0419:ミルベニ調査旅③

「ちい……ヤツラのしつこさを甘く見てたな。いや……純粋に国民の大半が既に吸血鬼の眷属っていうのは……どういう……情報は既に持って帰ってもらったからな。対策は任せよう……結構重大だと思うけど」


 ミルベニは数日前に、この方面を探索してたオベニス情報部のノルドと偶然遭遇していた。吸血鬼の眷属とは知らないまま、街へ潜入調査に入ろうとしていた所を気がつき、街に入る前に止めたのだ。


 とりあえず、この被害がどれほどのモノか詳細は分からない。国境付近、さらに内陸部の半分程度は既に、支配下となっているのを確認した。


 とにかくあらゆる意味で、危険であることを説明し、自分の入手していた情報をオベニスに持ち帰ってもらうことにした。自分はそのまま、もう少し足を伸ばし、イロイロと調べるつもりでいた。


 特に、この国の東のホムラ森域、その森を越えた辺りで噂になっているという騎馬民族だかの国についても調べたかった。


「折角ここまで来たんだから、成果は多い方が良いわけで……ここで引き返すのもなぁ……」


(既にホムラ森域のそばまで来ている……。ああ、そういえば……自分よりも遙か先にホムラ森域のガギルの鉱山へ使者が向かっているんだよな。確か。ちゃんと辿り着けたのだろうか? えっと……確か、ガギルの「約束の地」の口伝伝承について知っていることを教えて欲しいっていう任務。途中の国がほとんど吸血鬼の眷属状態ってどんだけ面倒だったか判らないなぁ……)


 使者は確かに、急ぎでこの国を抜けているはずだ。そのため、ノルドであれば森から森へ伝って行く。多分、各都市がどのような状況かも確認出来ずに通過していると思う。


 とりあえず、ミルベニはその辺の摺り合わせをしたいと思っていた。帰り、特に大切な情報の書いてある返信の書簡を持って帰るのは重要な任務だ。助けられるのであれば助けたい。


(それにしても……厄介だろうな……この眷属は)


 自分がメインで使うのは召喚術だ。このタイプの術であれば、吸血鬼とその眷属に対して有効な術も多い。召喚術は、術を増やすのに非常に苦労する。


①古代の文献、魔道書などを発見する。

②熟読、研究し、自分が扱えるかを己に問う。

③使えそうだと判明したら、まずは魔術紋を描く。正確に描けるようになるまで何度も描く。

④フリーハンドで同じモノが描ける様になったらそれを頭の中で描く。

⑤発動の兆しがあるならそれを元に描ける様になった魔術紋を改造、自分に合わせて改良する。

⑥調整を繰り返し、自分にとって使いやすい魔力量、威力を見つける。


 こんな感じで術が使える様になる頃には、魔道書に書いてあった内容や、当初予定していた術とは全く違うモノになってしまう事も多い。


 苦労して使える様になった術が、最終的にイマイチということも多いのだ。


 オーベ師の様にハイノルドという悠久の時間を研究に費やせる種族にも、敬遠される術属性なのだ。


 幸い自分には才能があった。魔術紋の改良の際、自分が上手く使うには何処を弄れば良いのか直感で解るのだ。それは召喚術を使う者にとって非常に有利で自分が思い上がる原因にもなった。


 まあ、その話はいいか。


 とにかく、この眷属達は厄介だ。噛まれる可能性がある以上、接近戦は避けたい。多分、鈍器で撲殺すればそれほど難しくなく殺せるはずだ。だが、近づけない。


 なので術で対応……になるのだが、火属性、しかもかなり特殊で強力な術で無いと……燃えた相手がこちらに押し寄せてくる。つまり、特殊な火を扱う呪文が使えなければ対処しづらいのだ。

 

 その点、俺は異界の炎を召喚する術が使えるので、彼らを内側から燃やし尽くせる。さらに、その炎は広範囲に広がっていく様にもできる。さすがの眷属もこれには手も足も出なかったようだ。


 なので「私」は問題無い。この国を通過するくらいは余裕で大丈夫だろう。だが。情報部のノルドは違う。彼らは基本、風属性の術しか使えないハズだ。これだけしつこく絡まれる所をみると、一度目立ってしまうと、確実に追ってくるような習性があるらしい。匂い……か。生命反応か。


 数日掛けて遠回りし、なんとかホムラ森域に潜入した。森の中は……静かだった。それまで蠢いていた気配が一斉に消えた。ああ、これはアレか。ノルドの結界によるものか。吸血鬼の眷属にも効果があるとは思わなかった。


 話に聞いていた、一番近い西の集落に向かっていると、案の定、ノルドの狩人が現れた。既に弓が引かれている。


「私はメールミア王国、オベニスから来た者だ。最近、この森のガギルに書簡を届けるために「私の仲間のノルド」がやってこなかったか? 何か迷惑や危害を加えるつもりはない。そのノルドと連絡を付けたいのだ。この森の西側のオイゲン・ジナス帝国がおかしな事になっている。その情報を伝えるために、この森に入り込んだ」


「……」


 いつの間にか結構な数に囲まれている様だ。しばらく、その場で待たされた。反応が無い=殺そうとされていないということは、何か話し合いなり連絡が行われている証拠だと思い、ジッとしている。


 森でノルドに逆らうなどあり得ない。相手が狩人一人であればどうにかなるかもしれないが、集落の狩人全部を相手にするのは、さすがにしんどい。







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