0410:ゆめのくに
「厭世的……って言葉にイイ思い出がないんですが。自分」
「ああ、私もないな」
「厭世的ってなんですか?」
ミスハル的な反応が普通なのだろう。使わないよね。厭世的って言葉。
「この世界で……生きることを放棄するということだ。何もかもがどうでもよくなり、どんな事にも反応しなくなってしまう。ヒームやガギルにはあまり聞かないが……ヒームに比べると長い時間を生きるノルドでは良くある話だ。特に苛烈な生き方をしたことがある者が陥る事が多い」
「そう……言われてみれば。ええ。私の村にも……部屋から出てこない長老が……」
「ああ。年寄りは脆いからね……どうしても翻弄されるね。それこそ、孫が死んだとか、そういうことで引き籠もってしまうことも多い」
「そんな者達が手を出しやすいのが……禁断の薬だ」
「禁薬……」
「ああ。そして……その中に「楽園」に連れて行く……と言われていた草がある。草を乾燥させ砕き、紙で巻き吸う。すると意識を失い、その者は自らの望んだ夢の世界へ誘うという」
ああ、まんま……麻薬系の草か。ということは常習性、中毒性、依存症を伴う……のかな?
「それはやり始めると、止められない?」
「ああ。そうじゃな。我が主の世界にもあるのか」
「ええ。ありますね。所持しているだけでも犯罪者として逮捕されます」
「この世界でも……過去に禁止していた国もあったが効果が無くてな。それよりも当時の賢王達に協力して、その草、ジガラス草に反応する魔道具を使用して群生地を発見し、尽く燃やされたと言われている。今ではほぼ見かけん」
「それが……この森域にある……と?」
「そうじゃな……ノルドはそう冗談や……揶揄した言葉を使わん。楽園だと言うのであれば、本当に楽園があるのだろう。そしてノルドが使う楽園という言葉は……その草を指す場合が多いのだよ」
そりゃ……確定的かな。
「ならば、どうします?」
「尽く燃やす。というか、その南ノルドの集落を潰してでも燃やし尽くす」
「はい、判りました」
ハイノルドであるオーベさん、さらに外交官として様々な集落を訪れているミスハルにとって、この森域に張り巡らされたノルドの通り路は判りやすかったようだ。一瞬の迷いも無く森の中を走り抜けていく。とりあえず、俺は若干遅くなるがついて行っている。二人が合わせてくれてるんだろうけど、かなりのスピードだ。
丸一日……走り続けた辺りでミスハルが足を止めた。
「この……匂いは……」
「ああ、ジガラス草だ」
なんていうか……妙にイイ匂い……が鼻をくすぐる。ラベンダーでもないし、クチナシとかでもない。
森の少々開けた場所に……変にクッキリとした緑色の植物が生えていた。群生している……にしてはかなり広範囲で根付いている様だ。
「そしてあの奥に見えるのは集落……ですよね」
「そうじゃな……」
この草畑……の向こうに、ノルドの集落が見えている。まずは……状況の確認だ。
「では……お主達は使用していないということか?」
「は、はい……我々はアレが禁薬になるコトを知っております」
集落で初っぱなにハイノルドとしての力を全力発信したオーベさんは、いきなりの総土下座で迎えられた。ってさ。それさ、なんか後ろめたいこと……あるよね。
「そうか。使用はしていない……が。アレを売ったな? 普通にしていては、ああは育たない。意図して育てているのだろう? それで自分たちで使っていないという事は……ヒームの……ここだとモールマリアに売ったか」
図星だったのだろう。南ノルドの集落の長がガタガタと震え始める。
「この集落、ここまで奥地にあるにも関わらず、物に困っておらぬようだしな」
「ええ、ノルドではなく、ヒームの街で使われている道具も多く入ってきているようです」
「我が主、こいつらは全て放浪者とする。今回は止めるなよ?」
「うん、まあ、そうですね。止めようがないよね」
「キサマら、オブルイットの森域、南オブルのノルドは今後、ノルドを名乗らせぬ。放浪者として生きよ!」
「は、ははぁ……!」
麻薬系はね……どうにもね。さらにそれで儲けてたって……俺らの世界のヤバイ商人そのままじゃん……。庇いようがない。
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