0420:ミルベニ調査旅④

「ミルベニ様!」


 ああ、見たことのある旅装姿のノルドが無防備に近づいてきた。他の狩人達は未だに全員半身のままだ。それは当然だろう。帝国の街があんな状態で、旅装とはいえ森域にヒームが一人。おかしいと思わない方がおかしい。


「様は良いって言ったのに……オベニスの情報部のノルドはみんな腰が低すぎるよ」


「いえ、誰にでもというわけではありません。それにしても非常に助かりました。困っていたのです。帰るための方策が思いつかず」


「ああ、それは確かに。力になれるでしょう。えーっと……確か……ビレイン殿でしたか」


「ビレインで結構です。ミルベニ様」


「なら、自分もミルベニで」


「いえ。それはなりません。お館様から、ミルベニ様は今後、情報部を統括するお役目を担う方だと聞かされております」


「……え? そ、そうなんです?」


「はい。多分ですが……ミルベニ様は今回、騎馬民族の調査を命ぜられていますよね?」


「ええ。一番の目的はそれだったハズです」


「私がこの周辺を探索しながら情報収集したところによると、かの騎馬民族、通称「ジェナン」と呼ばれておりますが、アレはヤバイです。なんでも、圧倒的な武力で全てを押し潰しているとか。既に幾つかの大きな森域すら……潰されたようです」


「え? 森が?」


「はい。森でノルドが……それこそ、狩人が数百人もいるような大きな集落が幾つもある森域、クラエ大森域が蹂躙されたそうです」


「そんなことが? 本当に?」


「はい、私も信じられませんでしたが……実は西ホムラの集落に……さらに東の大森域、メルゲィルズ大森域から伝令として辿り付いた狩人が数人いるのです」


「それは本当ですか!」


 大きな声を出してしまった。視線が私たちに集まる。


「あ。ああ、申し訳ありません、少々お待ちください。説明をしてまいります」


 ビレインが囲んでいる西ホムラの狩人の元へ戻り、話をしている。彼らもまだ、帝国の情報はそれほど手に入れていないようだ。それならば、まあ、ある程度の恩は売れるか。

 

 西ホムラの集落はそれほど大きく無かった。一応と言いながら、狩人に囲まれて進む。見ず知らずのヒームだ。無理も無かろう。ここの生活は……まあ、一般的なノルドと思って良いだろう。何度か訪れた事のある所とそう変わらない。


「ということで、帝国に住んでいる者の少なくとも半分以上は、吸血鬼の眷属と化している。特に自分が調べてきた街は全滅だった。さらに、この森へも迫っている眷属も居たようだが、結界に阻まれて中へは入れなかったようだ。見かけた者の中には元ノルドもいた。帝国側へ出るのは危険だと言えるでしょう」


「そうか……」


 西ホムラの長の表情は非常に暗い。森は結界に守られているが、帝国の街との交易はそれなりに行われていたそうだ。そのため、何人かのノルドが街に行ったまま帰ってきていないという。


「さらに、迎えに行った者の中には長の孫もいたらしく……」


「それは……」


 集落で一番大きい屋敷。応接間というか会議室の様な広間に、この集落の主立った者が集まっているようだ。


「オベニスのミルベニ殿。非常に重要かつ、正確であろう情報をありがたく思う。吸血鬼の眷属。そう言われれば、古の文献などで読んだ覚えがあるが、我々ではそれとこれが結びつかなかった。今後もイタズラに被害を増やしてしまうところだった」


「いえ。我が領の者が非常にお世話になった様です。これくらいのことは当然でしょう。下手すれば、彼も眷属となっていた可能性が高い。この集落に寄らせて頂けてよかった」


「そう言っていただけるとありがたい」


 さあ、そしてここからだ。


「長。今後、どう致しますか?」


「ああ……東からは騎馬民族。そして西の帝国は吸血鬼の支配地。森から出ることは不可能だな」


「それだけで……済めばいいのですが……」


「どういうことですかな?」


「吸血鬼が眷属を生み出す。それはまあ、普通のことです。様々な書物にも事実は書き留められております。が。一国全ての住民を眷属化するというのは……あまり……聞いたことがありません」


「確かに」


「そうなると、この吸血鬼はとんでもない力を持っているということになります。私が知っている限りで最も強力な吸血鬼。それは……魔界九大伯爵の一人、「嫉妬の王」マルドミラン・ゴーリーク」


「な。……なんと……」


 ザワつく。知っているのは……半数くらいか。


「ソロモン王。そしてその指輪。使役せし九大悪魔。世界を統べし王の使い魔……だったか。おとぎ話ではないですか」


「ええ。おとぎ話です。正直……黒幕がマルドミランかどうかは判りません。私自身、帝都に近づいていませんし。ですが、そのレベルで無ければ……一国を支配することは不可能ではないかと思われます。つまりは、帝国には我々の敵、しかも強敵が巣くっているということになります。そしてそのレベルになれば……ノルドの結界を打ち破る事も容易いのでは? 遥か東で森が破れたと聞きました」


「ああ。そうですな……。後で、メルゲィル大森域から連絡に来た者を連れてきましょう。つまりは。ノルドの結界はそこまで完璧では無い。実際、魔物の大氾濫に巻き込まれて滅んだ集落もあるし、ヒームの傭兵団に襲撃されたこともある。森域全体が潰された……という事も認めざるを得ない事実の様ですからな」

 

 つまりは、ノルドお得意の時間を経過させてしまえば大抵のことはうやむやになる作戦が通用しないのだ。










-----------------------

おすすめレビューに★を三ついただけるのが活力になります!

ありがとうございます!

さらに、おすすめレビューにお薦めの言葉、知らない誰かが本作を読みたくなる言葉を記入して下さると! 編集者目線で! マネージャー目線で! 

この小説が売れるかどうかは貴方の言葉にかかっていると思って!

やる気ゲージが上がります。お願いします!


■最新宣伝です。

31歳から始める能力付与者[1]

-マッサージで天下は取れるのか? 取れそうだ-

第一巻絶讃発売中であります。


カクヨム近況ノートに紹介画像があります。


詳しくは自分のX(旧Twitter)にリンクがございます。


よろしくお願いします。


■宣伝です。原作を担当させていただいております。

無料です。よろしくお願い致します。


[勇者妻は18才 第1話] | [ゆとり]

#Kindleインディーズマンガ で公開しました。

Amazonで今すぐ無料で読もう!⇒

「直リンしちゃいけないんですってググってね」


そして、自分は手伝った程度ですが、こちらも。


[メロメロな彼女 第1話] | [ゆとり]

#Kindleインディーズマンガ で公開しました。

Amazonで今すぐ無料で読もう!⇒

「直リンしちゃいけないんですってぐぐってね


単行本一巻、二巻もよろしくお願いします。

ブースで売ってます。

「直リンしちゃいけないんですってぐぐってね」




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る