうして相対していると、凄まじく大きく感じてくる。一瞬、とんでもない巨人に思えた……と誰かが言っていたのも判る気がする。
「お前のやってきた訓練は……無駄にはならない。構えや振りの鋭さにそれが表れている。あとは、自分の体に、これまでと違う場所で武器を振るう事を言い聞かせなければ、いけないだけだ。当てれば良かった振りが、振り抜かなければ断てないことを理解させろ。踏み込む足の力が、両方の足に分かれる様になれ。目指す最終地点は一緒なのだ。そこに辿り着ければ、足の運びに正解はない」
……なぜ、そこまで判ってしまうのだろう? そんなに自分の態度に、悩みが表れていたのだろうか? 全て言い当てられてしまった自分に、ちょっと憤りを感じつつ、もう一度、薙刀を構える。
過程はどうでもいい。そう。最終的にこの薙刀の刃先が、敵を断てばいいのだ。どんなに美しくない挙動でも、ドタバタと移動しても。命を仕留めた者勝ちなのだ。
八相からの袈裟振り下ろし。これまでに何千回、何万回とやってきた素振りの通りに。もしも目の前に敵が居たとしても関係なく振り抜くつもりで刀刃が走る。振り下ろしからひねって再度振上げて逆袈裟。
「ああ。今のは良いな。初めて……その薙刀の先にお前の未来を賭けたのが見えた」
「そう……ですか? なら、続けてお願いします」
「うむ。忘れぬうちに振りたいよな」
この日初めて。自分の習熟した武道が、「なぎなた」から「薙刀」に変わった気がした。
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