0417:新婚さんいらっしゃ
「戦乙女」たちの療養所。その食堂でもの凄い勢いで食事をしているイリス。
その周りには訓練に参加していたメンバーが座っていた。
(スゴイ食べてる……)
(単純に量が……)
その物量に圧倒されながらも、自分たちも食事を口に運ぶ。一流のアスリートである以上、どんなに身体が悲鳴を上げていても、食事を食べるのも大切だと反射的に動けるくらいには周知している。
「んーそこまで悲観することはないと思うぞ? お前達は強い。それは確かだ。だが、それよりも私の方が……いや現時点では私たちの方が強いというだけだ。しかも、その強さも……ほとんどモリヤのおかげだからな。別に威張れるものではな……い……」
もごもご。
「モリヤによってその妻は強くなった。詳しくは言えんが」
誓約しているのは、会長の宇城と八頭のみである。実はモリヤが鍵となっていることすら極秘事項だった。
ただ、まあ、ここにいるメンバーはそれ以前に界渡りとして行き場が無い上に、関係は深い。大丈夫だろうという直感からきた、実は深い洞察力から生まれた言葉なのだが、イリス本人がその手の事を論理的には理解していない。
「あの……だから結婚したんですか?」
「ん?」
「み、みなさん、結婚してるんですよね? あの、杜谷さん……と?」
薙刀部の千野千景が誰もが確認したかった事を本人にぶち込む。
「おう。そうだな……うーん、だから結婚……じゃないな。強くなったのも……そうだが。モリヤが色々と気を使ってくれるのも大きい。で。気がついたら、離れているととても苦しく……寂しい気持ちになってな。まあ、そもそも、誰かに会えなくて胸がこう、キューンと辛くなることを「寂しい」と言うなんて知らなかったしな。恥ずかしながら、この歳になるまで、そんな気持ちになったことは無かった。なので、結婚した。他の妻達も……多分、似たようなものだと思うぞ」
「まあ! まあまあまあ! そんな素敵な展開が?」
「ああ。そもそもだな。モリヤは優しすぎる。お前達の世界の男はみんな、ああなのか?」
「……うーん。人によりますかね……」
と、疑問形で周囲を見渡すが、賛同する者は大していない。ここにいる女子は……腐女子とはまた正反対に、恋愛中心のラブラブ少女漫画青春を捨てた者達なのだ。
幼い頃に決められた許嫁がいた者はいても、現役で彼氏がいる者は……いなかった。女子校としての昔からの規範が、男女交際を禁じ、全国区の運動系部活ではそれが未だに機能しているのだ。
ちなみにルックス的に、一番美人だと言われている宇城はその規範を忠実に守り、当然の様に彼氏居ない歴=年齢である。祖父の代で決定された婚約者はいたのだが、家と家の関係が悪化し数年前に破棄されている。
「あの……イリス様? この世界って好き合ってる人とでも、手を握ったりとかしないんですよね?」
「ああ、しないな。というか、大事にしたいと思えば思うほど、触らないように気をつける」
「それは……」
「……」
沈黙。こうして実際に会話をすることで、この世界と自分たちの世界の感覚の大きな違いがここに来て明確になっていく。
それは……じんわりと……特に、異性に対して非常に敏感で、いつか自分も熱烈な恋愛をして……という夢見がちな乙女達には……じんわりと、大ダメージを与えることになる。
そういう経験が無くとも判るのだ。運動一筋でやってきたとはいえ、これから先にそういうことが「無い」というのは、どれほど寂しいことなのだろう? 自分以外の人の温もりというのは……どれくらい自分にとって必要なモノなんだろうか? と。
その辺の細かい事情を合わせて、宇城は。だからこそ。
(絶対に……元の世界に帰る術を見つける……何が何でも……)
と、考えていた。そのためにはまず……自分達が強くなる必要がある。手がかりはこの迷宮の最奥部、六万階層以上向こうにあるのだ。先遣隊だろうが、先鋒隊だろうが、とにかく五人でパーティを組んで、迷宮を走破していかなければならない。
(今は……戦えない、動けない子達をどうすればいいかなんて、おいておこう。そもそも、希望があるかどうかも判らないのだし。でも。自分たちに掛けられている隷属の術を解除出来るだけ……っていうのは言っておいた方がいいのかな? どうなのかな?)
八頭未来が近づいて来て小さく呟いた。
「迷宮に潜る事の意味……ちゃんと説明しないとですね。……とりあえず、隷属解除が出来るかもしれないっていう部分だけでも」
宇城が頷く。
「キスも無いんですよね?」
いきなり始まった領主に質問タイムは未だに続いている。というか、領主と言うよりは、新妻質問タイムになり始めていた。
「無いな。というか、君達の世界では……口をお互いに吸うのを……普通にすると聞いたが……本当なのか? あんなにスゴイのを」
「……する……カップルは……しますね。街中とかでもしてるのを見たことあります」
「街中でか! す、すごいな……あの……その……は、発情して……その、立っていられなくなったりはしないのだろうか?」
「え? 立っていられなく……ですか?」
「その、あと……発情すると……あの、なんていうか、溢れて来てお漏らし状態になるというか……」
(杜谷さん……そんなキスしてるんだ……)
(キスで立っていられなくなるって……なにそれ)
(何それ? ってえ? お漏らしって……え?)
(!!!!!!!!!)
「え? え? おも、おもら……」
新妻弄りは……酷い方向に進み……食堂にいた全員が顔を真っ赤にして俯くという……事態に突入。給仕の小間使いが入ってきて、片付けを始めるまで、それは続いた。
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