0412:竜巻

 壁。石積みの三メートルくらいの壁中央に門が出来ている。木と鉄で出来た門は……確かにノルドに相応しくない。ところどころ、鉄、金属製の補強具が入っているのも……。


「ノルドとヒームの建造物の違いは、まずは石。ノルドは石の建造物はほぼ作らない。土台に使用することはあるがな。それも土の魔術で行う。切り出したりしない。さらに……あの門の様に木と鉄を組み合わせた扉もじゃ。金属は使う。実用品として忌み嫌っているわけではない。が。大きく使うことはない。鉄は朽ちると錆びて、森を穢すからな。それはガギルも同じじゃ。ガギルは鉱山で金属を扱うにも関わらず、森を穢す様な大規模な物は作らない」


「つまり……この集落はノルドであってノルドで無い」


「そうじゃな。これは……絶縁では済まぬかもしれん」


 絶縁は南ノルドでオーベさんが言った、ノルドを名乗らせぬ。放浪者として生きよ! ってヤツだ。あれをハイノルドにされてしまうと、ノルドは森で暮らせなくなってしまう。実際に集落に張り巡らされた結界の様なモノが消えてしまうのだ。すると、当然だが、魔物や危険な動物に襲われるようになる。森の中で常にそれらの脅威に怯えながら暮らすのは実質無理ということだ。


 閉ざされた集落の入口に対して、正面に……オーベさんが立つ。


ドンッ!


 低い……重低音。大きな太鼓の音のような何かが響いた。漫画の様に判りやすい効果線は無かったが、肌で感じるこの重圧は……さりげなく、俺のちょい前でミスハルが片膝を付いて、頭を垂れている。これまでにも何度か感じているが、これがハイノルドの威圧ってヤツだ。


「何か言い訳があるのなら言ってみよ……ノルドの誇りを捨てし者たちよ」


 大きな声……ではない。だが。風の魔術を使ったのか、オーベさんの言葉が、広範囲に響いた。多分、あの壁の向こうにも明確に届いているハズだ。


 しばらく経過した……が。何も返答は無かった。と。壁の向こうで何かが動いた。


シャッシャシャッ! シャシシャシシャ!


 矢か! 大量の矢が壁越し、弓なりにこちらに飛んでくる。


「それが答えじゃな? 何も命を寄越せというわけでない、ノルドとしての生き方をやめよというだけのこと。矢をもってその答えとするのであれば……それは自らの命を賭けるという事じゃな?」


 オーベさんの声が……冷徹に、鋭く。心を抉る。仲間で、責められていない俺でもグッとくるんだから……これはノルドはとんでもないダメージを受けているに違いない。現に、ミスハルは顔が緊張している。


「多分、あの集落にはかなりの数のヒームがいますね……」


「ええ。ノルドはよほどの強者でない限り、ハイノルドに攻撃出来るものではないから」


 ということはあそこにいるのはモールマリア王国の兵だろう。騎士ということもあるかもしれない。ここはノルドではなく、モールマリアの都市のひとつと思った方がいいのだろう。


グュオッ!


 風が唸って、空間をねじ曲げた。ああ、多分……オーベさんが怒っている。無詠唱で起こした風の塊が、飛んで来た矢を全て叩き落とした。


「ふん」


ゴグン!


 変な……音が。重量のある何かがぶつかり合うような、重い音が響いた。ビシビシという音と共に……石壁が……崩れ落ちていく。残っているのは木の門、木に鉄で補強の入った門扉のみ。


 一瞬濛々とした埃が舞った。崩れた石の細かい破片が視界を覆う。さらに突風が吹き荒れる。


 埃を強引に晴らしたのだ。そこに見えたのは何とか陣形を組み直した……ヒームの騎士団らしき集団が……門の左右に展開していた。さらに……ノルドらしき姿も数名見えている。あのプレッシャーの中、自分の意志で行動しているのだから、かなりのものだ。


「うむ。もはや言い訳は通じぬと悟ったか。だからといって命を差し出せとは言っていないのだがな。ならば良い。全て死ね。欲に固執し誇りを捨てたノルドなど、ノルドでは無い」


 ガチャガチャと音を立てて……大盾を持った全身鎧の騎士が前に移動し始める。とにかくオーベさんをを仕留めることにしたのだろう。ミスハルと俺はまだ少し離れた森の中だ。


「くくく。「召喚妃」も舐められたものじゃな……目の前で陣形を整えようとされるなど……」


 またも! 無詠唱で……大量の風が生み出された。また……か。多分……オーベさんはノルドの魔術……風属性の魔術のみでやるつもりだ。


「後悔せよ……」


 オーベさんの放った風の塊が……手から離れたと同時に……強力な回転を始めた。竜巻。それが……動き始める。その上。それが一つではない。次々と……包囲陣形を取ろうしていた騎士達に襲いかかっていく。


「ぐわあかかかかああぁぁぁあ!」


 細い竜巻は威力が弱いようでその実、凄まじい切り裂き能力を持っていたようだ。金属製……多分、鉄製の大盾が切り刻まれて使い物にならなくなった瞬間、それを支えていた騎士の腕も落ちる。さらに、既に身体が斬り刻まれ、大量の血を流している者も多い。


 ただの竜巻じゃ無い。吹き飛ばされる前に斬り刻まれるなんて。


 斬り刻まれた血が、その竜巻の刃となったかのように、血風となってさらに奥にいる者達をバラバラにしていく。


ガラガラゴゴゴゴゴゴゴッゴッゴ!


 瓦礫。先ほど崩れた石壁の瓦礫や材木も竜巻に斬り刻まれて、舞い上がる。質量を得た竜巻はさらに生み出されて後から加わる竜巻によって大きな暴力に変わっていく。


 ひとしきり……十分程度の時間だろうか? した後。オーベさんが大きな風で再度埃を払う。


 そこには……何も無かった。黒いシミ……が血だろうか? 集落の入口周辺の建物は一掃され……更地となり。瓦礫も周囲に撒き散らかされている。異常に視界が広がった。奥に建物が半壊しているが見える。


 見えていた騎士の数は……多分、三十以上。多分、全滅だろう。立っている者はいない。


 少し心配になって駆けつける。……近づいて見たオーベさんの顔色に変化は無く……瞳には何も映していなかった。







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