0418:黒皇竜

 一段落付いたということでアッサリと帰路に……着けなかった。


「ガギルの水源地の毒と呪い。我が主の光属性の術でしばらくは大丈夫じゃが、そのうち効果は薄れる。根源をどうにかしなければ」


「あ」


 ごめん……オブルイット鉱山のみんな……すっかり忘れてたや。草が。草が悪いんや。


「どう……します?」


「多分じゃが……慎重に魔力を辿れば判る。オブルイット山脈付近の地下……のハズじゃ」


 オブルイット森域の北は山脈になっている。地図を見せてもらったけど、結構長い山脈だったはずだ。


「んじゃ、魔力で水脈を辿る……みたいな感じですか?」


「それが一番じゃろ。ミスハルはその辺得意じゃからな」


「判りました。オーベ師」


「微弱じゃが……呪いの痕跡が残っておるはずじゃ」


「はい……ああ。確かに。では行きます」


 ミスハルの案内で森を移動すること約三日。周りの風景は若干、荒れ地……というか岩場が多くなってきている。山道に入り始めたのだろう。しばらく登って行くと、それほど大きく無い、入口が半分崩れた洞窟が見つかった。


「多分……ここから地底の水源? に繋がっているハズです。地底湖と言われましたか?」


「ああ、そうじゃな……さすがじゃな。私にも呪いの源、魔力の根源の痕跡は判ったが……そこへ行く経路は範囲感知の優れた者でなければこんな簡単には見つけられん」


 そうなのか。凄いな、ミスハル。


「行きましょう……人が通れるだけの隙間……通路はあるかと思われます」

「了解」


 緩やかな傾斜を下へ降りていく。地底湖があるにしてはそこまで湿っていない。逆に土はさらさらなままだ。そこそこ複雑な迷路の様な通路を進むと……目の前に広がったのはオーベさんの言った通り、地底湖だった。


「このちょっと嫌な臭いは……ヤバイ臭いですかね?」


「そうじゃな……ここの空気を長時間吸引していると毒に犯されるだろうな」


「毒……結界……これで防げますかね。あ。清涼感あるな」


 光属性の「浄化」を結界の様に自分たちの周りに範囲発動させる。


「ありますね」


「そうか。物理的な結界になっているだけではないのだな。光属性の結界は、その中の空気を清浄して、浄化するのか……どういう仕組みだ?」


「そうみたいですね。オーベさんに判らないものが俺に判るわけないですよ。まあ、爽快だからいいですかね。で。どうすれば良いですか?」


 もう対処方法もオーベさん頼みだ。


「多分だが……この湖の底に大型の魔物が力尽きているはずじゃ。我が主よ、あの非常識な収納を使えばどうにかならんかの」


「あーそうです……ね。距離的に……近づければいいんですが……」


 お。あった。これは……。


「黒皇竜……ってヤツかな」


 湖の底に……朽ち落ちた巨大な死骸が横たわっている。


名前:黒皇竜

種族:竜族


 種族……しか判らないのか。うちの人くらいしかちゃんと鑑定してなかったから気付かなかったんだけど。多分だけど、自分よりも強い、生命体として強力な相手は鑑定しにくい。簡易鑑定では情報が曖昧で少なくなるし、鑑定の時間もかかる。鑑定訓練とかした方がいいのかなぁ。


「! 黒皇竜……本当か……それは力尽きたという事か? 死んでいるのだからな……それはそうか。古代五竜が死ぬ? いや、かの生物は不老不死だったハズでは……。殺された、討伐された……ということか?」


「多分。収納できそう……ですね。かなり大きいですけど……大丈夫です」


 限度はあるが、これくらいの大きさであればいけるようだ。


 収納は自分の周囲の物を謎空間(異次元?)に「収納出来る」わけだが、魔力が増えた今ではどれだけの量、大きさが入るのか判らなくなっているし、さらに魔力制御が上がった現在では自分の感知範囲内であればイロイロと理解出来る。


 まあ、俺が感知出来るのは、敵意のある者とか魔物とか動物とかに限定されてるし、そもそも生きていたら収納出来ない。つまり、今回の魔力を帯びている死骸……というもの凄い限定条件だが、ある意味唯一、収納可能かどうかが判るというわけだ。


 ということでまずは、湖の底へ向かわなければならない。


「水は……」


「それはどうにかしよう」


 オーベさんが、水の術? を使用する。ぐぐぐ……と、湖の水が……モーゼの十戒の様に割れて……道が生まれる。底まで続く坂道。水の術を使うとこんなことも出来るのか……。


「行って戻ってくるくらいは問題無いじゃろう」


 滑る足元に注意しながら、なるべく急いで湖の底へ。


 目の前に横たわる巨体。全長……二十メートルくらいだろうか? 水竜系のドラゴン……と言えば良いのだろうか? えっと。竜って、立ってる感じのヤツと四つ足のヤツがいると思うんだけど(三つ首竜は四つ足系)、こいつはヒレが着いてる。四つ足……しかも水死体だと思うんだけど、腐乱していなかった。


「綺麗なものですね……」


「ああ、竜は膨大な魔力を持つ魔物だからのう……。魔力の残滓のせいで、そう簡単には腐りはしない。そうじゃのう……数百年もすればさすがに腐り、砕け、流されていくか」


 ああ、そういう……魔力が……死体になっても細胞なんかを守るって事なんだろうか?


「……これは頭を貫いたか」


 頭が……横から完全に撃ち抜かれていた。どういう技なのだろうか?


「黒皇竜は……伝説の古代五竜のうちの一体じゃ。黒皇竜、白光竜、火炎赤竜、氷河蒼竜、大地黄竜。、どれも古の昔より生き続けていて、さらに、今もどこかに居ると言われている。そのうちの一体が……こんな所で死んでいたとは」


「そもそも……なんでここに死骸が沈んでいたのか……」


「ここは多分、黒皇竜の住処……じゃったんだろうとは思う。さっき水の術を使ったことで判ったが、この地底湖、底の方で別の場所に繋がっている様だ。水の中を通れば行き来が可能じゃ。つまり。住処にいた黒皇竜は、訪れた誰かに瞬殺された」


「瞬殺ですか?」


「ああ……ここまで綺麗な……戦闘による余計な傷を負っていない竜の死骸など見たことがない。ほぼ戦っていないと見て良いようだ」


「不意打ちでピンポイントで脳を撃ち抜いたと?」


「そうじゃな。それしか考えられんだろう?」


「……それ……オーベさんやイリス様にできますか?」


 オーベさんが首を横に振る。


「我が君であれば首を落とすじゃろうな……。だが戦士一人ではどうにもならん。特にここでは水中に逃げられでもしたらどうにもならん。そもそも……普通の者ではヤツラが自然に張り続けている結界を破ることができんよ」


「オーベさんは?」


「今なら、勝てるやもしれん。だが、魔術による攻撃でボロボロにしていいのであれば……じゃな。細切れになったり、傷を付けたり、それ以上にバラバラにしてしまうだろうが」


「ミスハルは?」


「無理でしょう。私の風に……竜を貫ける様な、そこまでの攻撃力はありません」


 じゃあ、無理だなぁ。


「まあ、そもそもですね……やったのが冒険者や権力者なのであれば。これだけ綺麗な状態のドラゴン素材。見逃しませんよね。何が目的なんでしょう? 自分より強いヤツに会いに来た? とか?」


「水没してしまったので素材は見逃すしかなかった……ということも有り得るのでは?」


「確かに」


 ああでも、竜を一撃で倒せる、それだけの実力のあるヤツが、水中の死骸を回収出来ないなんてことが有り得るだろうか?


「まあ、良いだろう。とりあえず、この竜はみやげとしてガギル達に与えれば喜んで加工してくれよう、術で毒も抜けるしな」


「そうですね。この森のガギルを弱らせて何か得があったとも思えないですし、今ココでこれ以上考えても仕方ないですね。証拠も何も残っていなそうだし」


 黒皇竜の死骸を収納に納めて、俺達は早々にオベニスに戻ることにした。







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