0421:モールマリア軍

 モールマリア王国とイガヌリオ連邦の争いは、完全にイガヌリオ連邦がやり込まれていた。既に国境はかなり連邦側に移動している。正直、モールマリア軍は強かった。これにバガントリガンのフルメンバーで追加されていたかと思うと、ちょっとうんざりする。


 あ。我が国であるメールミア王国の領主騎士団の方々は……とっくの昔にケチョンケチョンに粉砕されて、損傷率約60%以上という、既に軍隊の形を保てないレベルで敗北し、這々の体で自国に退却している。


 モールマリア軍は、メールミア軍撤退の間隙を狙って、絶妙なタイミングで行われた様だ。


「まあねぇ……直前に見た戦争が……ビジュリア潘国だったからなぁ。あの頭の悪い侵攻を経験しているだけに、モールマリアの進軍はお見事としか言いようがないですね」


「そうじゃな……「戦乙女」というとんでもない切り札を持ちながら、それを有効に使えなかったからのう。歴史に残る愚かさじゃろうな」


「ですね。戦争脳的に、豚以下でした。ヤツラ」


 かなり高い崖の上から見下ろせば、谷底の隘路での戦いが繰り広げられている。攻め寄せるモールマリア軍は騎馬隊が軍馬乱れず突っ込んで、そこに強者を中心とした歩兵隊……いや、戦士隊とでも言おうか。が、波の様に押し寄せる。


 多分、数の上ではイガヌリオが多かったのでは無いだろうか? にも関わらず、あっという間に劣勢となっている。


 大きな魔術……それこそ、オーベさんが使うような数百人を一瞬で絡め取る魔術(術士が合同で術を使えば、それなりの威力が見込めるらしい)を使わずに、純粋な武力でそれを行っている。地形を上手く利用して……この中途半端に幾つかの道が合流する谷底の道。ここでは大人数を生かした戦闘は望めない。


「これ……多分、釣りましたね」


「釣り……ですか?」


「ミスハルは、なんで、こんな場所にイガヌリオがいると思う?」


「……移動中だったとか?」


「これは多分、モールマリアの軍が少数で奇襲を仕掛けて、わざと追われた……とかじゃないかな?」


「ああ……それならここまで突っ込んでしまうのも判ります」


 敵に奇襲をかけて、敵を釣り出し、味方伏兵の待つ指定の場所まで連れてくる。そこで伏兵が奇襲がしかける。まあ、寡兵で大軍を相手にする場合、良くあるというか当たり前の戦術だ。釣り野伏せだっけかな? 敵を釣るにはそこそこの技術や統率力が必要だと思うけど……うーん。この世界の敵の場合、あまり裏を探ったりしないしなぁ……多分。簡単なのかな。


「まあ、正直、ここでは戦術と言うほどのモノでも無いと思うけど……それでもこれまで見てきた戦争と比べれば雲泥の差だね」


「そうじゃな。だが、我が主の言う、こうして作戦を駆使する戦いの方が珍しいと思った方が良いぞ?」


「本当にそうなんです?」


「ああ。戦場で騎士は武力にしか着いてこない。この手の策を駆使した戦い方は、騎士らしく無いと言われるな。むしろ一騎打ちの方が正正堂堂としていて良いとも言われたりするからな」


「こんな……勝てば良かろうっていう世の中で、ですか?」


「そうじゃな。勝てば良かろうなのだ。不意打ちしようが、策ではめようが、毒を使おうが、勝ってしまえば……その後に事実を歪めることなど、どの国家もやっておる。にも関わらず、戦場などでは騎士としてのプライドを口にする。歪んでおるな」


 勝負は既に着いた。モールマリアの圧勝だ。イガヌリオの軍勢は……なんとかして逃げだそうと必死だ。アレも、多分、もう少しすれば殲滅されてしまうだろう。ここに大軍で押し寄せ、さらに後ろを敵に退路を塞がれた時点でもう、詰みだ。


「この軍が……そして策略がうちの国やオベニス領に伸びてこないことを祈るしか無いのでしょうかね?」


「ああ、そうじゃな。今は無い。だが……うむ。我が主。ここで少々潰しておくか?」


「おや。奇遇ですね。オーベさん。さすが我が妻。考えることは一緒ですか」


「では……まずは私が兵が集中している辺りを眠らせていきましょう」


 お。なんだ。みんな同じこと考えてたのか。


 ミスハルもノリノリだ。うん、ここで痛めつけたところで大した数では無いんだけど。そもそもイガヌリオはモールマリアにズタボロ負けだし。でも、やらないよりは良いかな。


 しばらくすると、谷底から聴こえていた戦闘音が消えた。そもそもだ。この辺……谷の上に斥候が出ていない時点でなぁ……。まあ、いいか。


「では……寝ているのであれば、そのまま目覚めなくしてやろう。丁度良い呪文がある。まず、生きている者は毒で倒れる。その後、三日かからずに死に、七日目で急速に腐る。武器防具も腐る。だが、大地に被害はない。軍隊を率いていたら、一番イヤなタイプの結果になるのう」


「……凄くイヤな感じの呪文ですね……それ」


「うむ。イヤな感じじゃ。腐乱するのが早くなるので臭うしな。だからあまり使わん。だが、魔力消費も少ない上に、効果範囲は広い。我々はこのまま、ここから即帰還じゃろう? 使ったら側にいたくない」


「ええ。そうですね。すぐ出ます。臭かろうが、なんだろうが、武器防具を使い物にならなくするのは良い案です。人的資材と兵站を直撃するってヤツですね」


「いきます!」


 ミスハルの術が起動した。範囲ひろっ! 見渡す限り……か? 今の今まで谷に響いていた合戦の音が、消えた。


 そして。


 オーベさんの足元に魔術紋が描かれる。召喚術はほぼ、こういった魔術紋を覚えて、自分で描けるようになり、さらに書き足したり削ったりして、自分で工夫出来ないといけないらしい。大変。でないと、今みたいに魔力のみで門=紋を描くなんて到底無理だそうだ。


「腐蝕の王よ……形ある物は全て、壊れ、歪み、錆び、腐り、粉々になって地に帰る。我は腐蝕する場を示す者なり。既に契約は為されている。腐乱の間ソディシアエン!」









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